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錬金術研究所(3)

 リリーたちを乗せた大型貨物宇宙船は水平軸を「錬金術研究所」に合わせ、下部の宇宙港と思われる大きな四角い穴の方に進もうとする。

『申し訳ないが、今は宇宙港の使用が禁止なんだ。隣の「β基地」の北天から侵入し、手動で適当な空き地に着陸してほしい。侵入経路を送るので、指示に従ってくれないかな』

 AI音声とは別の、横柄な若い男性の声が流れる。

 船長は戸惑いながらも巧みな操船技術を披露し、「β基地」と呼ばれた小惑星の平面の中央に着陸した。乗組員たちが下船準備に動き回る中、リリーは船外モニターを駆使しβ基地の様子を伺っていた。

 大型貨物宇宙船が全長1000mほどだから、直径5kmぐらいの小惑星だろうか。外縁部に森林を配置してあることから、この小惑星はエクセル・バイオの「GU(Gravity Urbanization=人工重力都市化)計画」のプロトタイプに間違いないだろう。ユリが計画案を練り、リリーが細部のサポートをしていたのでよくわかる。世間的には「G-City計画」の方がわかりやすいかもしれないが。

 森林の中には50mほどの高い鉄塔が建ち並び、淡い紫色の光を放っている。これは太陽光が弱いアステロイドベルトで樹木を育てるために、光合成に重要な青色光(約400-500 nm)と赤色光(約600-700 nm)を発しているからだ。

 光合成が働いているおかげで、大気の調整はうまくいっているようだ。証拠に宇宙服を着ていない若い男性が、荷下ろし用の重機ロボットを引き連れて宇宙船に向かってきていた。先ほどAI音声の代わりに侵入経路を説明した男だろう。リリーは下船して、若い男性を出迎えることにする。


「遠路はるばる当研究所まで、よく来てくれたね。ありがとう。ボクはカイン・・・アレックス・カインシュタインです。え~と・・・リリー・アルベリスさん・・・だよね?」

 横柄というよりは、気さくな口調で話しかけてくる男性。それはリリーの15歳という見た目への対応なのか、それとも若くしてなった代表という驕りがあるのか。しかしリリーにはどちらとも思えない。

 ESP能力の高いリリーは、読心までは出来なくとも表面に出ない感情を読むことはできる。リリーは目の前の男性の態度が「素」であると瞬時に理解した。

「はい。リリー・アルベリスです。よろしくお願いいたします、アレックス・カインシュタイン代表」

「ハハハ。できれば『カイン』と呼んでくれると助かるよ。『アレックス・カインシュタイン』という名前には、まだ慣れていなくてね。外出先とかなら意識できるからいいんだけど、自分の居場所ぐらい名前なんかには気を使いたくないんだ」

「・・・と言いますと?」

「この『アレックス・カインシュタイン』はボクが適当に考えた名前なんだよ。クローネルさんに『新しい名前を考えとけ』って言われてね」

 敬愛する「ヴィクトール・クローネル総帥」を軽々しく「クローネルさん」と呼ぶなど、リリーにとっては万死に値するはずである。なのにリリーはニコニコと屈託なく笑う目の前の男を、憎むどころか好意的に捉えていた。

「ボクの本当の名前は『カイン・マクスウェル』だ。グラビサイエンスのQPの元所長だったんだよ」

「わかりました。『カイン先生』と呼ばせていただきます。でも何故『アレックス・カインシュタイン』という名前にしたのですか?」

「ああ・・・『アレックス』は『錬金術(alchemy)』を捩って。『カインシュタイン』は・・・わかるよね?『20世紀最高の物理学者』に因んだのさ。ハハハ。安直だろ?」



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