ゼーの相談(3)
「アタシに『分体』を教えてほしい」
ヘイゼルは片眉をピクリと動かす。ゼーは理由を促しているのだと感じた。
「アタシと洋子は『裏と表』だ。アタシが表に出ている時、洋子は裏からアタシを見ている。だから自分の価値がわからないんだ。分体を出せれば、アタシと洋子は同時にいることができる。二人が横に並び立つことができるだろ?」
ゼーの頼みに、ヘイゼルは一つ大きなため息を吐く。
「私の魂は十数人の同胞の魂の集合体だ。さらに暗殺稼業で多数の魂を喰らった」
「・・・だから『分体』を作れるということか?」
「私は元々数十人分の魂なのだ。分体とはその中から一人分の魂を分裂させただけなのだよ。普通の人間、つまり一人分の魂を分裂させることは、できないとは言わないが極めて難しいだろうな」
「一人分の魂だから難しいのだろ?だったら二人分でも三人分でも魂を増やせばいい、ということだよな?他人の魂を喰らえばいいのか?」
「簡単に言ってくれる。他人の魂を喰らうということは・・・人殺しをするということだぞ?」
「洋子のためなら人を殺すことなど、造作もない。やってやるさ」
「やめておいた方がいい。『魂を喰らうこと』と『人を殺すこと』は似ているようでまるで違う。人を殺したところで魂を喰えるわけではない。魂を喰らうには、相手の肉体に入り込み相手の魂を覆いつくすように一気に喰らいつくすのだ。結果として相手を殺すことになるだけなのだよ」
「幽体離脱して相手の肉体に入り込めばいいんだな?」
「普通は相手の肉体に入り込むことはできないぞ。相手の魂が弱っている時か、こちらの魂が強力でなければ入り込むことができない。しかも失敗すれば、自分が相手に喰われることになる」
「つまりヘイゼルさんの専売特許ということか。・・・アタシには無理ってことだな」
ゼーは目に見えるほど落胆している。ヘイゼルはゼーを励ますような笑顔を作った。
「悲観することは無い。他にも手はある」
ヘイゼルの全身から白い靄が沸き立ち、一塊となる。
「これはこの体の持ち主である、グレイ君を目覚めさせた時に使った手法だ。私の記憶を引き継ぐことになるが、耐えてほしい」
白い靄の塊が、スーッとゼーの体に吸い込まれていく。
「!!」
ゼーが驚愕に青ざめ、苦しみ、跪き・・・やがて吐いた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ったく、とんでもないモノを喰らわせやがって・・・」
ゼーは口元に付いた吐瀉物を拭いながら、ヘイゼルを睨むようにして笑う。ハンカチを差し出しながら、ヘイゼルは笑顔を返した。
「私の魂である分体を君に喰らわせた。時間を掛けてこれを繰り返せば、いずれ分体も作れるようになるだろう」