錬金術研究所(5)
「クローネルさんにGBUシステムを二つも提供されたんだよ。まあ、いろいろと実験をしたかったんだ。同規模でなきゃわからないこともあるしね」
二人を乗せた電気自動車はβ基地の端まで到着したところで、一度止まった。すぐ目の前にα基地が見えているはずなのだが、Gシールドのせいか外側は何も見えない。
「どうやってα基地へ行くのですか?」
α基地とβ基地が繋がっていない以上、本来ならば一度宇宙へ出てからα基地へと移動しなければならない。見たところ電気自動車に宇宙へ出るような仕様は施されていない。自分たちも宇宙服を着ていないので、このままではα基地へと行く手段は無さそうだ。
「さて、リリーさんに問題です」
カインは人差し指を立てて、クイズ番組の司会者のような振りをした。
「Gシールドを展開した二つのGフィールドが接触したら、どうなりますか?お考え下さい」
「えっ・・・?あ、はい・・・Gシールドの強い方が相手のGシールドを食い破って、そのまま侵食してしまうのではないでしょうか?」
「そうだよね。理論上はそう考えるのが普通。では、これから正解をお見せしましょう」
カインはポケットから手のひらサイズの黒い板のような端末を取り出し、指先で操作し始めた。すると目の前のGシールドに丸い穴が開き、みるみるうちに穴が広がっていく。大気が交じり合うため「ブアッ」というような軽い風圧を感じながら、リリーは開けた視界に目を凝らす。そこにはβ基地と同じくらいの大きさの地面と、いくつかの人工建造物が目に入った。
「これは・・・一体?」
「驚いた?ボクも最初は驚いたよ。α基地とβ基地を接触させたんだけど、結果はこうなるんだ」
「説明してもらえますか?」
「小さな水滴が接触すると、一つの水滴になるだろ?似たような現象が起きていると考えてもらえればいい。GシールドというのはGフィールドの表面張力のようなものなんだ。二つのGフィールドが接触すると、歪ながらも一つの大きなGフィールドとなるんだよ。GシールドはGシールドの表面張力のように周囲にしか展開されないから、中にいる人間から見ると穴が開いて広がっていくように見えるってわけさ」
リリーは見上げるように周囲を見渡す。Gシールドは300Gの重力子の壁だ。あらゆる光を反射しないので、星が一つもない夜空のようにも感じる。
「理論上、Gシールドはシャボン玉のような膜だと推測されていたので、接触面はGシールドが鬩ぎ合うと思われていた。だからリリーさんの回答のように、Gシールドが強い方が弱い方を食い破ると思われていたんだけど、現実は見たままさ」
カインの解説にリリーは大きく頷く。
「実際にやってみなければわからないことなのですね」
「そうだね。GBUシステムが作り出すものは、すでに『万有引力の法則』を超越しているんだ。僕たちの習った常識には当てはまらないものと思った方がいい」
「・・・そのようですね」
「逆に言えば、常識にとらわれない自由な発想が、これからは益々重要になってくるはずだよ」
いつの間にか曇った表情のリリーに、カインは笑顔を見せる。
「リリーさん、君には期待しかしていない」