捜索(1)
「3G『レイヴェンジャー』が行方不明」
超大国の上層部に激震が走る。
満を持して実戦投入された「レイヴェンジャー」が敵の領空圏内に侵入後、連絡を絶ち帰還しなかったのだ。この一報は上層部と軍の一部のみに共有され、全貌は秘匿された。大々的に喧伝した「レイヴェンジャー」が、初戦で行方不明になったなどあってはならないからだ。
帰投した少尉からの話では敵と交戦になったという。ならば帰還しない理由は撃墜されたか拿捕されたか。仮に撃墜されたのであれば、魂は肉体に還るはずだ。しかし報告ではダイバーの魂は帰ってはいない。
では拿捕されたのか?あのレイヴェンジャーをどうやって拿捕するというのか?光に近い速度で移動可能なGBUシステム搭載のレイヴェンジャーが捕らえられるはずがない。しかも行方不明機には「Gナックル」も武装していた。撃墜ならともかく、空中でレイヴェンジャーを捕獲できる航空機など考えられない。
超大国は外交筋を通して情報を得ようとした。しかしエクセル・バイオの本社を抱える人口3千人ほどの島国は、超大国からの情報開示の要請を拒否した。曰く「領空侵犯の事実はない」と。間違いなくエクセル・バイオの指示であろう。
業を煮やした超大国は諜報部に「行方不明となったレイヴェンジャーの捜索」を命じた。
諜報部のエースと呼ばれている「ジェームス・セメダイン」は、星明りしかない新月の夜の海岸を上陸していた。着ていたウェットスーツと水中スクーターを岩陰に隠しながら、周囲を警戒する。幸いなことに誰にも気づかれていないようだ。ジェームスは腕時計に仕込まれた通信機で報告をする。。暗号化が容易く、傍受されても解読されにくい古典的なモールス信号だ。「上陸に成功」とだけ送信した。
諜報部は島への潜入にかなり苦労をしていた。旅行者の受け入れどころか貿易すらしない鎖国状態のこの島国には、旅行者や仕事と偽って入国することは不可能だった。
偽装したプライベートヨットにて潜入を試みた者は、海上警察に銃で追い返された。
領海内で偽装漁船をわざと沈没させて海上警察に救助を依頼した者は、上陸することなく国外追放として他国の船に引き取られている。
惜しかったのはパラグライダーで空からの侵入を試みた者だった。EEZ(排他的経済水域)を主張しないこの国の領海は12海里(22.224㎞)しかない。領海ギリギリに停泊した艦船から夜間飛行したパラグライダーでの上陸を目指したのだが、上陸寸前に原因不明の墜落をしてしまい海上警察に不法入国として逮捕されてしまったのだ。敵には超能力者がいるとの情報もあるので、おそらく彼らの仕業に違いない。
ジェームスは海中から侵入したので見つからなかったのだろう。海中ならば大型の魚類との区別がつきにくいからだ。
報告を終えたジェームスはTシャツに短パンというラフなスタイルとなった。多数民族の混血であるジェームスは何人にも見える。潜入は得意としていた。この国の住人は釣りを趣味としている者が多いとの情報も得ている。あらかじめ用意した釣り道具を片手に、明け方に何食わぬ顔で街への侵入を試みた。
明け方の表通り、人の姿はまばらだ。すれ違う人は誰もジェームスに興味を示さない。服装も自分と似たようなラフな格好、釣り道具を手にしている者も見受けられる。これならば潜入もうまくいくだろう。問題はここからどうやってエクセル・バイオへ潜入するかなのだが・・・
「おじさん」
ジェームスは5才ぐらいの幼女に声を掛けられた。
「おじさんはだれ?よそのくにからきたひと?」
「ハハハ・・・おじさんはこの街の人じゃないけど、この国の人だよ」
「うそだ!!あたし、おじさんのかお、しらないもん!!あたし、このしまのひと、ぜんいんしってるもん!!」
「な・・・に・・・?」
気が付くとジェームスは数十人の男たちに囲まれていた。