表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/405

大統領演説(3)

 トリニティ・パレス前での大統領演説。観衆の熱気は落ち着いた雰囲気となり、次の演説内容に耳を傾けている。

「ところで諸君は『何故3Gが人型ロボットなのか?』と疑問には思わないかね?」

 観衆がざわめく。「何故って何故?」「あんたらが決めたんだろ?」「ロボットはロマンだ」など様々な声が上がる。

「人間というのは複雑に出来ている。機械で人間の動きを模したロボットというのは、現実的に言えば効率が悪い。操作も複雑になる。個人的な見解だが、人型ロボットなど必要はないとさえ思っている。だが『3G計画』では人型ロボットは必須条件なのだ。いや人型ロボットというのは適切ではない。機械と人間を融合した『Hybrid Gear』と呼ぶべきものだ」

 さらに観衆がざわめき、中には嫌悪を露にしている者もいる。彼らの目は「人間を実験に使ったのか?」と物語っていた。人権団体、動物愛護団体の関係者であろう。大統領は嫌悪の感情を受け止めながら演説を続ける。

「・・・諸君は『クローン』について、どの程度知っているかな?」

 大統領の視線は嫌悪を放つ者たちを見据えた。彼らの表情からわずかな困惑が浮かび上がる。

「ここで私が言う『クローン』とは、古来より研究されてきたクローン人間とは定義が異なる。人間の細胞核を未受精卵に移植することにより産まれるのがクローン人間ではあるが、我々の言う『クローン』は人を介さずに、子宮を含め全て人工的に育成する。こうして成人体まで育成された『クローン』には、自己を決するような魂の存在が無いことが科学的に実証されている。つまり我々の言う『クローン』は人間とは異なるものであり、自立することもできないので動物でもないのだ。つまり倫理的観点から、クローンを実験に使っても問題ないと我々は認識している」

 大統領の目力が上がり、嫌悪を抱く者たちを睨み返す。「お前らにとやかく言われる筋合いはない!!」と言わんばかりに。

「現在ISCOでは『クローン法案』を策定中だ。近日中にも『クローン法』が制定されるであろう。『3G計画』はクローン法が施行された後に、スタートさせることをここに誓おう。我々は決して無法者ではないのだからな」

 嫌悪を抱く者たちは視線を落としたり、観衆の中からコソコソと離れようと動き出していた。「付け入るスキがない」と判断したのであれば、それだけでも大統領演説は成功と言ってもいいかもしれない。超大国の威信を賭けた『Gravity Ghost Gear計画』は、何人たりとも邪魔をさせるわけにはいかないのだ。

「・・・話を戻そう。3Gが人型ロボットであるのは、クローンと融合させるからだ。全高18フィート(約5.5m)ほどの人型ロボットでは、操縦者の乗るコックピットは存在しない。つまり遠隔操作となる。操縦者は自分の魂を3Gに憑依させ、自分の手足として動かすのだ」

「「おお~っ」」と観衆のあちらこちらからどよめきが起きる。

「自身の肉体は安全なところに居ながら、3Gを危険な現場へと向かわせることができる。複雑な操作などいらず、自分の手足を操るがごとく3Gを操ることができるのだよ。利便性、操作性、安全性、いずれの観点からも3Gは完璧な機体と言えよう!!」

 大きな拍手と歓声が、一気に沸き起こった。

「諸君、『Gravity Ghost Gear計画』は、単なる技術開発ではない。それは我が国が持つ無限の可能性を証明し、国際社会におけるリーダーシップを強化するものなのだ。我々の努力と献身が全人類の宇宙進出という未来に光をもたらし、3Gは宇宙開発の切り札となるのだ。諸君、この新たな挑戦に共に立ち向かおうではないか。政府、民間、学術界が一丸となり、未来への道を切り拓くのだ。『Gravity Ghost Gear計画』から発信されるこのビジョンが、全世界に希望と勇気を与えることであろう。我々の前には、広大な宇宙という無限の可能性が広がっているのだ。共に進もう!!我々の未来は、今ここに始まるのだ!!」

 トリニティ・パレスの青空に地鳴りのような大歓声と拍手が鳴り響き、狂乱とも言えるハイテンションが観衆を覆いつくしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ