憑依実験(3)
実験開始からあと30分ほどで24時間になろうとしていた。憑依実験の結果を確認するために、4人は研究室に集合する手順となっている。しかし「冒険者」の研究室にはまだ佐藤洋子のクローンに憑依したままのヴィクトールしかいなかった。
すると研究室の入り口ではない、別室に繋がる後方の扉からユリとリリーが入ってきた。別室は実験を開始した際にユリとリリーの本体が寝かされていた部屋である。二人とも憑依が解除されてしまったということだ。
「すみません、総帥様。眠ったら元の体に戻ってしまいました」
「謝る必要はありません。予想できたことです。眠ると幽体離脱しやすいということを、二人とも覚えていますよね?無意識の幽体離脱が戻るのは、本来の体なので驚きはありません」
「なるほど、そういうことでしたか。気が付きませんでした」
「では何故、総帥様は未だに憑依し続けていられるのですか?眠ってはいないのですか?」
「私は『瞑想』をしていました。心を無にし、思考しないことで脳の疲労を癒していたのです。眠ったら憑依が解除されてしまうことが予想できたので。徹夜も視野に入れましたが、ヨーコの負担が大きくなりそうなので瞑想にしておきました」
「そういえば、ヨウコさんはまだ来ていないのですか?」
「きっと起きることができないのでしょう。脳は基礎代謝量でも20%の比率を占めているのです。私たちは実験のために頭脳労働をしました。3人分の頭脳労働の負荷は、フルマラソンよりもヨーコの体力を奪ったことでしょう。1日で3㎏ぐらい痩せたかもしれません」
「ほ、本当ですか!!」
研究室にひときわ大きな声が響く。走ってきたのか、息を切らした佐藤洋子が研究室の入り口に立っていた。
「寝ていても良かったのですよ、ヨーコ。まだ疲れは取れていないでしょうから」
「そうはいきませんよ!!私も実験に参加していたんですから。ちゃんと結果を聞かなきゃダメですよ!!」
「結果ですか・・・実験結果で言えば、一般的な労働時間とされている8時間は優に超えることが出来ました。ホムンクルスへの長時間憑依実験は、成功と言えるでしょう」
「「「やった~」」」
佐藤洋子がユリとリリーの手を取り合って喜ぶ。
「・・・ですが」
ヴィクトールの言葉に3人の動きが止まった。
「ですが、ヨーコのクローンをホムンクルスとすることは、やはりできません。ヨーコの負担が大きすぎます」
「ダイエットだと思えば、へっちゃらです!!もう一回だけでもやらせてください!!」
「無茶です。ヨーコ、壊れてしまいますよ」
「だったら、ヴィクトール総帥の『瞑想』を教えてください。心を無にしたら、入ってくる考えが気にならなくなると思います!!」
「・・・一理あるかもしれませんね。わかりました。ヨーコが納得するまで、実験はまたやりましょう」