改良版ホムンクルス計画(2)
ヴィクトールは3年ぶりに宇宙へと上がっていた。エクセル・バイオの研究施設「冒険者」の開発研究室に、ヴィクトールの他、ユリとリリー、ヘイゼル・ブランカが揃っている。
「・・・計画ですから、これくらいでいいでしょう。ユリもリリーも短期間でよくやってくれました。ありがとうございます」
「総帥様に褒めていただけるなんて、光栄です」
「総帥様の頼みなら、何でもやりますよ」
ユリとリリーの笑顔がはじける。
「未完成の重力コントローラを、どう操作させるかに悩みましたね。霊子通信を応用しようかとも思ったのですが、脳波だけで動かせそうです。ホムンクルスの脳とリンクさせるだけですから」
「軍事利用しやすいように、装甲を重厚にしました。見た目が武骨で好みではないのですが」
「反射的に殴ったり蹴ったりしそうなので、拳と脛、足の甲には複合装甲を施しました」
「コンセプトからすると、接近戦がメインになりそうですよね。警棒を標準装備にしてありますが、剣とかハンマーとかの武器に換装することを想定しています」
どうやら二人はノリノリで作業したようだ。計画書ではあるが、すぐにでも実験機を試作できそうな設計図も作られていた。
「これは両国とも飛びつきそうですね。問題はどうやって彼らに入手させるかです。『はいどうぞ』と差し出すわけにもいかないでしょう?」
ヘイゼル・ブランカは珍しくコミカルな雰囲気を出していた。「フェノーメノ・モンストローゾ」の印象が強すぎるのか、双子からは怖がられていたのだ。仲間となったからには恐怖感は払拭しておく必要があったのである。ヴィクトールは微笑を携えながら見守っていた。
「普通にCROUNのプロジェクトとして提案されたモノが廃案になった、というのではダメなのですか?」
リリーの質問にヴィクトールが優しく回答する。
「はい。この『改良版ホムンクルス計画』を極秘に入手した国家が『計画を実行するにはCROUNが必要だ』と思わせなければなりません。できればこの計画を、自分たち国家のオリジナルの計画として発表してくれるといいですね。彼らが欲しいのはCROUNという設備ではなく、宇宙開発の主導権なのですから。出遅れた彼らが巻き返すのに、CROUNが必要になるわけです」
「・・・総帥様は、そこまでお考えだったのですね。ではどうやって国家に極秘に入手させるのですか?」
「ヨーコに協力してもらいます。いや、実際に動くのはゼーですね」
佐藤洋子は数年前から「ようこそようこの宇宙生活」というブログで、「冒険者」での暮らしを配信していた。ダミーのパソコンを使用して「苦労して作った計画が中止になった」という偽のブログを配信する。計画の中心となった同僚から愚痴を聞かされる、という内容だ。
「匂わせるだけで十分です。あとは向こうが勝手にハッキングしてくるでしょう」
「ハッキングさせるのですか?」
「ハッキングさせるのはダミーのサーバーです。ダミーと言っても90%は本物にしますけどね」
「ダミーのサーバーまで作るのですか?」
「国家を相手に騙すのです。10兆が20兆になるのなら、安いモノでしょう?」
冷徹なヴィクトールの笑みを、3人は黙って見つめていた。