3G解析(2)
エクセル・バイオ本社地下のビデオルーム。超大国による3Gの公開デモンストレーションを解析するために、ヴィクトールは信頼する主要メンバーを招いていた。公開された映像の他に観客に紛れたヘイゼルの部下「永遠の輝き団(Hermetic Order of Eternal Radiance)」の団員が撮影した映像や、ハッキング集団「ノマドス(Nomads=遊牧民)」がNSSDAのデータベースに侵入して取得した試験データなどから3Gの解析をするのが目的だ。解析とはいってもスペックデータなど数字は必要なく、3Gの可能性や超大国の方向性を探るのが目的である。
メインモニターには公開映像が流れ、周囲の多数のサブモニターには団員の撮影した別角度の映像、ノマドスが入手したスペックデータが映し出されている。
「この『ヴェストメン(vestmen)』はGBUシステムも霊子レーダーも装備されていないということですので、見方を変えれば我が社の『ホムンクルス計画』が実現したようなものですね」
エクセル・バイオの「ホムンクルス計画」とは大型の人型ロボットに万能憑依型クローン「ホムンクルス」の人体組織を融合させ、人間のような繊細な感覚を備えた大型ロボット作製計画だ。エクセル・バイオが名付けた「ホムンクルス」とは霊媒体質者のクローンのことであり、具体的には「佐藤洋子のクローン」のことである。計画そのものはいつでも実現できるところまで煮詰まっているものの、未だに実行はされていない。クローンの母体である佐藤洋子が高いESP能力と鋭い霊感を持つことで、クローンへの憑依者の感情をフィードバックしてしまうのが理由だ。佐藤洋子の二重人格である「ゼー」が憑依者のフィードバックを多少は緩和出来るものの、最終的には何十万単位で運用予定の「ホムンクルス計画」の実現にはクリアしなければならない課題がまだまだ残っている。ヴィクトールと主要メンバーは「ホムンクルス計画」と比較するようにヴェストメンの公開デモンストレーションを見つめていた。
「・・・『ホムンクルス計画』の軌道修正をしましょう。大型ロボット化は無意味のようです。実利がありません」
ヴィクトールが呟くと、ヘイゼル・ブランカも同意した。
「このヴェストメンというものは、派手さはありますが実用性は感じませんね。『客寄せパンダ』として十分な効果はありそうですが、我がエクセル・バイオには必要のないものでしょう」
「そうですね、ヴェストメンの場合は服装を全部専用で作っているわけですが、実用的に運用させるなら道具も一から作る必要が出てきます。道具使用を前提に考えるならば、ホムンクルスのサイズは大型ロボットよりも人間と同サイズの方が運用しやすそうですね」
「人間サイズならば膂力アップの方向で修正しましょう」
ヘイゼルに続いて、ユリとリリーも自分の意見を述べる。カインは内心で「ほぉ~」と唸った。「ホムンクルス計画」はISCOでも採用された主要計画であり、カインもある程度の内容は知っている。しかしヴェストメンのパフォーマンスから「ホムンクルス計画」の修正までの発想は持ちえていなかった。彼女たちの先見性と計画力に感心したのだ。同時に自分の役割も明確になる。ヴィクトールだけじゃない卓越した発想と計画を、実現させるための未知の技術を開発するのがカインに求められていることなのだ、と。
「・・・これは、こき使われそうだね」
「・・・???カイン先生、嬉しそうな顔をしてどうしたんですか?」
ボヤいたはずのカインの顔は口元がほころんでいた。