表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5 ツバキが驚愕する

お読みくださりありがとうございます♪評価ボタンもどうぞよろしくお願いいたします★

時計を見ると間もなく17時だ。店じまいの時間が近づいてきている。

さっきから悩んでいるのは、お兄さん宛の手紙だ。

毎日一緒にいる麒麟が傍にいるので言葉や読み書きに困ることは全くない。


とってもとっても、私にとって神のような麒麟ちゃん。

いつまでも麒麟ちゃんと呼びのはなぁ。。。と考えているけど。いい名前が思い浮かばなくて。

お兄さんにも聞いてみたけど。


『麒麟でいい』


とかいうし。アスカロンに聞いたら『お肉がいいーお肉切るのスキィ』とくる。


お肉を切るのは、あなたの場合違う意味でしょ。

フザケタやろーばっかりだっ!!


そんなこんなで『麒麟ちゃん』に落ち着き始めている。以前よりもさらに懐いてくれて、呼べばそばに来てくれるし、時々散歩に行きたいと扉をカリカリと引っ掻く。

そういう時は扉を開けてあげる。だいたい1~2時間くらいでお散歩から戻ってくる。

私が店にいるときは、困るのが理解できるのかお散歩には出かけない。とっても賢い子だ。


食事は人間のものは一切口にしない。外出には食事も含まれる時間だろうと考える。


「あーーお兄さん宛の手紙!」


頭をわしゃわしゃ ガシガシ。髪の毛が乱れて鳥の巣状態。一行も書けないまま時間が過ぎていく。


「はい!思ったことをしたためて~」


『お兄さん、今日は一人で帰ります。モルティさんに誘われて一緒にご飯を食べることになりました。お迎えありがとうございます。帰りは乗合馬車に乗って帰るので大丈夫です。ご飯は冷蔵庫に入っているので夕食に食べてください。  ツバキ』


―― か、書けた・・時間かけてもこの文章って。


ペンを置いてふぅーとため息をつく。家族あてに書いていた連絡文と一緒だなと苦笑する。

そのタイミングで扉が開かれ、背が低く、頭の薄い、まるっこい男性客が一人入ってきた。


「いらっしゃいませ。もう店じまいの時間なんですが」


私が男性に近づくと、麒麟ちゃんがすぐにやってきて、近くに行かせたくないようにスカートの裾を噛んだ。男性客に吠えたり、威嚇行為はしていないけど、明らかに警戒している。


このおじさん、そんな変な人なの?


麒麟ちゃんのその様子を見て、私も緊張し心臓が跳ね上がる。今頼りのなるのは、麒麟ちゃんしかいない。お兄さんも剣のアスカロンもそばにいない。


危険人物だった場合、自分一人で対処できるのか、一抹の不安がよぎる。麒麟ちゃんは普段と違いその男性を明らかに警戒している。

守ろうとしてくれている麒麟ちゃんの後ろに立ち。


「お求めのものがあればお包みしますよ」


今の私は、麒麟ちゃんの緊張が移り、笑顔なんて出せるメンタルじゃないけど。無理をして微笑んで声を掛けた。


きっと今は、動揺したり、焦った姿は見せてはいけない。私の中の感がそう告げる。

いつも通りに。平常心。他のお客様に接するように。

麒麟ちゃんの背中を優しく撫ぜながら。


男性客はにっこりと笑って「痛み止めありますか?」と尋ねた。


「大人用でよろしいでしょうか?種類は二種類ご用意ございまして、日常のケガによる痛み止め、大きなケガや病気が原因の痛み止めがございます。大きなケガが原因の痛み止めは料金がかなり高くなります」


笑顔が引きつらせず、怖がっているとはおくびにも出さない。麒麟ちゃんは私の体をグッグッと後ろに押し、少しでも距離をあけたがっているよう。

男性からの向けられ視線は刺すようで痛みすら感じてしまう。

眼光が鋭く普通の一般客とは到底思えない存在感。


「両方いただけますか」

「はい。かしこまりました」


私は薬を取りに棚へ移動する。麒麟ちゃんも一緒についてくる。今は背後を気にしている気がする。

おじさんからの視線がバチバチと刺さる。後ろに目がついていなくてもよく感じる。


「大きな犬ですね」


男性客は大きな瞳で麒麟ちゃんをシゲシゲと見つめる。可愛いからの「見る」ではなく、問題点がないか確認するように自分の頭に記憶するように見つめた。


この人には、犬に見えるんだわ。



私が店番としてこの店を手伝うことが決定してから、お兄さんとアスカロンに尋ねたことがある。


『麒麟は、他人からどう見えるんですか?』


一緒に行動を共にするのであれば、バレない方がいいと直感が告げる。私と過ごすことで密猟者のターゲットにされるわけにはいかない。

それを話すと二人は笑った。


麒麟は強く特殊な生き物でその辺の賊よりも、よほど強い。その特殊な能力により自分の姿を見る人により変化させる力がある。人によっては、犬だったり、猫だったり。


『お兄さんは麒麟に見えてたんですよね?』

『俺とアスカロンは、普通じゃないからだよ、特異なんだ。お前にできないことができる。普通が違うんだ』


能力の説明をしてくれた。それを聞く分には、とても便利そう。


『すごいですね!』


軽く感想を述べると、寂しそうにお兄さんが笑ったのが印象的だった。



「こんなに大きな犬ですと飼うのは大変ではありませんか?」


やっぱり。この人には麒麟に見えていないんだ。それとも・・・・


眼光鋭く何事も見逃さない視線。その視線の意味など全く気付いていないという態度で。


「とっても賢い子なので大丈夫ですよ」


普通を装い言葉を返す。内心では心臓の音が体中に響き渡り、嫌な汗が出始めた。


「そうなんですね。ところで・・・お見かけしない方ですがこの街の方ですか?」


ゴクリ。喉が鳴るのをおさえる。表情を変えず、薬を袋詰めすることに集中しながら。


「12000クルです。どうぞ」


薬を渡すと男性は15000クルを差し出した。怪しまれないよう、ワザと視線を合わせる。


27歳で結婚。28歳と30歳で出産。社会人経験、ママ友、学校、近所付き合いで、色々と経験してきてるんだっ。本音を隠して建前を話す。亀の甲より年の功。この体の見た目が若くて油断しているでしょうけど、兼業主婦パワースキルをなめないで。


「はい、3000クルのお釣りです。この街はとても大きな町ですもの。お客様とお目にかかったことが無いのも無理ありませんね」


見よ!先日鏡の前で練習した笑顔の成果を、受けてみよ!!


私は相手との距離を取りつつ、お釣りと商品を手渡した。グリーンの瞳で笑顔を向けられれば、誰でもイチ・コ・ロ♪


チーーーーーーーン

撃沈です。


「そうですね、おっしゃる通りです。ここの店主が不在の時はいつも閉店でしたので、あなたが来てくださって助かります。閉店間際にも関わらず親切に対応して下さりありがとうございました」


反応まるでなし。顔をうっすら赤く染めることも、ドギマギしている様子も微塵も感じられない。唯一変化が見られたのは汗。薄くなった頭から汗がにじみ出て、カバンからハンカチを取り出して拭いている。購入した薬をカバンにしまい、いそいそ扉から出て行った。


足の力が抜けペタンと床に座り込む。緊張のせいで手汗がひどい。あの男性に気づいていないといいけど。麒麟ちゃんは座り込んだ私の頬に顔を読手、ぺろりと舐めた。


「麒麟ちゃんは、あの人のどこを警戒したの?あなたがいつもと違うからすごいドキドキしたよ。どこの人だろうね?」


麒麟ちゃんは再度頬をぺろりと舐めると、玄関にほど近い腰高窓に近づいて外を伺っている。


「気にしすぎだよ、麒麟ちゃん。きっとあなたの気のせいよ。それより!私たちがご飯を食べているとき、あなたどうしよう。。。お店に入れないと思うの」


困ったなと麒麟ちゃんに話しかけた。この子がいないと周りの人会話ができない。会話が成立しない。とはいえ、個々で姿が異なって見えるのでそこも問題の一つ。

誰かから誘われて『一緒に遊ぶ』のは想定外。今後こう言うことも想定しておかないとダメだろうな。

麒麟ちゃんに頼りすぎているのが情けなくなる。あの子がいないと基本生活すらままならない。


ダメだな。麒麟ちゃんに頼りすぎだ。


窓の外を見ると、空が夜と同化し始めている。太陽の位置が先ほどより下がり、夜の帳が届くのももうすぐだ。この街の夜は日が落ちると、星たちが煌めき人間世界に降り注ぐ。

地球のように煌々と光る街灯もなければ、コンビニもスーパーもない。薬屋や小売店があるものの、日の入りとともに町の店が軒並み閉まり、みな家路につく。空いているのは、食事処、酒場、宿屋くらいだ。


今日はどこに行くんだう。あまり遅くならないで帰れればいいんだけど。


手紙一枚で出かけるほど、彼らとはそこまで仲良くない。あくまでも保護してもらっている、居候の身。

自由奔放しすぎて追い出されたら行き場がなかった。


手紙を一番目に付くレジカウンターわきに置く。


―― トントン


ノックと同時に扉が開き、モルティさんが迎えに来た。洋服は先ほどと同じで、ニコニコ笑って入ってきた。


この人は、、いったい誰を私に引き合わせたいんだろうか。でも付き合う、付き合わないにかかわらず、友人・知人が増えるのはイイコト。


とはいえ、私は彼女の熱意にひき気味。顔や態度からの熱意がすごすご過ぎる。

<絶対にまとめてやる!>ってオーラと、<ダメならつぎっ!>ってオーラが混ざって溢れ出ている。


ごめんなさい、そんなアツアツの鍋みたいな熱は不要です。いりません。

私は、ただただ、穏やかにこの世界で生きて行きたいんです。


扉を見るとわきに人が立っているのがちらっと見えた。


引き合わせたい男の人かな?三人ともこの店集合だったの??


麒麟ちゃんを居ると私のそばから離れている。どこにいるんだろうとキョロキョロ目で探していると。

レジカウンターの中からのそのそと出てくる


「やだ、この子どうしたの?」


ン? この子? 麒麟ですけど・・・今度は何に見えてるのー?


「もしかして、弟さん?」

「えっ?!」


私とモルティさんは顔を見合わせ、交互にお互いの顔と麒麟ちゃんを見る。


「近所の子?僕、何歳?」


私は茫然と二人を見た。私から見えるのは、相変わらずの麒麟ちゃん。

モルティさんには子供に映ってる?!

子供?男の子?? 私の目に映らない子を何歳ですって返答するってすっごくハードル高くない?


その時、麒麟ちゃんが動いた。


「僕、10歳です」


―― ?! えー!返事した、麒麟ちゃんがっ


「お名前は?ツバキちゃんの年の離れた弟さんかしら?」


「違うよ!ツバキは僕のお嫁さんだよ!」


私の目の前が一瞬真っ暗になり、何が起きたのか全く理解ができない。クラリと眩暈がして、慌てて近くのカウンターに手をついた。


これは、これは、いったいどういうことー????

いったいどうなって、どうなっていくのーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ