トリニティ・パレス記者室
「先輩、忙しいところ呼びつけてしまってすみません」
「何だ?聞きたいことって。政治のことだったら俺はわからないぞ」
政治部の若い記者にNSSDA付の壮年の記者が、記者室に呼び出されていた。
「いや、最近『3G計画』や『G-City計画』とか大統領が発表してるでしょ?科学は素人なので、内容がイマイチわからないんですよ。解説してくれませんか?」
「俺もクローンや霊子のことは詳しくないがな。ブラックホールのことなら多少はわかるぞ」
「じゃあG-City計画のことを教えてください。GBUシステムは、ほぼ完成してるんですよね?何がネックになっているんですか?」
「ブラックホールの大きさだよ。計画では100万トンから10億トンのブラックホールが必要なんだろ?今の技術じゃ100トンクラス、頑張っても1000トンのブラックホールを作るのがやっとだからな」
「1000トンのブラックホールじゃダメなんですか?ブラックホールエンジンの出力は投入したエネルギーの量で決まると聞いてたんですが」
「反霊子をエネルギーとして使用しているからな。基本は反霊子との対消滅エネルギーが出力となっている。対消滅ということはブラックホールが痩せていく、ということなんだよ。小さいブラックホールではすぐに蒸発して使い物にならなくなってしまうだろ?」
「なるほど、大出力を長期間稼働させるのなら、大型ブラックホールは必須なんですね。じゃあ何で最初から100万トンクラスのブラックホールを作ることが出来ないんですか?」
「100万トンという容積と今の技術の問題だな。人工ブラックホールの生成方法はD-T反応による核融合によって高温高圧のプラズマを生成し、重力子で圧縮してブラックホールにするのが主流だ。人口ブラックホールはウォールカプセルという球体の中で生成されるんだが、現在最大のウォールカプセルでも直径20mほどだ。100万トンを水で考えるといい。100万トンの水を立方体にすると一辺が100mになる。球体にすれば直径124.8mだ。その大きさなら作る計画はあるかもしれないけど、10億トンクラスだと相当難しいだろうな。一辺が1㎞の立方体だぞ。さすがにデカすぎる」
「じゃあどうやって大きいブラックホールを作るんですか?」
「太らせるんだよ。エサを与えて。ブラックホールの成長に必要なのは質量だからな。放射性廃棄物とかを与える計画が進んでいるらしいぞ」
「いっそのこと地球上でやれば、ゴミ問題が解決しそうですね」
「バカ。万が一、10億トンクラスが事故で流出したら、地球は終わるぞ」
「え?でも前に200トンのブラックホールが地上に落下しましたよね?でも地球は大丈夫だったじゃないですか」
「大きさは原子以下だからな。10億トンでもシュバルツシュルト半径は約1.5ピコで、原子よりも小さいんだ。まあ地上で助かったよ。ブラックホールに触れると吸収されるんだが、触れる面積が原子以下なので質量は増えていかない。おまけに触れたところはホーキング放射で逆噴射しているから、予想よりも遅く沈んでいっているらしい。海じゃなくてよかったな」
「海だったらどうなってたんでしょうね?」
「さあ、そこまで詳しくはわからんけど。沈むスピードも吸収されるスピードも、周りが液体だと相当速いはずだ。専門家じゃないから予想は難しいが、悲惨なことになるのは間違いないんじゃないか?」
「あんまり考えたくないですね」
「どこかのバカが、やらかさないことを祈るよ」