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事変(1)

 QPからの実験報告に、クワメ・アビオラCUEOは年甲斐もなく小躍りして喜んだ。霊子と反霊子を銀によってコントロールできるようになるのだ。これでブラックホールエンジン開発は確実に前進する。アビオラの考える宇宙時代に必要不可欠なブラックホールエンジンの実用化が、ようやく手が届くところまで来たと言えるのだから。

「せめて自分の目で『世界初の実用ブラックホールエンジンのロールアウト』ぐらいは見たいものだが・・・転生がうまくいかない限り難しいか」

 男性の憑依転生に関する問題はヴィクトール・クローネルも、すでに新たな研究を始めていると聞く。自分の命が尽きる前に、せめて憑依転生実験できるまでになればいいのだが。

「転生について私にできることはないな。ならば自分のできることをやるまでよ」

 QPの提示してきた硝酸銀霊子水を使用した「霊子バッテリー」の基本構造は、銀を含有した1㎥タンクをフッ素樹脂によるライニング加工したものだ。さらに霊子通信や霊子コンピュータなどの霊子回路を構成する基本素材や機器の素案も提示されていた。霊子が外部からの重力波などで万が一にでも反霊子化しないよう、銀による対策が為されている。そこかしこに銀がふんだんに使用されることとなり、銀資源の不足による高騰が予想された。

「対策を練らねばならんな。まあ、ちょうどいい頃合いか」

 アビオラはISCO内に新たなプロジェクトチームを設立する。

「宇宙通貨制定プロジェクト」

 かねてよりアビオラは宇宙独自の通貨制度の必要性を感じていた。宇宙でも便宜上「ドル」を基軸通貨としていたが、地球の相場に引きずられてしまうのは否めない。今はまだ宇宙の定住者は少なく、地球と宇宙を行き来しているものがほとんどなので大きな問題はない。しかし高出力のブラックホールエンジンが実用化され、将来宇宙での生活者が増えたときに通貨の問題が必ず表面化するはずだ。早いうちに手を打っておくに越したことはない。

 通貨価値はプロジェクトチームに任せるとして、電子決済はともかく銀貨は廃止しチタンコインを使用することを主軸とした。アステロイドベルトにて研究している団体から、チタンを多く含む小惑星が発見されたという報告も受けている。チタンコインを地球にも普及させて、銀貨を回収し銀資源としたいところだ。クローンによる憑依転生の法令化など、宇宙独自の法制定も急がなければならない。

「さあて、私の体はいつまで持つのかな?まだまだ死ぬわけにはいかんな」

 クワメ・アビオラの眼光が生き生きと鋭くなる。


「失礼します。紅茶をご用意しました」

 秘書官がワゴンに紅茶とリンゴを乗せて、CUEO室に入ってきた。15:00に休憩を挟む、毎日欠かすことのないルーティン。いつもと変わらない・・・はずだった。

「!!」

 秘書官に果物ナイフで喉を刺された。声も出せずテーブルに突っ伏したアビオラの背中を、二度三度と秘書官の持つナイフが刺さる。アビオラは痛みに耐えながら、必死にテーブルに設置された非常ボタンを押した。高齢で体調を崩しがちなアビオラのための、医療室に直結した緊急用非常ボタン。

 けたたましいベル音がCUEO室で鳴り響き、赤い非常灯が点滅する。

 薄れゆく意識の中でアビオラが見たのは、不気味な笑みを浮かべながら自分の首を切り落とす秘書官の姿だった。

 



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