リオネル・クローネル(3)
「しかし・・・人間のクローンから撤退することに、出資者からはクレームは無かったのか?」
「撤退はしていませんよ。あくまでも『凍結』です。それに凍結したのは『エクセル・バイオとして』です」
「・・・どういうことだ?」
「会社として、事業としての『人間のクローン研究の凍結』をしただけです。リオネル・クローネルは個人の研究として、人間のクローン研究は続けていました。・・・自身のクローンを作ることによって」
クローンを作るにはレシピエント卵子が重要となってくる。つまりドナーの遺伝子を移植する「除核卵」の質、ということである。動物のクローンの場合でもレシピエントの質は重要で「若くて健康的」「遺伝的疾患や染色体異常を持たない」「ストレスの少ない育ち方」「汚染物質や有害物質にさらされていない環境」などが重視された。
人間のクローンも同じである。リオネルは若くて健康的で田舎育ち、そして酒もタバコも嗜まない女性を、あらゆるコネを使い集めた。集められた女性たちは様々な検査で徹底的に遺伝子を調べられ、レシピエントとして厳選された。エクセル・バイオ本社のある島国は一夫多妻が認められていることを利用し、リオネルはレシピエントとして選ばれた若い女性全てと婚姻関係を結んだのである。
リオネルは妻となった女性の子宮にクローンの胚を着床させ妊娠出産をさせるのだが、傍目には体外受精による妊娠出産と何ら変わりはない。こうしてリオネルは自身のクローンを我が子とした上で、人間のクローン研究を進めていくのである。
「・・・倫理的にどうかとは思うが、合法的ということか」
「レシピエントに選ばれた女性たちも、無事にリオネルのクローンを出産すれば社長夫人になれるのですから、不満はなかったようです。あくまでも『無事に出産できれば』ですが」
「・・・無事に出産できなければ、どうなる?」
「わずかな慰謝料にて離縁されます。まあ、致し方ないことかと」
「なかなか世知辛いな」
「最初は20人以上の妻がいたと言いますから。出産してからの婚姻ではなく、レシピエントに選ばれた時点で婚姻しているだけ『人道的』といえるのではないですか?」
「・・・そこは笑うところなのかな?」
「・・・ご自由に」
リオネル・クローネルのクローンだが初年度は5人が無事に出産できた。しかし3人は1歳を待たずして病気により死亡してしまった。リオネルは残った二人に全く同じ、乳幼児からの英才教育を施す。身体的資質の同じクローンが、性格によってどのような違いが出るかを検証するためだ。さらに次年度に無事乳幼児を経ることが出来た3人にも同様に、同じ英才教育を施していく。
レシピエントの候補も少なくなったことで、リオネルはここでインターバルを開けることにした。
同世代5人に同じ英才教育を施した結果がある程度判明した。性格による資質の発現は大きく違うこととなり、リオネルのクローンでありながらリオネルが持ち合わせていない才能が開花する者もいたのである。
リオネルは全てのクローンの妊娠から出産までの詳細を解析し、人間のクローン研究の深度を極めていくこととなった。