ゼーの相談(2)
言い淀んでいるゼーに、ヘイゼルがきっかけを与える。
「洋子のことだろう?最近は元気がないようだから」
「・・・アンタ、ホントよく見てるな」
ゼーが溜息交じりに笑い、すぐに真顔になった。
「アタシが洋子を守るために生まれたのは知ってるよな?洋子は本来なら二重人格になるような性格の人間じゃない。明るくて、忘れっぽくて、でも気にしない。努力とか勉強とか嫌いで、快楽に溺れやすい。何かに魂を詰めて、思い悩むタイプじゃあない」
ヘイゼルは黙って頷く。
「洋子が思い悩んで、追い詰められて、体張ったのは、洋子の人生で一度だけだ。・・・でも・・・そのたった一度で・・・洋子は壊れちまった。アタシは・・・洋子を守るために・・・生まれた」
気が付けばゼーが大粒の涙を流し始めている。ゼーが泣くなど初めてのことではないか?
「・・・おかしいだろ?アタシが悩むなんて。・・・有り得ないだろ?アタシが泣くなんて」
ヘイゼルは驚愕していた。副人格は主人格の隠れた性格になることが多い。喜怒哀楽が豊かな佐藤洋子は怒ることだけが苦手だ。故に副人格であるゼーは常に怒っている。本当は努力したいけど誘惑に負ける洋子に対し、ゼーはストイックだ。洋子とゼーは一つの人格なのだから、相反して当たり前。二人で一つなのだから。
しかし今のゼーは違う。悩み、泣き、笑う。普通の人格のように・・・
「・・・洋子が消えようとしている」
「どういうことだ?」
「ある意味で、アタシは洋子の理想になっちまった。ヴィクトールの役に立っているのは、アタシのおかげだと思うようになっちまった。最初はただのコンプレックスだけだったのに、次第に『敵わない』と思い始め、最近は諦めだした。洋子は自分よりもアタシの方が主人格になるべきだと思ってるんだよ」
ヘイゼルは溜息が出そうになる。洋子の勘違いも甚だしい。彼女は「自分に価値がない」と思っているのだろう。佐藤洋子の天真爛漫さは、ムードメーカーとしての役割を十二分に果たしている。ヴィクトールが佐藤洋子を重用しているのも、彼女の明るい性格が無くてはならないものだからだ。・・・困ったものだ。
「アタシも何度も言った。『洋子は今のままでもヴィクトールの役に立っている』と。・・・でも、洋子がなりたいのはムードメーカーじゃない。アタシのようになりたいのさ。・・・だからあたしを主人格にしようとしている。自分が消えることによって・・・」
「・・・で?」
ヘイゼルの一言に、ゼーは思考が止まる。
「愚痴を言いたかっただけではないのだろう?私に何をしてほしいのだ?」
「・・・ああ。・・・そうだったな」
いつも冷静なはずのゼーが、本題を忘れていた。早急に何とかしてやりたいところだが、これは本人たちの問題だ。周囲が励ませばいいという単純な話ではない。
「ヘイゼルさん、アンタに頼みがある」
ゼーが姿勢を正す。
「アタシに『分体』を教えてほしい」