憑依実験(1)
翌日「冒険者」の研究室に、ヴィクトール、ユリとリリー、佐藤洋子の4人が集まった。中央には佐藤洋子のクローンが3体、ストレチャーに寝かされている。サポートを担当する3人の研究員は、ヴィクトールの邪魔にならないよう後方に控えていた。
「では9:00ちょうどより実験を開始します。私、それからユリとリリーは幽体離脱をして、ヨーコのクローンに憑依をしてください。24時間経過したら、ここに集合です」
「注意点はございますか?」
「実験開始から終了まで全員、テレパシーを含めた接触を緊急時以外は禁止します。ユリとリリーは憑依が解除されてしまったら、テレパシーで全員に伝えてください。ヨーコは体調がすぐれなくなったら、すぐにテレパシーで伝えること。何か質問はありますか?」
「テレパシーを含む接触禁止とおっしゃられましたが、私たちは何をしていればよろしいのでしょうか?」
「ヨーコのクローンに憑依したまま社員と会うのは好ましくないので、ユリとリリーは自室に籠ってレポートを作成してください。『霊子回路』でも『超心理学のロジック』でも『ホムンクルス憑依システム』でも構いません。今回の『ホムンクルス計画』の下案もいいですし『ホムンクルスの大型ロボット融合に必要な体組織のピックアップ』も近々手掛ける必要があります。ユリもリリーも好きなもののレポートを作成するといいでしょう」
「うわ~」
佐藤洋子はユリとリリーが抱える仕事量に、引いた。リリーは「私たちと同じ仕事をすればいい」と言ってくれたが、どれか一つでも佐藤洋子にはできる気がしない。「体を張ること」ぐらいしか佐藤洋子にはできそうもなかった。
「わ、私は何の仕事をすればいいですか?私は私のままなので、通常業務をすればいいでしょうか?」
「ヨーコは仕事をしないでください」
「え?」
「私たち3人の思考が24時間入ってくるのです。仕事などできるわけがありません。休日のように、なるべくリラックスして過ごすようにしてください」
「わ、わかりました」
「他に何か質問はありますか?なければ約1時間後から実験を始めます。準備を始めてください。ヨーコは戻っていいですよ」
「「「承知いたしました」」」
ユリとリリーは研究室に隣接されている別室へと移動する。佐藤洋子はユリとリリーの行方を確認してから一礼をして、研究室から出ていった。とりあえず二度寝しようか。それとも溜まっていたドラマの一気見か。スイーツを食べに行きたいたけど、あまり出歩かない方がいいか。突然の休日に、彼女は実験のことなどすっかり忘れてしまっていた。