ISCO除名
エクセル・バイオISCO除名。
超大国の理事がヴィクトール・クローネルに慰留を懇願したのだが、捜査する側が罰を軽くすることは難しく「エクセルシオン・バイオメディカルのクローン法重大違反によるISCO除名」が確定した。ICSA(国際宇宙裁判所)設立前が仇となった形だ。
ISCO加盟の企業に動揺が広がる。「エクセルシオン・バイオメディカル」といえばISCOの宇宙開発に多大な貢献をした企業の一つだ。テレパシー実験、クローン転生実験など次々と人類初の偉業を成し遂げ、総帥「ヴィクトール・クローネル」のカリスマ性でISCOを牽引してきた功労者である。そのエクセル・バイオを除名したのが超大国の理事が率いる捜査員だったことに、各企業は国家への不信感を増すこととなった。
各国家も「エクセル・バイオISCO除名」を喜んでいるわけではない。エクセル・バイオの供出金は企業であるにも拘らず、超大国の供出金を凌ぐほどなのだ。当然ISCOの予算も縮小を余儀なくされる。超大国が提唱した「Gravity Ghost Gear計画」により宇宙開発の機運は高まっているが、予算縮小は勢いに水を差しかねない事態となりつつあった。
結成以来の激震に見舞われたISCOではあるが、超大国は責任を取るように事態の鎮静化に動く。まずエクセル・バイオ除名により減少した分の供出金を、超大国が負担すると宣言。さらに「法の順守は絶対であり、聖域はない」と喧伝した。悪いのは法を守らなかったエクセル・バイオの方で、超大国が追い出したわけではないことを強調したのである。超大国としては「宇宙開発のリーダーシップの座」は譲れないものであり、痛い出費を伴っても悪役になるわけにはいかなかった。
一方のエクセル・バイオの宇宙設備は「冒険者」だけだ。ISCO除名により宇宙開発事業から手を引くことになったエクセル・バイオは「冒険者」をスミス商事(Smith Corporation)に譲渡した。
スミス商事はスミス重工業と同じく、世界最大とも言われたスミス財閥を祖とする商社だ。旧スミス財閥からなる「スミスグループ」はグループ内の強力な資本関係があるわけではなく、それぞれが独立した企業グループとして名を馳せていた。商社、不動産、重工業、電機、銀行、保険、食品、化学、投資など様々な分野で「スミス」と名の付く世界有数の企業グループを築いている。宇宙開発からは一歩引いた立場で地上での売り上げを伸ばしていたが、「冒険者」を足掛かりに満を持しての宇宙進出である。
スミス商事はスミス化学(Smith Chemical Corporation)スミス食品(Smith Food Corporation)と三社の合弁会社「スミス・スペース・ホールディングス(Smith Space Holdings International)」を設立し、「冒険者」を本社とした。クローン設備はクローン肉専用と改造され、宇宙の食品事情を支える事業を展開していくことになる。
同時に「エクセルシオン・バイオメディカル」の名は歴史の表舞台から、しばらくの間姿を消すこととなった。