人類初のブラックホールエンジン
西暦2380年、G-LABOはついに人類初のブラックホールエンジンの作製に成功した。
G-LABOとは地球軌道上、太陽を挟んで地球の真裏にあるラグランジュポイントの通称である。ここにはグラビサイエンス研究所と未来エネルギー研究連盟の共同宇宙ステーション「グラビサイエンス・エネルギーコア研究所(通称GECRI)」とフュージョンエナジーテクノロジーズの技術開発プラント「フュージョンエナジー・デバイスファクトリー」とグラビテック社のグラビウム製造プラントが併設されていた。直径10mの研究用ウォールカプセルが多数浮かぶ中、一際大きな球体が浮かんでいた。
人類初のブラックホールエンジン。
直径60mのモリブデン合金製のウォールカプセルがメインユニットで、外壁には重力軽減効果90%のグラビウムFe90を粉末化し塗布してある。直径約0.6m・表面積1.105㎡・質量10,000トンのブラックホールを中心部に内蔵。
ウォールカプセル内壁にはナノメッシュ加工したグラビウムSi95による重力子パネル(重力子集積膜)を三層構造で敷き詰められており、放出された重力子の99.9875%を集積し重力エネルギーとして利用することが可能。
なお集積された重力子は、現状では電気のバッテリーのように蓄積させることが出来ないので、グラビウムCu80製の重力子配線を介して重力子エネルギー還元機へと伝導される。
重力子エネルギー還元機とは重力子をエネルギーに還元する装置である。本来であればここに重力コントローラが設置されるが、重力コントローラは未完成。
ウォールカプセルの周囲には20基の熱核融合炉が設置されているが起動時に使用されるのみで、連続使用時は重力子エネルギー還元機より得たエネルギーにより重力線を照射する。
ブラックホールは重力線を1m㎡(0.0001㎡)照射すると10%×表面積の重力子を放出するので、10,000GD/s(0.0001㎡なので、1GD/sに相当する)の照射に付き約1,100GD/sの重力子を得ることになる。
外部への重力子による影響であるが、重力子はブラックホール表面積から放射状に拡散するためにウォールカプセル内壁到達時には約1/10,000に減衰される(ウォールカプセル内壁面積は11,304㎡)。重力子パネルにより99.9875%は集積され、外壁によりさらに90%軽減されるので、外部に漏れる重力線は内壁到達重力線のわずか0.11%である。これはブラックホールが10,000GD/sの重力子を放出しても、外部には0,11GD/sしか漏れないことを意味する。ブラックホールから放出された重力子が放射状に拡散される特性から、ブラックホールエンジンから離れれば離れるほど外部への影響は軽微となる。
人類初のブラックホールエンジンは「オッドボール(Oddball:異色)」と名付けられた。奇妙な名前ではあるが、これはナカオカ博士の二つ名でもある「変人」に因んだものだ。重力子の父でもあるナカオカ博士への敬意が籠められた名称であった。