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目覚め(2)

「妖精」の地下を監視するモニター室。PGC(Psycho Genome Capture)デバイスも兼ね備えたカメラに映っているのは、ベッドに手足を拘束され目隠しと猿轡をした一人の青年の裸体。髪が多少伸びてはいるが、PNGに間違いない。人権団体が見たら、血相を変えて抗議してくることだろう。

 ヴィクトールは椅子に座り、顔色一つ変えずにPNGの映ったモニターを見ていた。特に変わった様子もなく、GMCデバイスにも反応はないようだが。

「食事はどうしていますか?」

「クローン育成用の栄養水を点滴で与えています。クローン育成用なので、排泄は必要ありません」

 監視員の返答に、ヴィクトールは黙って小さく頷く。

「私の体をお願いします」

「え?」

 監視員がヴィクトールの言葉を理解する前に、ヴィクトールの体は弛緩し椅子に力なく埋まる。ヴィクトールは幽体離脱して、PNGに会いに行ったようだった。しばらくするとヴィクトールの幽体らしき白い靄が、PGCデバイスを通したモニターに映り込む。

 ヴィクトールはPNGの裸体を天井付近から眺めていた。7年間意識を失い寝たきりのまま、筋肉もなく痩せ衰えた肉体。身長は低く、5ft6inあるかないか。年齢は不詳だが、まだ20代前半ぐらいに見える。ひょっとしたらヴィクトールを襲った時は、まだ10代前半だったかもしれない。

「誰かいるの?」

 幽体なので声は聞こえないのだが、PNGによる無意識のテレパシーがヴィクトールに伝わってきた。顔は辺りを見渡すようにせわしなく動いている。リアクションからPNGは透視も霊視もできないようだ。幽体を察知する霊感は備わっているようだが。

 ヴィクトールは自分の体に戻る。目を開けると所長が目の前で仁王立ちしている。

「社長、PNGと面会するつもりですね?おやめください」

「心配いりません。PNGにあるのは怯えと恐れ。怒りはありません。話をしても大丈夫ですよ」

「し、しかし・・・」

「彼は『子供』です。暗殺組織には利用されていただけでしょう。彼は根っからの殺人者ではありません。

 暫くの間、所長とヴィクトールの睨み合いが続く。先に口を開いたのはヴィクトールの方だ。

「万が一、PNGに私が殺されたとしても・・・元の体に転生するだけです。問題ありません」

 所長は肯定の意を示す溜息を吐いた。これ以上は何を言っても無駄だという、諦めの溜息と同意義ではある。

「こう見えて『子供』のあしらいは上手いのですよ。私に任せてください」

 所長はヴィクトールが子供と接しているところを見たことがない。そもそもヴィクトールの雰囲気は子供どころか他人を寄せ付けないほどだ。所長には不安しかなかった。



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