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新規参入

 西暦2381年。エンリコンR社は「ブラックホールジェネレーター(Black Hole Generator:BHG)」を発表した。同時にブラックホールジェネレーター搭載新型原子力発電機「Hybrid Nuclear Power Generator UNIT:HNPG-UNIT」の先行予約販売の受付を開始した。

 2323年に「重力子の実用化」から50年以上の月日を経て、ようやくブラックホール事業が商用化されたのである。


 ブラックホールエンジン「オッドボール」、ブラックホールジェネレーター搭載型原子力発電機「HNPG-UNIT」と立て続けにブラックホール事業に結果が出たことで、新規参入企業、及び団体が一気に増えた。

 特に企業の目の色が違う。

 ブラックホール事業に企業として最初から参加していたのは「グラビテック社」「エンリコン社」「エーコアール社」の3社だけであった。しかし「グラビテック社」はグラビウム製造へと舵を切り替えた。「エンリコン社」と「エーコアール社」は合併し、ブラックホールジェネレーターを製品化させた。つまり最初から参加していた企業は、重力コントローラを動かすブラックホールエンジン事業から全て撤退したということになる。

 「オッドボール」を完成させた「G-LABO」に、技術開発プラント「FEDF」を設立させたフュージョンエナジーテクノロジーズ(通称F・E(エフイー))が、今後は「オッドボール」の改良の主体となるだろう。言わばブラックホールエンジンの商用化に関しては「一人勝ち」の状態だ。利に聡い企業が指を咥えて見ているはずがなかった。


 ブラックホール事業新規参入を画策する企業は様々だが、高度な技術と科学力、宇宙空間での研究開発など要求される能力の敷居は高い。一企業どころか超巨大コングロマリット企業グループでも、他企業や他団体など業界を越えた協力がなければ参入は難しかった。各大手企業は自分たちに足りない能力を補うべく、M&Aや提携、子会社設立などの道を模索する。各企業各団体の野心と思惑が交錯し、地球上の地理関係とは無関係でダイナミックな組織改編が為されていった。


 セレスティア・ロジスティックス・コーポレーション (Celestia Logistics Corporation:通称セレス・ロジ)は宇宙と地球を繋ぐ宇宙物流の大手企業だ。宇宙鉱物資源の探査・開発にも力を入れており、将来の宇宙探索のリーダーを目指していた。当然ブラックホールエンジン構想は宇宙船開発には欠かせないものと位置付けている。高重圧力加工技術の獲得も狙っており、早々にアストロテック社(AstroTech Corporation)をM&Aによりグループ化していた。アストロテック社は元々宇宙探査と資源開発に特化していて、グラビテック社設立前にスミス重工業がM&Aを画策した企業だ。グラビテック社が「グラビウム」発表の前から高重圧力加工技術に取り組んでいて、すでにベリリウムを素材とした「アストリウム99」を製品化している。セレス・ロジは自社のロケットエンジンに核融合ジェネレータを装備しているためエネルギー分野にも強く、ブラックホールエンジン開発の最右力と目されていた。


 2333年に「ブラックホール生成理論」をIGSと共同発表した量子重力学連合(Quantum Gravity Union, QGU)は、かつての勢いを失っていた。ブラックホール生成で協力したグラビテック社もエンリコン社もエーコアール社も、事実上ブラックホールエンジンからは撤退している。ライバルである国際素粒子物理学協会(IAPP)は「重力コントローラ理論」を確立し発表した。ブラックホール事業に於いて大きな成果を出せていないのも事実だ。巻き返しを図るべくクォンタム・エンジンリサーチ(Quantum Engine Research)に働きかける。クォンタム・エンジンリサーチ社は量子重力学連合が昔から研究用機材の開発の依頼をしていた企業で、量子力学的なアプローチを取り入れ高精度で効率的なエネルギー変換を実現する技術を擁していた。さらにグローバルエネルギーコーポレーション(Global Energy Corporation通称:グローバルエナジー)の協力も取り付ける。グローバルエナジーは大規模な熱核融合プラントを運営し、エネルギーの大量生産を行っている核融合エネルギー業界トップで、資金力もシェアもF・E(エフイー)を凌ぐメジャー企業だ。グローバルエナジーとしてもブラックホール事業参入のチャンスは伺っていたので、両者の思惑が一致したプロジェクトだった。


 新規参入企業のうち、異色なのがアストラル・テクノロジーズ (Astral Technologies Corporation通称:Aテック)だ。Aテックは軍需産業に従事する企業であり、ミサイル、戦車、戦闘機、戦艦や潜水艦など、Aテックだけで大国の軍隊を賄えるほどの兵器を生産していた。すでにブラックホール技術を軍事用途に応用し、高エネルギー兵器の開発にも着手している。宇宙空間での優位性を追求し、国家の安全保障を支える役割を果たすことを目指していた。ブラックホール事業には単体での参入となるが、業種的に協力企業は多数に及ぶ。グラビテックの親会社でもあるスミス重工業も協力企業の一つだ。大国の防衛事業も担っていることから、数カ国の国家予算も投入されている。核融合技術に関しても水爆の実績から、核融合エネルギー業界に引けを取らない。軍需産業であることから大々的な喧伝はしないものの、企業としてのポテンシャルは高く「ブラックホールエンジン」開発のダークホースと呼ばれている。


 こうして2300年代後半は「ブラックホール事業激化の時代」と後世で呼ばれることになるのである。



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