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質疑応答(3)

 トリニティ・パレスの会見場にて、報道陣からの質問への大統領とNSSDA(国家安全宇宙開発局)の局長が回答する記者会見は1時間を経過しても続いていた。ISCOでの記者会見の場合、宇宙にあるISCOの本部「ネクサス(ISCO Nexus Center)」にて行われるため、どうしても記者は厳選されてしまう。しかし今回の記者会見は超大国の大統領府であるトリニティ・パレスで開催されたため、数多くの報道陣が集結していたからだ。超大国側も自分たちの威信を見せつけるためか、報道陣に対して丁寧な対応をしていた。世論の重要性を熟知している国家らしい対応である。

「質問です。重力シールドが1000Gではなく300Gなのは、なぜですか?」

 奇妙な質問だとNSSDA局長は感じた。質問者を見ると20歳になるかならないかぐらいの黒人の青年だ。局長は記者会見をすることが多く、質問をするような主要な記者の顔ぐらいは覚えている。しかし質問者の黒人の青年には見覚えがない。大統領も見覚えが無いようで、局長のアイコンタクトに対しわずかに首を振る。局長は「1000Gではなく300Gなのは」という言葉に違和感を生じた。「3G計画」の元になった「改良版ホムンクルス計画」を知っているのか?

 質問者の正体はヘイゼル・ブランカの分体。子供に憑依転生し使われなくなったクワメ・アビオラのクローン体に憑依して、会見場に紛れ込んでいたのだ。

「・・・300Gの重力シールドで十分との判断からです」

 躊躇いながらも局長は質問に答える。

「では仮に1000Gの重力シールドを展開する機体と衝突したら、粉砕されてしまいますね。ありがとうございました」

 笑顔を見せた黒人の青年は、記者たちに紛れるように下がっていく。局長が小さく合図をすると、会見場の壁に立っていた十数人のSPが静かに動き出した。


 2時間を擁して報道陣による質疑応答は、無事に終了した。特に反対派からの質問に対して、世論の反感を買うような回答はしていない。全体で見れば、今回の演説と質疑応答は大成功である。懸念があるとすれば唯一、あの黒人の青年だけだ。

「・・・見失っただと?!」

 黒人の青年を追ったSPは十数人いたにも関わらず、捕縛することが出来なかった。大統領府トリニティ・パレスの警備は完璧で、アリ一匹すら逃がさないと豪語していたはずだ。にも拘らず逃走経路も不明、なおかつ侵入経路も不明だ。彼は偽造したPASSを持っていたようだが、どの警備カメラを確認しても、彼の姿は会見場以外の場所にはどこにも映っていなかった。まるで忽然と現れ、忽然と消えたように。

「このことは、別に対処しよう。今は『Gravity Ghost Gear計画』発表の成功を祝おうではないか」

 大統領は気持ちを入れ替えるように言った。

「・・・女狐は何を考えている?」

 黒人の青年をエクセル・バイオの手の者と感じた特命全権代表は、気持ちの整理をつけることが出来ないでいた。


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