3G始動(1)
超大国の軍用大型輸送宇宙船「Cetus」の格納庫に、超大国の首脳陣が集められていた。GBUシステムを搭載し居住スペースも兼ね備えたこの新鋭艦の実態は、情報漏洩を防ぐために建造された3G開発専用艦である。超大国は大型輸送宇宙船とすることで、3G実験のカモフラージュをしているのだ。首脳陣を乗せた新鋭艦はアステロイドベルトを目指していた。3G(Gravity Ghost Gear)の試作機の初お披露目のためである。アステロイドベルトは小惑星やスペースデブリなどの障害物も多く、また実験可能範囲もアステロイドベルトの軌道上全てと途方も無く広い。数多の研究団体が拠点としているが、どこにどの団体の拠点があるのか、正確な情報はISCOでさえも把握しきれていない。登録地点から移動してしまうと、相手から誘導されない限り発見できないことがほとんどだからだ。超大国が3Gの実験にアステロイドベルトを選ぶのも当然といえた。
軍用大型輸送宇宙船「Cetus」の格納庫の中央に四角いハンガーデッキがポツンと鎮座し、周囲を首脳陣が取り囲んでいる。ハンガーデッキには漆黒の人型ロボットである3Gがぶら下がっている。
体高6m程で、頭部にあるギョロリとした大きな二つの目が印象的だ。頭でっかちで骸骨を思わせるような細身の体躯は、重厚感がなく不安定にさえ思える。凹凸や突起物の無いボディーはシンプルなシルエットで、全体が艶の無いブラックで塗装されていた。よく見ると表面には細い銀のラインが無数に引かれている。関節は駆動部がむき出しで、いくつもの銀色の配線が垣間見えた。可動域はかなり広そうで、機動力は高そうに見える。ハンガーデッキで隠れている背部には、GBUシステムが搭載されているはずだ。
「如何ですかな?我が国最高の頭脳と技術の結晶である3G試作1号機『レイヴン1(Raven One)』の感想は?」
漆黒のボディーから『カラス』と名付けられた3GをNSSDA(国家安全宇宙開発局)の局長が胸を張って問うものの、首脳陣の表情は愛想笑いを浮かべているだけで芳しくない。首脳陣は大きな期待を抱いていただけに「棒人間」のようなロボットに半分失望していた。
「失礼を承知で言わせてもらうが・・・」
誰もが口を噤む中、声を出したのは大統領であった。
「戦車にしろ、戦闘機にしろ、特化したマシンというモノは『機能美』とも呼べる『武骨さ』や『先鋭的』なカッコ良さがある。陳腐な言い方であるならば『男のロマン』だな。しかし残念ながら、この『3G』には強さも何も感じられない」
首脳陣のほとんどが小さく頷いている。
「ロボットと言えば、我々人類は20世紀からロマンを抱いていた。3Gは男のロマンの実現であり集大成のはずだ。もっと何とかならないのかね?」
大統領の苦言に、NSSDAの局長は笑みを浮かべる。
「大統領、いささか気が急いていませんか?これはあくまでも『試作機』であり『素体』です。人間で言えば『ハダカ』の状態なのです。装備を追加すれば、人間の如何なる繊細な技能にも対応できます。ファッションショーは服で決まるように、3Gの真価は追加装備にあるのです。大統領の言う『機能美』は追加装備で生まれるでしょう」
「・・・そうか」
「ええ、例えば戦車のような装甲を付け、ライフルのような銃を装備すれば、大統領の考える『ロマンあふれるロボット』になるとは思いませんか?」
NSSDAの局長は、得意げに自身のメガネをクイッと上げた。
「まあ、まずは動いているところを見てもらう方がわかりやすいでしょう」
少しだけ手直ししました。
GBUシステム搭載した軍用大型輸送宇宙船「Cetus」としています。