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再実験(2)

 ヴィクトールが部屋に駆け付けたとき、暗闇の中、佐藤洋子はベッド上で膝を抱えたまま、焦点の合わない目で虚空を見つめ、何か小言をブツブツと言っていた。

 髪はボサボサで肌は荒れ、目は窪み唇はかさついている。食事どころか水分も摂っていないようだ。ヴィクトールは佐藤洋子を落ち着かせるため、瞑想に入ろうとする。次の瞬間、佐藤洋子が鬼のような形相でヴィクトールを睨んだ。

「お前がヨウコを苦しめる!!」

 声は間違いなく佐藤洋子のものなのだが、口調も表情もヴィクトールの知る彼女ではない。まるで別人に乗っ取られたような・・・

「ま、まさか!?」

 有り得ない話ではない。霊媒体質である佐藤洋子に、何者かが憑依しても不思議ではないのだ。精神が疲弊した状態の彼女ならば、他人の霊に取り憑かれても抵抗できないだろう。

「・・・あなたは誰ですか?」

「ヴィクトール・クローネル!!お前が憎い!!この体から、出ていけ!!」

 バンっという衝撃を感じ、気が付くとヴィクトールは研究室の別室で寝かされているはずの自分の体に戻っていた。わけもわからずヴィクトールは自分の両手を見つめる。

「強制的に憑依を解除された?ヨーコが乗っ取られた?ヨーコを乗っ取った者は、強い霊力を持つ霊なのか?ヨーコがヨーコで無くなる?ヨーコが危ない!!」

 思考が混乱する中、ヴィクトールは滅多に見せない焦燥感を抱えたまま佐藤洋子の部屋へと急いだ。


 佐藤洋子の部屋がヴィクトールの視界に入ったとき、ユリとリリー、それから佐藤洋子の笑い声が聞こえてきた。

「な、何が起きている?」

 ヴィクトールは気配を殺すように、そっと部屋の中を除く。


「ヨウコさん、気を失ってたんですか?」

「そうなのよ~。瞑想できなくて辛かったんだけど、気が付いたらユリに起こされてたみたいで。気を失っちゃえば良かったんだね~」

「そう言って、実はヨウコさん寝てただけなんじゃないんですか?」

「アハハハ。やだな~、リリー。いくら私だって、寝るのと気を失うぐらいの違いはわかるよ~」

「どう違うんですか?」

「・・・あれ?どう違うんだろ~?・・・わっかんないね。アハハハ」

 間違いなくいつもの佐藤洋子の笑い声だ。先ほどの別人のような佐藤洋子は何だったのだろうか?

 ヴィクトールは平静を装い、開いたままの佐藤洋子の部屋の扉を軽くノックした。

「無事なようですね、ヨーコ」

「あ、ヴィクトール総帥じゃないですか。すいません、気を失っちゃったみたいで、研究室に行けませんでした」

「総帥様もご自分の体にお戻りになられたんですね」

「・・・はい。ヨーコの無事を確認したので、ヨーコの負担にならないように憑依を解除しました」

 ヴィクトールは嘘を吐いた。

「最初は辛かったけど、最後は気を失って、皆さんの考えを無視できたんだから、合格ですよね?」

「・・・万全を期すために何度か実験を繰り返しましょう」

「え~、まだやるんですか?最初はちょっとキッついんですよね~」

「総帥様は慎重な方なんです。頑張りましょう、ヨウコさん」

「そだね。がんばって気を失わなきゃ!!」

「気を失うって、頑張ることなんですか???」

「ん・・・?それもそうだね。アハハハ」

 3人が笑いあう中ヴィクトールは検証の必要性を、冷や汗を流しながら感じていた。




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