3G始動(3)
ハンガーデッキ上部のコックピットにはSTARシステムが搭載されている。「Spirit Transference Aura Reinforce System=霊魂転移霊力強化システム」はエクセルシオン・バイオメディカル社が開発した「人間の魂と言うべき幽体を『魂の緒』と切らずに憑依転生させる」幽体離脱装置である。3Gの素となるクローン体は誰でも憑依可能な霊媒体質者のクローンが使用されているため、STARシステムによってパイロットは3Gに憑依することが出来るのだ。
ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)少尉はコックピットに乗り込むと、ラバーにも似たゲル状の物体に全身が包まれていく。感触は柔らかいのだが、密度が濃くなるとともに全身が拘束されていった。これは安全上の措置で、魂の緒が繋がっていることから3Gに何かあった場合、本体にも何らかの影響がフィードバックされてしまうことを危惧したためだ。例えば3Gが腕を振るったら、本体も狭いコックピットで腕を振るってしまうことも考えられるのだから。3Gから帰還した時に本体のあちこちに生傷が出来ていたのでは、シャレにならないだろう。
視界が閉ざされ全身が拘束されていく中、アームストロング少尉はオペレーターAIの音声を聞いていた。
『レイヴン1、これよりSTARシステム起動します。・・・3・・・2・・・1・・・』
フッと全身の拘束感が無くなる。
「アームストロング少尉、聞こえるか?」
NSSDA長官の音声が聞こえる。耳ではない感覚に少々戸惑う。
「聞こえていたら、ゆっくりと目を開けてくれ」
瞼は感じられないので、目を開けると言うよりは何かを見ようと試みる。突然、何かのスイッチが入ったように、パーッと視界が開けた。
見覚えのある格納庫。かなり小さく感じる。
アームストロングはすぐに状況を理解した。3Gへの憑依成功だ。格納庫が小さくなったわけではない。自分が6mの巨人になったのだから。
ゆっくりと指先から動かし、手のひらを自分の視界に入れる。見えているのは無数の銀の線が網の目のように入った、艶の無い真っ黒な肌の指と掌。拳を握ると自分の指と掌が触れあう触感が伝わる。シミュレーションとはまったく違う生身の感触。ペタペタと両手で自分の体を確かめるように触る。手と触れた体の両方の感触がはっきりとわかる。これは紛れもなく「自分の体」だ。
3Gの体を自分の体だと認識した瞬間、艶消し黒に銀の網目が入った体の表面が天然の肌に思えた。毛も毛穴も無い肌なのだが、何一つ違和感がない。日焼けしようが刺青を入れようが自分の肌は自分だと認識できるように、黒と銀のコラボな肌も自分だとハッキリわかった。
すると、自分が裸であることに気付く。一糸纏わぬ裸体。さすがに性器の存在はないものの、全裸なのは確かだ。
シミュレーションでは決してわからない一体感。
アームストロングは自分が人類として未知の領域に踏み込んだことを察し、高揚した。