グラビウム
「グラビテック・エナジーソリューションズ(Gravitech Energy Solutions)」は世界有数の重工業グループ「スミス重工業メガコーポレーション(Smith Heavy Industries Mega Corporation)」が重力子技術専門として設立した会社だ。スミス重工業は鉄鋼業界でも有数の大企業で、鋼材資源も豊富に抱えている。
「タングステンコアブラックホール実験」というブラックホール生成実験を行っていたが、現在は中止となっている。
業界では「グラビテックはブラックホール事業の脱落者」と噂されていたのだが、反論するかのようにグラビテック社は活気づいている。何よりも宇宙ステーションと地球を行き来するシャトル便が大幅に増えていることが証明していた。
「何かある」
業界全体がグラビテック社の動きに気付き始めた頃、グラビテック社が「緊急記者会見を行う」と全世界の報道に向けて発信したのだ。業界内にとどまらず、ゴシップ好きの一般報道まで巻き込んで。
グラビテック社の記者会見はグラビテック社ではなく、親会社であるスミス重工業の本社ビルの大ホールで開催された。
グラビテック社の広報が大ホールのステージに立つ。用意されたテーブルの上には鈍色の金属の塊が置かれていた。見た目はただの金属なのだが。
「私たちグラビテックは全く新しい金属の開発に成功しました。こちらに用意した金属は質量10㎏ですが、重さは3㎏しかありません」
記者たちがお互い顔を見合わせる。質量10㎏で重さは3㎏?意味がわからない。地球上であれば質量も重量も同じはずだ。スミス重工業の大ホールがざわめいていた。何人かの記者が質問しようと手を上げているが、グラビテック社の広報は記者を無視して、会見を進める。
「質問は後で受け付けます。まずはこちらを見ていただきましょう」
大ホールのステージ上の広報が金属の塊を両手で持った。広報の足元にはゴムマットが敷かれ、後方の巨大スクリーンは広報の様子を映し出している。
「カメラの準備はよろしいでしょうか?それでは行きます。3・・・2・・・1・・・」
広報の手が離され、金属の塊が落ちる。しかし金属の塊は、まるでスローモーションのようにゆっくりと落ちていった。
「何だ、あれは?」「どういうからくりだ?」「何が起きたんだ?」大ホールに沸き起こる大きなどよめきと多数のフラッシュ。あまりにも騒ぐ記者たちに「静かにしろ!」「うるせえ!!」と別の記者から罵声が飛ぶ大騒ぎとなった。
喧騒の中、グラビテック社の広報は「してやったり」とでも言うような笑顔を浮かべている。
「お静かに願います。こちらの金属は私たちが開発した『グラビウムW-70』という製品です。『グラビウム』というのは我が社の登録商標で、『グラビウム』シリーズの最大の特徴は重力軽減効果があることです。こちらにある『W-70』はタングステン素材で重力軽減が70%という意味を持っております。比重が50なので、流通しているどの金属よりも重くて丈夫です。さらに『グラビウム』シリーズは様々な金属素材により、ラインナップを豊富に取り揃え、あらゆるニーズにお応えすることを宣言します」
記者たちがさらに騒ぐ。金属素材ということで、何にでも応用が利くからだ。建築産業、自動車業界、航空産業、軍事産業、宇宙産業・・・いったいどれだけの需要があるのか想像もつかない。
ここで別の男性がステージ中央に立つ。スミス重工業の広報だった。
「我々スミス重工業は『グラビウム』生産に関するすべてをバックアップします。生産設備はもちろんのこと、加工機械の開発と生産を10年計画で進めることを決定しました」
堂々のグラビウム量産の発表だ。
グラビウムの発表は、全世界のトップニュースとなった。