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リオネル・クローネル(21)

 どの遺伝子を書き換えればリオネル・クローネルの能力をスポイルさせずに、生殖能力のある女性のクローンにできるか。およそ30,000個にも及ぶ遺伝子の中から最適解を探し出すことができたリオネルとユルティムだったが、二人が出来たのは思考実験のみだ。リオネルがまだ禁固刑に服役している以上、実践はまだ難しかった。せめてリオネルの刑期が終えた後であれば。

 しかし二人の願いは予想もしていないところから裏切られることとなる。

 多様性を目的とした第六世代のクローンの一人が思想家となっていたのだが、彼が内部告発をした上で焼身自殺をしたのだ。

「エクセルシオン・バイオメディカルは、遺伝子操作でこの世に作られた、ヒトならざる者の手によって作られた悪魔の会社である。自然界に背き、神に取って代わらんとする悪魔は、人類を滅ぼそうと企んでいる。このような悪魔の所業を、私は許すことが出来ない。そして悪魔の手によって悪魔のクローンとして産まれた私自身も、私は決して許すことが出来ない」

 彼の遺言であった。

 エクセル・バイオの存在そのものを揺るがす大スキャンダル。ユルティム他、各世代のクローンたちは火消しに奔走する。

 さらに追い打ちをかけるように、スポーツ選手として大成できなかったクローンのドナーが「私は脅されてクローネル氏の実験の片棒を担がされた」とリオネルを告発してきたのだった。獄中にもかかわらず、服役中のリオネルからコメントを引き出そうと殺到するマスコミ。

ユルティムたちの奮闘の甲斐もあって、ドナーの告発はエクセル・バイオの敵対企業からの買収工作だということを暴くことはできた。第二世代のクローンが育てた裏組織の暗躍も、解決に一役買っていた。

 だが思想家になったクローンの内部告発は、エクセル・バイオも無傷ではいられなかった。リオネルの研究成果でもある人間のクローンの記録の押収と破棄。そして刑の追加により、リオネルの禁固刑が10年延びてしまったのだ。

 リオネルの心が折れてしまったかのように、リオネルは脳腫瘍と心臓病を併発してしまう。脳腫瘍はすぐに命にかかわるものではなかったが、心臓の方は「余命3年」との診断だった。

 内部告発により、リオネルの体外育成カプセルにて育てられたリオネルのクローンも破棄してしまった。リオネルの心臓移植は不可能となってしまったのである。

 自分の世代から出た不始末に責任を感じた第六世代のクローンの一人が「自分の心臓を使え」とリオネルに嘆願した。「私もリオネル様のクローンなのだ。少々ロートルではあるが、まだ20年は持つはずだ」と。リオネルは感謝から来る一筋の涙を流しながらも、第六世代のクローンの申し出を丁重に断った。

「息子の命を犠牲にしてまで『生きたい』と願う親がどこにいる?・・・気持ちだけで十分だ」

 リオネルは穏やかに笑った。



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