質疑応答(1)
トリニティ・パレスの会見場に大統領とNSSDA(国家安全宇宙開発局)の局長が並んで座り、報道陣による質疑応答が始まっていた。
「大統領、今回の『3G計画』の経緯をお聞かせください」
「単純といえば単純な話ではあるのだが」
大統領が隣の局長の顔を見ると、局長は小さく頷く。
「ブラックホールエンジンと重力コントローラ、それに霊子回路も、クローンへの憑依も、特に我々の新技術ではない。どれもがすでにISCO主体で研究開発されているものばかりなのだ。どれも独立した研究なのだが、我々はそれらを新たな視点と発想で統合したに過ぎない。結果的には宇宙開発の切り札とも言える機体に仕上がるだろう」
別の記者が質問する。
「この『3G計画』はかなりの開発資金が投じられることとなると思うのですが、資金はどのように調達されるのですか?政府は先日も『CROUN』という大きな買い物をしたようですが」
反政府メディアの記者からだ。現政権のアラを探し国民の反感情を引き出して、現政権の転覆を狙っているようだ。
「・・・どうやら君は何か勘違いをしているようだね?これは宇宙開発のための技術計画だ。宇宙開発はISCO(International Space Cooperation Organization=国際宇宙協力機構)の管轄だということを忘れてはいないかね?我が国もISCO加盟国であり、宇宙に於いては我々もISCOの管轄下にある。当然、この計画もISCOの協力なしでは成功しないだろうし、ISCOによる支援案件なのだよ。我が国はISCOの理事を務めているように、ISCOを出し抜いて『3G計画』を独占するわけではない。ISCO加盟の国家、民間企業、そして学術研究機関の協力は必須だ。我々は計画の発案者として、ISCOを鼓舞し牽引していきたいと考えている」
大統領の回答は、言葉だけならばISCOの傘下としてISCOを立てるような発言だ。しかし真意は違う。大統領の言葉の裏には「ISCOを手中に収め、ISCOを意のままに動かす」という意味が込められていた。新年のスピーチとして「Gravity Ghost Gear計画」を全世界に発表したのも「ISCOを牛耳る」という決意表明でもあるのだ。
大統領の真意を汲み取れた記者は、会見場にどれほどいただろうか。
「3Gを『宇宙開発の切り札』と言いましたが、戦争の道具としてはどうお考えですか?」
質問してきたのは、独善国家寄りの記者だ。当然考えられることではあるのだが。
「戦争?戦争をして何になるのかね?広い宇宙の中の小さな星の、さらに狭い大陸を奪い合って、何が得られるというのかね?すでに資源を食い尽くしたこの星の縄張り争いに、未来があるのかね?」
大統領の強い視線に、質問してきた記者は僅かにたじろぐ。
「・・・まあ君が言うこともわからないではない。未だにこの星から戦争は無くなっていないのも事実だ。ならば戦争を止めるための抑止力として、3Gを投入するのは悪くない考えかもしれぬな。3Gは軍事利用すべきものではない。戦争の抑止力として平和利用すべきものだ」
明らかな不満の表情を見せ、独善国家寄りの記者は「わかりました」と不本意な言葉を残し引き下がる。
「先程も述べたように、3Gは我が国だけの技術に留まることはない。各国が3Gを配備することで、お互いの抑止力となる。そういう意味では昔の核兵器と似たような状況になるとの懸念もあるだろう。しかし3Gは昔の核兵器とは大きく違う。3Gは現存する如何なる兵器も防ぐことが出来るが、人類を滅亡させるような攻撃力は持っていないのだ」
「3Gは武装しないのですか?」
別の記者が尋ねた。彼も3Gが兵器であるという認識をしていたのだろう。
「武装?宇宙開発に武装が必要かね?装備するなら3Gのサイズに合わせたインパクトドライバーや、各種工具となるだろう」
記者たちから軽く笑いが起きる。巨大な工具を思い浮かべたようだ。
「宇宙の過酷な環境でも磨き上げられた職人の腕が如何なく発揮できるのが、操縦者が憑依する3Gの最大の特徴でもあるのだ。無粋な質問は避けてくれるとありがたいね」
大統領が笑顔を見せると、会見場の張り詰めた空気が和らいだ。