ISCO理事会(2)
「いやいや・・・国家という輩は、何ともケツの穴の小さいことで」
エクセル・バイオの若い理事「ヴォッタ・アクアグリーン」の言葉に、怒りを露にしたのは独善国家の理事。
「黙れ!!小僧!!」
「・・・小僧?私のことですか?・・・どうやら貴公は我がエクセル・バイオのクローン技術を御存知無いと思われる。我が総帥『ヴィクトール・クローネル』様は、今や65歳ですが、15歳の体にいつでも転生できます。私も転生した身です。私を何歳だとお思いですか?私を『小僧』ということは、貴公は我が総帥も『小娘』と宣うおつもりですか?」
アクアグリーンの年齢不相応な威圧に、国家理事たちが息を飲む。企業理事たちはヴィクトールからある程度の情報は得ていたものの、予想以上の威圧感に声を出せないでいた。
「ぐぬぬ・・・ならば対案を申してみよ!我らを罵倒したのだから、それなりの案はあるのだろうな!?」
ようやく絞り出した独善国家の理事の言葉に、アクアグリーンは涼やかに答える。
「簡単なことです。支出が大きく収支が赤字であるならば、供出金を増やせばいいだけのこと」
「は?学者ごときの尻拭いに、我らに『もっと金を出せ』と申すのか!!」
「・・・ノブレス・オブリージュ」
「ん?何だ、それは?」
「中世の言葉です。貴族の心得とも言うべき、不文律の倫理観とでもいいましょうか。貴公の国にはない言葉かもしれませんが、そちらのお二方はご存知かと思いますが?」
「・・・ぬう」
超大国理事と古豪国家理事の気色ばんだ表情が、徐々に落ち着いていく。
「社会的責任を持ち出されたら、反論できぬな」
「・・・よかろう。額については本国に持ち帰ることになろうが、検討の余地はあるようだ」
「・・・な、何ぃ!?」
同志と思っていた2カ国のまさかの寝返りに、独善国家の理事は言葉を失った。
「研究は足枷なく、自由にやらせるべきです。かの『新素粒子の父』と呼ばれたJ.ナカオカ博士も『新素粒子の母』と呼ばれたナディヤ・カザンスカ女史も、研究団体の科学者です。50年宇宙で研究し続けたり、科学者でありながら文芸書を出すようなことは、国家に所属していたら実現しなかったでしょう。最近でも我がエクセル・バイオのクローン転生技術の発展に寄与した『DDPS-POPCER System』は研究団体が発明したものです。蔑ろにしていいわけがない。そう思いませんか?」
ふっと2カ国の理事の顔がほころぶ。
「さすが、エクセル・バイオの代表として理事になるだけのことはあるな。なかなかに深い見識をお持ちのようだ」
「ISCOの意義が垣間見えたような気が致します」
おおっと小さな歓声が企業理事の口から漏れ、CUEOはふ~っと深いため息を吐いた。
こうしてISCO初の理事会は波乱を含んだものの、一応の纏まりを見せた。
ただ一人を除いて。
「おのれ・・・儂のメンツを潰しおって・・・」