質疑応答(2)
トリニティ・パレスの会見場では報道陣による質疑応答が続いている。
「2399年のブラックホール地球落下事故より、地球圏でのブラックホールエンジンの実験は禁止となっています。ブラックホールエンジンと重力コントローラの研究は、どのようにして行うのですか?それからブラックホールエンジンの安全性についてお聞かせください」
NSSDA局長が手を上げ、大統領の代わりに回答する。
「まずハッキリ言っておきたいのは、ブラックホールエンジンの安全性は重力コントローラによって確保されます。例えば、事故によりブラックホールエンジンの中心にあるブラックホールが暴走し、位置がずれてウォールカプセルに接触した場合、エンジンは制御不能に陥ります。このような異常を感知すると、即座に緊急プロトコルが発動されます。重力コントローラは自動的に重力フィールドを展開し、操縦者の権限を奪取して緊急プロトコルモードに移行します。では後方のモニターに具体的な手順を表示させましょう」
NSSDA局長が合図をすると、会見場のモニターにモデル画像と共に音声ガイダンスが流れる。
1.緊急重力フィールドの展開: 重力コントローラは瞬時に重力フィールドを暴走したブラックホールの大きさに合わせて縮小させます。このフィールドはブラックホールの成長を物理的に抑えるために設計されています。
2.放射状の重力発生: 重力フィールド内で、中心から放射状に最大出力の重力を発生させます。この重力はブラックホールの引力に逆らい、外向きに作用することでブラックホールの質量を引き伸ばし、均等に分散させます。
3.ブラックホールの膨張と蒸発: 重力コントローラが生成する反重力場により、ブラックホールは無理矢理周囲に引っ張られ、質量を急速に失うことになります。この過程でブラックホールは膨張し、最終的にホーキング放射などの効果により崩壊し、蒸発します。
「ブラックホールエンジンの安全性について、理解できたでしょうか?このように重力コントローラとブラックホールエンジンは相互作用によって、安全性と機能性を十二分に発揮することとなります。今後は『GBUシステム(Gravity Controller and Black Hole Engine Unified System=重力コントローラとブラックホールエンジンの統合システム)』として、研究開発していくことになるでしょう。さらに我々はGBUシステムに限りブラックホールエンジンの地球圏での実験解禁を、ISCOに働きかけていく所存であります」
記者たちから「おお~っ」と歓声が漏れる。ブラックホールエンジンの地球圏での実験解禁はビッグニュースだ。記者たちは「Gravity Ghost Gear計画」の発表により、宇宙開発技術が急加速することを確信した。