転生
ヴィクトールが目覚めたのは薄暗い部屋のストレッチャーの上。なんとか転生に成功したようだ。ヴィクトールのクローン体のいくつかは、ヴィクトールがいつ転生してもいいように、コールドスリープではなく通常の睡眠状態で保管されていたのだ。ヴィクトールは上体を起こし、辺りを見渡す。見慣れたような部屋なのだが、クローン体が睡眠安置されている場所はどこも似たような造りだ。自分の手足を見るが、どのクローン体に転生したのか今一つわからない。ヴィクトールはストレッチャーから下りて、近くの扉へと向かう。クローゼットにいくつかの服が並び、正面に大きな鏡がある。映ったヴィクトールの姿は、金色の短髪で筋肉質の体。オリジナルのヴィクトールの姿だった。ということは、ここは宇宙にある「冒険者」だ。
ヴィクトール自身としては「妖精」で用意したクローン体へ転生したかったのだが、目論見は外れたようだ。死んだ時の転生先は自分では選べないということである。オリジナルに転生したのは、一番長い時間生きたせいか単なる偶然か。是非、検証実験したいところだが。
(さすがに何度も死ぬ経験はしたくないですね)
ヴィクトールは自分の案に苦笑した。
更衣室の外が騒がしい。誰か数人が入ってきたようだ。
「「総帥様!!ご無事ですか!?」」
双子のユリとリリーの声がハモる。二人といっしょに更衣室に入ってきたのは佐藤洋子のクローン体である。佐藤洋子とは似つかない美少女姿で現れたのは・・・「ゼー」?
「今は深夜だぞ?何を驚いている?」
ヴィクトールが「妖精」で暗殺者の死霊に襲われたのは、深夜であった。宇宙時間は地球の日付変更線の時間に合わせており、ユーラシア大陸東端のチュチク半島に位置する「妖精」は日付変更線の近く。宇宙時間との時差はほとんどない。よって深夜に佐藤洋子と入れ替わる「ゼー」がいるのは自然なことであった。
「私は無事・・・とは言えないですね。一度、死にました。だから、ここにいるのです」
「「!!」」
三人は絶句する。ヴィクトールが殺されたという事実と、死んでも魂の緒が繋がった肉体に転生できるという事実に。
「ユリとリリーも自分のクローン体にいつでも転生できるようにしておいてください。いつ何があるか、わかりません」
「「わかりました」」
「それで、お前を襲った賊は始末したのか?」
極めて冷静にゼーが問いかける。
「いいえ。私が死んだあとについては、まだ認識していません。グレイならわかるかもしれませんが」
「グレイ?誰ですか?」
《ヴィクトール!!無事なのか!?》
ちょうどグレイからのテレパシーがヴィクトールに届く。ヴィクトールはグレイが無事でいることに、ほっと胸をなでおろした。
「いいタイミングですので、皆さんにもグレイを紹介しましょう。グレイとテレパシーをリンクさせます。3人ともできますね?」
ユリもリリーもゼーも、3人ともESP能力は高い。ヴィクトールとグレイを交えたテレパシー会議が始まることとなった。