表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/405

錬金術研究所(6)

 電気自動車はα基地とβ基地の間の橋を渡っていく。

「Gフィールドは万有引力の法則が通用しない。まだまだ検証していかなければならないことは多いよ」

「あ、ひょっとしてα基地の宇宙港が使えないのも・・・」

「さすが、リリーさん。気が付いたようだね。Gフィールドの側面から中に突入すると、突然1Gの重力がかかることになる。宇宙船にとっては、先端だけ1Gが掛かり、残った船体は無重力となるんだ。そんな状況は自然界に存在しないし、そんな状況を想定した姿勢制御も備えていないからね。事故を避けるために宇宙港を封鎖しているのさ」

「・・・そうだったんですか。設計ミスですね」

 エクセル・バイオの「GU計画」はユリとリリーが担当した。地下に宇宙港を配備し、出入り口を側面に設計したのはリリーだった。自分がGフィールドの特性を見抜けなかったことを、リリーは猛省していた。

「設計ミスじゃない。入口と出口を別々の側面にすることで、出入港をスムーズにするのは理に適っているからね。時代が追い付いていないだけだよ」

 カインはリリーの肩を軽く叩き、落ち込むリリーを励まそうとする。

「宇宙船にGBUシステムが標準装備されるようになれば、この問題はあっさりと解決するんだから。あ~クローネルさんにGBUシステムを自前で作れるよう、設備投資してもらおうかな」

 リリーはカインの横顔を見つめていた。この人は前しか向いていない。

「ん?ボクの顔に何かついてるかい?ここのところまともに顔も洗ってないから、目ヤニでもついてたかな?」

「な、なんでもありません」

 リリーは顔を赤くして首を振る。

「頼むよ、リリーさん。ここ『錬金術研究所』は形式上ISCOに加盟はしているけど、独自の実験を進めるためにISCOからの支援は一切受けない方針なんだ。我々の出資者はクローネルさん個人であり、エクセル・バイオの組織にも属していない。独立している以上、何でも自前で出来るようにしなきゃならないんだ。ボクたちの抱えてる仕事は山ほどあるから、リリーさんも覚悟しておいてね」

「抱えてる仕事って具体的に何があるんですか?」

「出資者がクローネルさんだからね。エクセル・バイオの計画の根幹部分、全ての開発となる。具体的には『GU計画』はスタートしたけど、他には『Dwarf Planet Gravity Urbanization計画』のための『PPGシールド(Pin Point Gravity Shield)研究』、『Schwerkraft Seele Steuerung 計画』用GBUシステム、クローン用の新型コールドスリープ装置、『霊子コンピュータ』の開発も急がれてたっけ。あ、それから『超心理学の機械化』も言われてたなぁ。ボクはそのために『ノヴァ・サイキック・アカデミー(Nova Psychic Academy)』に入学させられたんだし」

「あ、じゃあカイン先生もテレパシーが使えるのですか?」

「いやあ、実践に費やす時間がもったいなくて、専ら理論の解析と構築ばかりしてたよ。だってクローネルさんが『1年で卒業しろ』とか無茶を言うんだよ。寝る暇なかったよ」

「・・・首席ですよね?」

「クローネルさんにクローンのいい使い方を教わったんだよ。クローンを2体用意してね、12時間ごとに交代で憑依するんだ。疲れるのは脳であって、魂は寝なくても問題ないんだよ。クローネルさんに『幽霊は睡眠を取りません』と真顔で言われたんだ。24時間365日研究を続けられるって凄いよね。仕事が捗るよ」

 リリーは開いた口が塞がらなかった。ベッドで眠る至福の時間が無くなるなんて・・・

《リリー、ファイト》

 不意にユリからテレパシーが入る。

《私がたっぷり睡眠とって、リリーにも感覚共有させてあげるから。あ、これからヨウコさんとスイーツ楽しんでくるね。リリーにも味覚共有で味わってもらうから、頑張って♡》

 感覚共有はありがたい。この「錬金術研究所」でスイーツは期待できなさそうだから。とはいえユリが現実に甘味を楽しむ中、自分は24時間365日研究をするというのは、何か腑に落ちないリリーであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ