フェノーメノ・モンストローゾ(2)
「やはり、あなたは私の騎士でしたね。・・・グレイ」
「ここは俺に任せろ、ヴィクトール」
少女のような笑みを浮かべるヴィクトールに、力強い笑顔で応えるグレイ。光明が灯ったかのような空気を、黒いローブの骸骨の笑い声が切り裂く。
「フハハハハハ。これだよ、これ!!この『絵』を待っていたのだ!!」
霊体は声を出せないはずだが、骸骨はテレキネシスで空気を振動させることで声にしていたのだ。
「半信半疑だったが、確信に変わった。さあ、『絵』の続きを見せてくれないか?」
ゆっくりと近づく黒いローブに対し、ヴィクトールの盾のごとくグレイが両手を広げた。
「行かせないぞ」
「用があるのは君だよ、ボマー」
黒いローブがグレイを覆い、骸骨がグレイの体に吸い込まれていった。
ヴィクトールは知っている。骸骨がグレイを乗っ取ろうと憑依して、逆にグレイに取り込まれてしまったことを。しかも2回も続けて、だ。テレポートすら会得し完全覚醒したグレイならば「怪物の仕業」と呼ばれた骸骨を吸収できるだろう。霊力はグレイの方が上だと、ヴィクトールの霊感が伝えている。・・・しかし。
静かなる攻防。グレイの体内で魂の喰らい合いが繰り広げられているのだが、外からはわからない。ただグレイが目を瞑り黙って立っているだけだ。
1分が5分にも感じられる中、グレイはゆっくりと目を開ける。
ヴィクトールは即座に理解した。・・・グレイが負けたことを。
「私の念願は叶った」
涼やかな笑顔で呟くグレイの姿にユリとリリー、ゼーも、グレイの敗北を悟った。ヴィクトール以外の3人は、危険を感じ身構える。
ヴィクトールは一瞬だけ悲しそうな顔を見せた後、無表情のままグレイを乗っ取ったフェノーメノの前に立った。そして穏やかな笑みを携える。
「あなたの『念願』とは何ですか?『最後』に教えてもらえますか?」
最後。ヴィクトールは「死」を悟り、運命として受け入れ、抗うことをやめた。
クローンの体を複数手に入れ、魂の緒を繋ぐことで「不死」になったヴィクトール。しかし一つしかない肝心の魂を喰われてしまっては、間違いなく「死」が訪れる。グレイの魂を喰らい肉体を乗っ取ったフェノーメノに対抗する術を、グレイを失ったヴィクトールは持ちえない。抗いようがないなら、受け入れるしかなかった。
「私の・・・念願・・・いや『悲願』と言ってもいい」
フェノーメノに殺気は感じられない。
「ヴィクトール・クローネル殿・・・私は、君に、仕えたい」
「え?」
真剣な表情のフェノーメノに、ヴィクトールは驚きを隠せない。
「私の悲願は・・・ヴィクトール・クローネル殿の仲間となり、共に生きることだ」