評議会
新生ISCOにて初の評議会が開催された。評議員は国家、企業、研究団体、合わせて160人ほどになる。ISCOに於ける評議会とは、理事会にて上がってきた案件の採決を図る会議である。前半は評議員からの質疑応答、後半は評議員の記名による賛否投票。三分の二以上の賛成により可決される。
第一回の評議会の議題は「加盟団体供出金の増額」である。現在の供出金は各団体バラバラで、国家はGDP換算、企業は保有資産、研究団体は登録科学者数に、それぞれ係数を掛けたものとされている。今回の議題内容は供出金係数の見直しであり、研究団体は据え置きだが、企業は2倍、国家は3倍となるものだ。さすがに研究団体以外の評議員から反発が起きるものと予想されたのだが、理事の団体はさらに倍、エクセル・バイオに至っては「係数をさらに5倍とする」と表明したのである。企業の場合、供出金は開発機器などで物納することが可能だ。とはいえエクセル・バイオは業績が伸び設備投資を増やしていることから、前年比で20倍強の供出金となる。さすがに反対に投票する団体は皆無で、棄権した評議員が少数いただけであった。
かくして新生ISCOは前年比3倍もの運営資金を確保することとなり、懸念された財政状況もクリアになったのである。
なお独裁国家の理事は、体調不良のために評議会を欠席している。後日、独裁国家は理事の人員を変更するとISCOに告げてきた。
評議会は3ヶ月に一度開催される。基本は毎月開かれる理事会にて纏められる、様々な案件に対する可否投票だ。
2回目の評議会は「クローン法案制定プロジェクトの発足の是非」であったが、プロジェクト内容が草案のための調査に留まっていることから早々に可決された。どのような法案になるのかは別として、クローンによる影響の調査は必要だと誰もが感じたからであろう。
「アクアグリーン殿、少しよろしいかな?」
ヴォッタ・アクアグリーンは、とある一人の評議員から呼び止められた。胸のネームプレートには「GraviScience Institute」と書かれている。「グラビサイエンス研究所」と言えば「DDPS-POPCER System(Device for Detaching the Psyche-Soma Linking Thread, Projecting it from the Original, Possessing the Clone, and Ensuring Rebirth System=魂の緒を切り離し、オリジナルから射出し、クローンに憑依し、再生を確実にするための装置)」を開発した「QP(GraviScience Quantum Phantom Research Institute=グラビサイエンス・量子幻影研究所)」を擁する老舗の研究団体だ。アステロイドベルトでは「GECRI-2nd((GraviScience Energy Core Research Institute-2nd=第2・グラビサイエンス・エネルギーコア研究所)」という大規模研究施設にて、ブラックホールエンジン開発事業も手掛けている。言わばISCO加盟研究団体の中でもトップクラスの実力を誇っていた。
「私ども『グラビサイエンス』に資金援助をしてもらえないでしょうか?」