フェノーメノ・モンストローゾ(3)
「ヴィクトール・クローネル殿・・・私は、君に、仕えたい」
「え?」
真剣な表情のフェノーメノに、ヴィクトールは驚きを隠せない。
「私の悲願は・・・ヴィクトール・クローネル殿の仲間となり、共に生きることだ」
自分を殺そうとしていた暗殺者が、自分に仕えたい?自分たちの仲間になりたい?ヴィクトールは混乱する。フェノーメノの意図が理解できなかった。
「少し私の話をさせてもらおう。私は・・・いや、私たちは『不死』の研究をしていた。西洋魔術をベースとし、永遠の命を求めるために『超心理学』『スピリチュアル学』『古代伝承』『東洋魔術』『アフリカ呪術』などあらゆる分野での研究者を集め『永遠の輝き団』を立ち上げた。肉体の不死化は不可避だと早々に結論付け、永遠の魂を得ようとした」
「・・・魂も、いずれ死に至るのですか?」
リリーが質問する。
「いい質問だな。魂は肉体があることで生きていられるのだ。魂だけの存在では生きていられない。それは君達でもわかるだろう?」
ヴィクトールは幽体離脱を考える。幽体のままでいられるのは「魂の緒」が肉体と繋がっているからだ。肉体と魂の緒が繋がっていない魂が生きていられないのは、男性のクローン転生が失敗したことで科学的に裏付けされている。
「では『幽霊』は魂ではないのですか?」
今度はユリが質問した。
「それもいい質問だ。幽霊は『魂の残効』とも呼ぶべき存在だ。彼らには『理性』も『思考』もない。脳の病気を思い浮かべるといい。脳に疾患を生じた場合、患者には理性や思考が見られなくなることがある。それと同じだ。理性や思考を司るのは、厳密に言えば『脳』なのだよ。脳を持たない幽霊に、理性も思考もできはしない。故に人間として『生きている』とは呼ぶことはできない。そうだろう?」
なるほど、とユリは頷く。
「私たちの目指す『不死』とは、人間として人間らしく永遠に生きるということだ。理性や思考を失わずに人間として生きること。そのための『永遠の輝き団』だった。・・・そして、できたのが『私』ということだ。『人間らしく』とは言ったものの、出来上がった私は到底人間とは呼べない『化け物』だがね」
グレイの肉体に憑依したフェノーメノの腕から、スーッと骸骨の腕が浮かび上がる。
「私は私を亡き者にしようという連中から狙われた。私は『永遠の輝き団』に命を懸けた同胞の結晶なのだ。私たちの研究を無にするわけにはいかないので、全てを返り討ちにしてやった。そして気が付けば・・・私たちがまだ人間として生きている頃の友人も家族もみなこの世を去っていた。当たり前だな。みな『不死』ではないのだから」
フェノーメノは骸骨の腕を、肉体に戻す。
「いつの間にか『化け物の仕業』と呼ばれるようになった。こんなはずではなかった、と後悔したよ。理性や思考があるからなおさらのことだ。理性の無い本当の『化け物』になった方が楽だったかもしれない。苦悩したよ。・・・孤独だった」
俯いて話をしていたフェノーメノが、ヴィクトールを真っ直ぐに見据えた。
「わかるかい?君たち『エクセル・バイオ』は、私たち『永遠の輝き団』の理想を現実にしたんだよ」