GU計画
「私たちの計画に似ていますね。『G-City計画』というのは」
南海のリゾート地の一角に聳える、エクセルシオン・バイオメディカルの本社の社長室。モニタで超大国の大統領スピーチを見ていたユリが、ヴィクトールに話しかけた。
「同じですよ。我が社の『GU(Gravity Urbanization=人工重力都市化)計画』と」
ヴィクトールの笑顔に、ユリは驚きを隠せない。「GU計画」はユリが主力となり、苦労して立案した計画である。自分と同じ考えを持つ科学者が超大国にもいたのか。あるいは超大国がユリの手塩にかけた計画を盗んだのか。
「どういうことですか?」
驚愕のあまりに声を出せないユリに代わって、リリーがヴィクトールに質問した。
「ユリには申し訳ないですが、彼の国が欲しがっているようなのでヘイゼルに頼んで彼の国に盗ませました。出所は民間の研究施設に偽装させましたが」
放心していたユリが、ヴィクトールの言葉を聞き我に返る。
「あ・・・いえ、総帥様に謝っていただくなんて恐縮です。元々は総帥様の発案ですから・・・『GU計画』は総帥様のものですから、自由に扱っていただいて構いません」
「ユリに気を使わせて申し訳なく思います。しかしブラックホールエンジンと重力コントローラがあれば、誰でも小惑星の都市化には遅かれ早かれ思いつきますよ」
「・・・あの国の誰もあのような計画を思いつかなかったから、総帥様は盗ませたんじゃないのですか?」
「遅かれ早かれ、ですよ」
ヴィクトールの笑顔に、ユリも笑顔を返した。
「それにしても、あの国はわざわざ言葉を変えるんだな」
ゼーの言葉に、ユリとリリーがキョトンとしている。
「気づかないか?ウチが与えてやった『ホムンクルス計画・改』は『3G計画』だっけ?ブラックホールエンジンと重力コントローラは『GBUシステム』だろ?重力フィールドは『Gフィールド』で重力トラクションも『Gトラクション』って言い換えてるし。GU計画も『G-City計画』だ」
「我が社の計画を独自計画と思わせるために計画名を変えるのは致し方の無いことですが、既存の言葉を耳触りのよい言葉に変えるのは彼の国の常套手段ですね」
発言力の強い者が少しだけ言い方を変えて、あたかも自分のオリジナルのごとく周囲に思わせる印象操作だ。覇権を狙う超大国が本気になっている証拠とも言えた。
「私たちは私たちのやるべきことを粛々と進めるだけです。世間の耳目は彼の国にお任せしましょう」
「やるべきことといえば『Dwarf Planet Gravity Urbanization計画』と『Schwerkraft Seele Steuerung 計画』ですね!」
「でもどうして『Schwerkraft Seele Steuerung 計画』はドイツ語なのですか?」
「ゼーと同じです。ヨーコがいないと成り立たない計画ですから。ヨーコの黒歴史となるドイツに因んだ名称になるのは当然です」
「・・・洋子が泣くぞ」