強襲(2)
ヴィクトールの背後に漆黒のローブを纏った骸骨が立っている。しかしヴィクトールの前ではグレイに漆黒のローブが取り憑いていた。骸骨は複数いるのか?
《案ずることはない、クローネル殿。複数いても、私は一人だ。人間ではないから『一人』とは言えないがな》
穏やかで知的な印象を感じるテレパシー。殺意も感じられないのだが、ヴィクトールは冷や汗が止まらない。骸骨の腕がヴィクトールの首に回り、金縛りを受けたよう動けなくなった。完全に生殺与奪権を握られたようだ。
ヴィクトールは務めて冷静に、背後の骸骨に問いかける。
《私をどうするつもりですか?》
《フム・・・『ボマー』次第だな》
グレイ次第?どういう意味なのか?ヴィクトールには骸骨の意図がわからない。もう一体の骸骨に憑りつかれているグレイの行く末を見つめる。漆黒のローブが翻り、骸骨はグレイの体の中に入り込んでいた。グレイが全身を掻き毟るように苦しんでいる。しかし・・・
「うおぉぉぉ~っ!!」
グレイが力強い雄たけびを上げ、漆黒のローブが霧散する。霊視しなくとも見えるほど、グレイの全身からオーラが噴き出ていた。
「完全覚醒」
グレイは骸骨の憑依に打ち勝ち、逆に骸骨の霊子を「喰らった」のだろう。周囲を圧倒するほどの力が漲っている。
「ヴィクトールから離れろ!!フェノーメノ・モンストローゾ!!」
グレイは弾けるようにヴィクトールの背後の骸骨に殴り掛かっていく。
《私を思い出したか、ボマー》
骸骨はヴィクトールを捉えたまま、グレイの突進を躱す。グレイはすぐさま振り返り、右拳に力を籠めた。
「ヴィクトールを離せ!!」
ヴィクトールを抱えた骸骨の周囲で火の手が上がる。
「パイロキネシス(Pyrokinesis=発火能力)・・・?」
ヴィクトールが呟いたPK能力。しかもESPの空間認知を駆使し、ヴィクトールには当たらないようアスポート(Asport=物体送信)の如く炎を飛ばしている。情報として得ているグレイには無い能力。「完全覚醒」が違う意味に感じる。サイキッカーとして完全覚醒したのか。「妖精」最上階のプライベートルームが炎に包まれた。
《想像以上だ・・・ハズレではあったが、収穫はあったということか》
ズズズと音が見えるかのように、骸骨から黒いオーラが沸き起こる。
《ハズレなのはクローネル殿のせいかもしれんな。悪いが消えてもらおう》
黒いオーラと共に、骸骨がヴィクトールの中に入り込む。自分の魂が削られていく感覚。危険を感じ、幽体離脱で逃げようとするが・・・
「できない!?」
魂が肉体に縫いつけられたように、脱出が不可能となる。このままでは魂が骸骨に喰われてしまう。せめて魂が離脱できれば。
「グレイ!!私を殺しなさい!!」
ヴィクトールは複数の肉体と魂の緒が繋がっている。現在の肉体が死ぬと、魂の緒を通じて別の肉体へと自動的に転生するはずだ。
「・・・わかった」
一瞬の躊躇はあったものの、グレイは一瞬の後にヴィクトールの懐に潜り込む。左の掌をヴィクトールの胸に添えた。
バチィッ!!!
雷に似た電撃がヴィクトールの心臓を貫いた。次いでグレイが右手を添えると、ヴィクトールの体が燃え上がる。途端に骸骨がヴィクトールの背中から出現した。
《ボマー・・・次に期待だな》
骸骨はスーッと虚空に霧散する。グレイはヴィクトールの黒焦げになった亡骸を抱きしめていた。