レイヴェンジャー(1)
ヴェストメンの公開デモンストレーションに観衆が一頻り沸いた後、超大国軍の軍楽隊が吹奏楽を奏で始める。軍の代表的な行進曲「確乎不抜(steadfast and resolute)」だ。金管楽器による勇壮なイントロ部分のファンファーレが流れ出すと、熱狂していた観客は自然と背筋を伸ばし始める。
ピンと張り詰めた空気が競技場を支配した。
「これより軍用3G、コードナンバーX-RVG1β『レイヴェンジャー』の公開デモンストレーションを行います」
バリトンの効いた男性のアナウンスが競技場に木霊する。
「レイヴェンジャー(Ravenger=Ravenと Avengerを合わせた造語)」は実験機「レイヴン」の後継機である。本来「レイヴン」は一般汎用機として開発されたものだ。しかしGBUシステムはデリケートで制御がとても難しい。相当な訓練とライセンスが必要との観点から、一般機にはGBUシステムは不要と判断された。よってGBUシステム搭載の3Gは軍用、あるいは宇宙開発用に限定されることとなった。
「皆様、空をご覧ください」
アナウンスの声に導かれるように、観衆は上空を見上げる。雲一つ無い晴天の中、黒い点がいくつも浮かんでいた。規則正しい間隔で幾何学模様を描くように配置された黒い点が、ゆっくりと回転しながら競技場へと舞い降りてくる。
黒い点が人型ロボットと認識できるくらいの高さで止まり、その中の一体だけが地上まで降下してきた。ヘリコプターやジェット機のような轟音もなく、モーター音すらも奏でない静かな降下である。
近づくと微かに「ブン」という空気が擦れ合うような音が聞こえる。これはGフィールド内の空気が固定されているために起こる、外の空気とぶつかる摩擦音だ。
音もなく軽やかに競技場の中央に降り立つ一体のレイヴェンジャー。服を着たヴェストメンとは違い、全身に装甲を施されたスーパーロボットのような風貌である。所々が尖ったヘルメット状の頭部に顔面を保護する濃い色のスモークシールド。ベース機レイヴンの大きめの関節を覆う、鋭角的なショルダー、エルボー、ニーアーマー。腕の動きを阻害しないよう小さめに作られた胸部には、首を守る詰襟が一体化している。腰部は和甲冑の草摺に似た、細かいプレートを幾重にも重ねたスカートタイプ。ニーアーマーから伸びた足の脛には、キックの破壊力を増すようにブレードが仕込まれているようだ。大きく尖ったエルボーの先の腕の鎧に特徴は見られないものの、前腕から指先に至るまでゴツゴツしたアーマーに覆われていた。
地上に降り立ったレイヴェンジャーは武器を持っていないようだが、空中に控える機体のシルエットから銃やライフル、剣や槍を持っているように見える。ということは中央のレイヴェンジャーは格闘タイプということだろうか。様々なバリエーションがあるようだが、単純にアーマーをヴェストメンの服と同じように着せ替えられるのかもしれない。憑依者の好みに合わせられるということだろう。
披露された3Gについては「レイヴェンジャー」という名称だけで、まだ何一つ説明はされていない。しかし観衆は見ているだけで様々な想像を頭に思い浮かべ、期待に胸を膨らませるのであった。