ブラックホール解析
グラビサイエンス研究所(GraviScience Institute)と未来エネルギー研究連盟(Future Energy Research Federation, FERF)はブラックホール生成に於いて、他の研究団体の追随を許さないほどの成功を収めていた。彼らはブラックホールの生成技術を惜しげもなく公開し、また生成したブラックホールも提供している。グラビサイエンス研究所は世界のトップ科学者が集まる公共研究機関で、未来エネルギー研究連盟は科学者や研究者が集まる国際組織であるため、技術独占による利益よりもむしろ「ブラックホールの構造解明」を優先させたのである。
宇宙に存在するブラックホールへの観測衛星はいくつかが到達しており、すでに構造解明のための分析に取り掛かっている。しかし25世紀に入っても有人によるブラックホール観測衛星はなく、直接的な実験には未着手の段階である。ブラックホールにはまだまだ未解明な部分が多く、未知なる存在なのだ。超極小であってもブラックホールである。いや超極小だからこそ、危険やリスクは宇宙に存在している大質量のブラックホールより遥かに少ない。自分たちの利益よりも「人類の利益」を優先させることは、科学者や技術者たちにとって当然の行為であるとも言えた。
さらにグラビサイエンス研究所と未来エネルギー研究連盟は「ブラックホールエンジン理論」を応用した「ブラックホール解析装置」を公開した。
ブラックホールエンジンがコアとなるブラックホールから放出されるエネルギーを吸収し利用するのに対し、ブラックホール解析装置はエネルギー吸収装置をエネルギー測定装置に変更したものである。まずはブラックホールエンジンに対し何を燃料とするか、何がエネルギーとしてブラックホールから放出されるのかを知るためだ。それらを観測することによってブラックホールを解析しようとする試みでもあった。
結果、以下のようなことが判明した。
ブラックホール生成装置で作られた人工ブラックホールは、回転しない「シュバルツシュルト・ブラックホール」である。
プラズマをブラックホールに吸収させた場合: プラズマは高温のイオン化ガスであり、非常にエネルギッシュな状態である。そのためにブラックホールの質量に変わることなく、大量のエネルギーとして放出される。放出されるエネルギーの種類は様々で、熱、光、中性子、放射線、重力線などであるが、重力子の割合は期待されるほど多くはなかった。
ウランなどの放射性物質を吸収させた場合:重金属でもあるウランやプルトニウムなどの放射性物質は核分裂よりも高いエネルギーを放出する。放出されるエネルギーの種類はプラズマと同様だが、放射線の割合が多くエネルギー収集しにくい。
タングステンなどの重金属を吸収させた場合:エネルギーとして放出される前に重力分解されてしまい、エネルギー放出はほとんどなく、ブラックホールの質量を増やすことが目的となる。
さらに驚くべきことに、ブラックホールは何もしていない静止状態でも、微量ながら重力子を放出し続けていたのだ。
しかしこの観測結果に、科学者たちは落胆した。
ただのエネルギー発生装置として捉えるならば、現状のまま「ブラックホールエンジン」の実験を進めてもいいだろう。常に重力子を放出していることから、永久機関としても期待が出来る。とはいえ「重力コントローラ理論」が提唱された以上、「ブラックホールエンジン」は「重力コントローラ」を実現させるものでなければならない。
今回解析されたデータからは、要求されたスペックには程遠いエネルギー放出量でしかなかった。