再実験(3)
「まず、ヨーコは医務室へ行ってください。24時間、何も口にしていないのでしょう?メディカルチェックを受けてください。ユリとリリーは付き添いをお願いします」
「あ、そうだった。道理でお腹ペコペコだ~。医務室より食堂がいいかな」
「ダメですよ、ヨウコさん。ちゃんとお医者様に診ていただかないと」
佐藤洋子、ユリとリリーの3人がワイワイと騒ぎながら、部屋を出ていく。一人部屋に残ったヴィクトールは、無線を使って秘書官たちを呼んだ。ヴィクトールが憑依していた佐藤洋子のクローンが見えないからだ。反応を見る限り3人はクローンの姿を見ていないのだろう。ヴィクトールがクローンから憑依解除された後、クローンはどこへ消えたのか?
佐藤洋子を乗っ取ったと思われる者は、ヴィクトールを明らかに敵視していた。今度はクローンの体を乗っ取って、今もどこかに潜んでいるかもしれない。ヴィクトールは秘書官たちの到着を待たずに、佐藤洋子の部屋を隈なく探し始める。身の危険は承知の上だが、クローンの体を擁するヴィクトールは一度くらいなら死んでも問題はないのだから。
ヴィクトールは霊感を張り巡らせ、人と霊の気配を探る。佐藤洋子の部屋のどこにも人と霊、どちらの気配も感じられない。この部屋にはいない?いや、それはあり得ない。自問自答する中、ヴィクトールはクローゼットの服に隠されたクローンを見つけた。霊視鑑定をすると、クローンの体には魂が宿っていないことがわかる。代わりに魂の緒が、クローンの頭からどこかへと伸びているのを確認した。それが意味するところは、つまり・・・
メディカルチェックの結果、軽い脱水症状と診断されたものの佐藤洋子の健康状態に問題は無かった。佐藤洋子本人の希望もあって、憑依実験は3日後に再実施されることが決定した。
「ヨーコには自室ではなく、実験中はこちらの部屋で過ごしてもらいます」
ヴィクトールが案内したのは「冒険者」内にあるVIPルーム。超有名ホテルのスイートルームに引けを取らない、天蓋付きのベッドがある豪華な部屋だ。
「す、すごいです。お姫様になったみたい・・・」
「但し実験中はこの部屋から出ることを許しません」
「・・・監禁ってことですか?」
「はい。さらにこの部屋のどこにいても監視カメラが捉えるようになっています。例えクローゼットの中に隠れようとしても、監視カメラは至る所に設置してあります」
「え~!?トイレの中も、ですか?」
「そうなります」
「いや、さすがにトイレまで見られるのは、ちょっと・・・」
「仕方ありません。ヨーコは失神を前提としているのでしょう?どこで倒れるのかわからないのですよ?室内でも打ち所が悪ければ、死に至ることもあり得るのです。ヨーコが部屋のどこにいても、監視しなければなりません」
「う・・・」
佐藤洋子は条件を飲まざるを得なかった。
「せっかくですから、今からこの部屋で過ごしてはどうですか?必要なものがあれば、全て用意しますよ」
「本当ですか!?嬉しい!!じゃあお姫様みたいなドレスを着たいです。金髪ドリルのウィッグとかありませんかね?この部屋で過ごすなら、コスプレしなきゃ、でしょ?」