ISCO理事会(3)
理事会は解散となり、各理事がそれぞれの控室へと戻る。アクアグリーンの元に古豪国家の理事が近づき、一言告げた。
「気を付けたまえ。彼の国は面子を重んじる。予期せぬことを起こすかもしれぬ」
「・・・ご忠告ありがとうございます」
アクアグリーンは表情を変えずに軽く会釈する。ただ僅かに口元に浮かんだ笑みを、古豪国家の理事は見逃さなかった。国家外交はきれいごとだけではない。時には暗部が動くこともある。しかし彼は暗部を恐れるどころか、寧ろ待ち構えているようにも見えた。
(・・・恐ろしい)
率直な感想だ。国家外交の中で、今まで出会ったことのないタイプだった。腹の中を探る戦いなら何度もある。しかし彼は腹黒いわけではなく、むしろ清廉さを感じるほど正直に思えた。いや、腹に何かを抱える必要がないのかもしれない。なのに彼から恐怖を感じるのは、一体どこから来るものなのか。本能が「敵に回すな」と警告しているようにも思えた。
(本当に恐ろしいのは、あのような人物を従えているクローネル殿かもしれぬ・・・)
本国への報告は、意味を理解させることが難しいかもしれない。
アクアグリーンはエクセル・バイオの控室には行かずに、独善国家の控室へと向かう。ちょうど独善国家の理事が部屋に入るところだった。
「ん?何だ?私に何か用か?」
明らかに動揺した様子の理事。対するアクアグリーンは涼しい笑顔で応じる。
「いえ。私に用があるのは貴公かと思いまして。こうして出向いた訳ですが?」
「貴様なんぞに用はない!!失せろ!!」
「・・・左様ですか。では貴公の国家情報局の副長へお伝えください」
「・・・何だ?知り合いなのか?」
理事は怪訝な表情を見せる。
「ご自分の手で、ご自分の首を切って自害した気分は、いかがですか?と」
「あ?」
理事にはアクアグリーンの言葉の意味がすぐにわからない・・・が、やがて一つの事実に辿り着き「ひっ」と小さな悲鳴を上げて尻餅をついた。
独善国家の国家情報局の副長は1年ほど前に替わっている。前任者は独裁国家の暗部を取り仕切っていた人物なのだが、謎の自殺を遂げていた。まことしやかに「暗殺された」と噂されたのだが、一切の証拠がなかった。
理事は暗部とも面識がある。副長の件は秘密裏に処理されたはずなのだが・・・副長の暗殺と思われる自殺と目の前の若者が結びついたのだ。
「おやおや、そんなところに座っては、高価なスーツに汚れがついてしまいますよ」
アクアグリーンは穏やかな表情で、理事に手を添える。すると何やら見えない力で、理事は強引に立たされた。
「それでは、失礼いたします」
丁寧に会釈をして、アクアグリーンは理事に背を向ける。
「あうあう・・・」
震えが止まらない理事は、言葉をうまく発することができなかった。