表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/405

ヴィクトール・クローネル(2)   

 お互いが黙ったまま、時間だけが過ぎていく。紅茶はすっかり空になり、おかわりが注がれるわけでもない。ヴィクトールは時折足を組み替え、頬杖をついたり髪をかき上げたりと度々姿勢を変える。ヘイゼルは泰然自若とばかりにソファーに深く腰掛け、足を組んだままでいた。

「・・・何を考えているのですか?」

 口を開いたのはヴィクトールの方だ。

「・・・そのセリフは私が言いたいですね」

「・・・ヘイゼルならば、私が考えていることぐらい読めるでしょう?」

「総帥殿にESPは使いませんよ。失礼に値するので」

「意味もわからないまま、座っていたのですか?私はヘイゼルを試したようなものですよ?怒ってもおかしくないところです」

「総帥殿ならば、必ず真意を告げてくれると信じていたので」

「・・・紅茶を淹れなおしましょう」

 ヴィクトールは立ち上がり、書斎の一角にある棚のガラス戸を開ける。

「・・・ヘイゼルの中のグレイを探していました」

 背中越しにポツリとヴィクトールが呟く。ヘイゼルは何も言わずに手を組みながら腹の上に置き、ソファーに身を埋めながら目を瞑る。

 カチャリと静かな音と共に、ヘイゼルの前に紅茶が置かれた。

「・・・何故、私を仲間に受け入れたのですか?私は総帥殿の大切な人を二人とも奪っています。恨まない方が不思議だ」

「何故・・・?難しいですね。明確な理由は私の中には見つかりません。ただ・・・恨んではいません。あなたにとって二人を殺めたのは、目的ではなく手段ですから。目的と手段は、たとえ同じことをしても意味は変わります」

 未来視(Foresight=フォアサイト)による導き。フェノーメノ・モンストローゾがヴィクトールの仲間になるために、必要なヴィジョンではあった。

「ある意味で言えば、あなたは誠実です。目的のために躊躇うことなく手段を遂行する。私の目の前でまざまざと見せつけられた時、私はあなたを『欲しい』と思ってしまったのです」

「私は総帥殿も殺そうとした」

「それも手段でしょう?」

「敵だったのですよ?仲間にした上で、裏切られるとは思わなかったのですか?」

「あなたには嘘がありません。騙したり嘘を吐く必要がないほど強いからです。あなたが裏切るときは、堂々と宣言した上で敵に回ることでしょう」

 ヘイゼルが口を半開きにしたまま、固まっている。ヴィクトール・クローネルという人物の本質を見抜く目は本物だ。

「私は化け物の類です。怖ろしいとは思わないのですか?」

「あなたには知性も理性も備わっています。出自は関係ありません」

 ヴィクトールはヘイゼルを、いやフェノーメノ・モンストローゾを対等な「人間」として見ている。・・・初めてのことだった。

「そこまで驚くことはありませんよ。私も・・・私も『普通』ではないのです。・・・むしろあなたの側に近い」

「どういうことです?」

「私はエクセル・バイオ初代社長『リオネル・クローネル』のクローンとして生まれたのです。普通の人間ではありません」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ