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アクアシルバー

 月の表側、地球面にある巨大クレーター「コペルニクスクレータ」付近に、超大国最大の月面基地「コペルニクス基地」が存在している。コペルニクス基地にはNSSDA(国家安全宇宙開発局)の大規模研究施設があり、「Gravity Ghost Gear計画」の中の「AAGM(Association for Achieving Ghost Matter=ゴーストマターを実現する会)」の主力が日夜研究に没頭していた。霊子回路研究のための素材開発が目的である。

 霊子(Spiritron)はダークマター的素粒子であり、理論的には全ての物質を透過してしまう。霊子を回路として利用するのは不可能に近いことなのだが、科学者たちは諦めていなかった。霊子は光よりも圧倒的に速く、実証実験に於いてではあるが光で1000秒かかる2天文単位を一瞬で辿り着くのだ。現在のところ霊子の速度は正確に判明していないのだが、光よりも速い素粒子を利用しない手はない。「光よりも速い」なんと甘美的な響きなのであろう。科学者たちは野心に燃えていた。

 月がISCOの正式な管轄下になったことで、コペルニクス基地での研究にもISCOから助成金が交付された。自国からの研究資金に加えてISCOからの助成金もあり、環境は整っている。月ならば地球にないような、霊子回路に使える素材も見つかるかもしれない。

 霊子の導体の開発はすぐに成功した。

 霊子は元々超純水に留まりやすい。ただし超純水のままでは反霊子に変換する事故が起きやすいため、反霊子変換の抑止物として銀が用いられていた。銀は水には溶けないので硝酸銀水溶液として、すでに利用されていたのだ。科学者たちは応用するだけだった。

 高純度の銀を抽出し、銀の結晶構造を最適化すべくナノスケールで加工精製。重力波技術を使用し、精製銀と超純水の特性を分子レベルで融合させ、新たな霊子の導体となる金属を開発した。科学者たちはこの金属を「霊導体(Spiritron Conductor)」とし、「アクアシルバー(AquaSilver)」と名付けた。

 アクアシルバーは霊子の伝導性に於いて従来の「硝酸銀霊子水」よりも高く、またナノスケールでの加工により柔軟性に富んだ金属なので多様な用途に対応可能だ。さらに電導率も高いために、電子回路と霊子回路の融合に寄与できそうな優れた金属となった。

 早速アクアシルバーは霊子回路に採用され、改良版霊子通信機を完成させた。

 霊子通信機とは電波の代わりに霊子を飛ばすことにより、どんなに距離が離れていてもリアルタイムで会話可能な通信機である。宇宙時代では必ず距離の問題が発生する。光通信でも宇宙ではタイムラグが生じるのだ。地球と太陽の間で約8分19秒。太陽系外へと進出する宇宙時代を迎えるにあたって、情報のタイムラグは死活問題につながる。しかし霊子通信ならば、どんな距離でもタイムラグが無くなる。

 太陽系のあらゆるところで宇宙開発実験が繰り返されている昨今において、霊子通信の完成は宇宙開発をさらに加速させることを予感させた。


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