リオネル・クローネル(5)
「ふむ・・・先程からの総帥殿の話を聞く限り、魂は遺伝子とは無関係だと言える。ならばリオネル殿が遺伝子工学の最高傑作だとしても、魂まで最高ではないのだろう?彼のクローンは様々な性格を持っていたようだし。リオネル殿が普通に女性を好きになったり、家庭を持とうと思っても不思議ではないのだが?」
「リオネルは・・・リオネルには生殖能力が最初からありません。科学者たちは生殖能力をスポイルすることで、能力の底上げを試みたようです。何の代償も無く能力を最高レベルまで引き上げるというのは、科学と言えど虫のいい話なのでしょう」
リオネルは生殖能力がないことで「普通の恋愛」「普通の家庭」「普通の子育て」というものを早々に諦めた。彼がクローンに着目したのは「後世に自分の血を残したい」という至極俗物的な発想から来ていたのかもしれない。
リオネル・クローネルはクローンを5人作った後、10年データ収集に費やした。言い換えれば10年間新たなクローンを作らなかった、ということになる。遺伝子工学の科学者たちがバックに付いているとはいえ、資金繰りは別の話である。5人のクローンとは5人の子供を育てることと同じだ。最高クラスの教育には金がかかる。最高の遺伝子を持つリオネルのクローンと言えど、教育を疎かにすれば才能は開花しない。個人で研究するには金銭の負担が大きかった。
結局リオネルが次のクローンを作るのは、25年後であった。5人のクローンが成人を終えエクセル・バイオに入社し数年が経つまで、新たなクローンを作る金銭的余裕が無かったからである。
同じ遺伝子で同じ顔を持つ5人のクローンは、生年月日は違うものの五つ子のように仲が良かった。金銭的負担を軽くするために5人を一緒の部屋、同じカリキュラムで、お互いを差別することなく育てたおかげか。あるいは同じ「生殖能力が無い」というコンプレックスを抱えながらも、同じ悩みを持つ同志が常に身近にいるせいか。IQ300もあれば基本的な学力は最高クラスで、学問に関して苦手は無い。性格の違いから得意分野が微妙に違うことも、5人にとってはお互いを尊重し合えることに繋がった。オリジナルであり父親でもあるリオネルに対しても、チートと呼べる頭脳を与えてくれたことに感謝している。親ガチャで言えば「大当たり」なのだ。野心家であるリオネル・クローネルと5人のクローンが5人とも正反対の性格となったのは、リオネル本人としても意外であった。
エクセル・バイオは5人のクローンが入社すると同時に、急速に業績を上げ事業を拡大していく。IQ300を超える頭脳5人が協力し、会社を盛り立てるのである。成果が出ない訳が無かった。
5人は社内で頻繁に連絡を取り、5人の特性を生かしながら各分野で異能を発揮する。入社後3年も経たないうちに「クインテット体制」を社内で築き、社長であるリオネルをも唸らせる発想と成果を次々と成し遂げる。
リオネルは5人のクローンにエクセル・バイオを任せると決め、55歳にして引退するのである。