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G-LABO

 宇宙ステーション「グラビサイエンス・エネルギーコア研究所」、通称「GECRI」では、未来エネルギー研究連盟(Future Energy Research Federation, FERF)の科学者たちがグラビウムの解析に注力していた。

 グラビウムはグラビテック社が登録商標を取ってはいるものの、未来エネルギー研究から見れば模倣するのは容易い。人工ブラックホールを生成しようとして失敗してできたのがグラビウムなのだ。ブラックホール生成装置を何台も保有しているGECLIであれば、一台ぐらいグラビウム生成に回しても問題なかった。ただGECLIは太陽を挟んで地球の反対側に位置するので、素材となる金属などを入手するのに時間がかかるのが難点だった。


 未来エネルギーの科学者たちは「なぜグラビウムは重力軽減効果があるのか?」の構造を解明しようとしていた。

 そこで一つの仮説を立てた。グラビウムは150GD/sを5分間に渡って照射し続けて生成された。トータルで45,000GD/sにもなる高重力だ。結果、元素構造、あるいは原子構造までもが変わり、重力子を溜め込む性質が追加されたのではないか?溜め込まれた大量の重力子が、比重を大きくしたのではないか?重力軽減効果が70%ということは、70%の重力子をグラビウム内に吸収したのではないか?と。未来エネルギーの科学者たちは実験のためにあらゆる素材のグラビウム化を試す。「グラビウム」はグラビテック社の登録商標なので、彼らは「高重圧力組成物」と呼ぶことにした。

 未来エネルギーの科学者が、なぜそこまでグラビウムの研究に没頭するのか?全てはブラックホールエンジン製作のためだ。小さなブラックホールエンジンは、一応できている。しかし重力子の抽出はほとんどできていないため、試作品とも呼べないシロモノだ。何よりも重力子をどのように効率的に抽出するか、がネックとなっていた。

 地球上の素材ではどのような機器でも10GD/sを超えたあたりで破損してしまう。「重力コントローラ」の作動を念頭に置くと、10,000GD/sぐらいの重力子を集められなければ話にならないのだ。

 未来エネルギーの科学者がグラビウムに活路を見出そうとするのは当然の流れだった。


 未来エネルギーが得た「高重圧力組成物」に関するデータは、全てグラビテック社へと渡される。「こういうデータが出たので、検証してほしい」という意味だ。グラビテック社は敵でもなければライバルでもない。グラビテック社を出し抜く必要もなければ、クレームを入れるつもりもないのだから。

 程なくして、グラビテック社から数名の技術者と開発担当者がGECLIに出向してきた。未来エネルギーの科学者によるグラビウム研究に、本家であるグラビテック社の検証がついて行けなくなったのである。グラビテック社の技術者は科学者ではない。金属のことは専門なので詳しいが、未来エネルギーの科学者が提出するデータは量子重力学や素粒子学にも通じる事柄だった。専門外のことは、設備も知識も不足していたのである。「逆にお前たちが学んでこい!」と上層部から言い出される始末であった。

 時を同じくして「フュージョンエナジーテクノロジーズ(Fusion Energy Technologies)」通称「F・E(エフイー)」の技術開発プラント「フュージョンエナジー・デバイスファクトリー(Fusion Energy Device Factory, FEDF)が、GECLIに併設されるように建設された。エネルギー分野の老舗でもあり知見も豊富な彼らは、技術や設備、装置開発といった形でのスポンサーとなったのだ。F・E(エフイー)にとっても見返りの大きな事業だ。ブラックホールエンジン開発に協力することで、商用化の際のアドバンテージは大きい。グラビサイエンスと未来エネルギーは、ブラックホールエンジン研究の最先端の頭脳集団だ。F・E(エフイー)にとって最高峰の頭脳を利用できるのであれば、技術もスタッフも設備も金も、何もかも投資したとしても、得られるリターンの方が遙かに大きいと目論んだ上での投資だった。


 こうして太陽を挟んだ地球の真裏に、ブラックホールエンジン開発の一大拠点が設立された。このラグランジュポイントは、通称「G-LABO」と呼ばれるようになった。


 そして西暦2380年、G-LABOはついに人類初のブラックホールエンジンの作製に成功したのである。





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