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4 ツバキがお見合いする

少しずつお話が進んでいますが、お楽しみいただけてますか?

楽しんで頂ければ嬉しいです。


「私も行くっ!行きます!!」

「ダメだ!家で待ってろ」

「嫌ですっ!私もお兄さんと行きます!」


そんなやり取りをしたのは、ついさっきだ。

短い3行の会話に見えるかもしれないけど、30分ほど押し問答の末、私が勝った。

そして今は、カイラードの店にいる。店には着いたが絶不調で胃がグルグル回って吐き気と眩暈でソファーに寝転んでいる。


客人が来ていたあの日から数日後。自分の店に行くから留守番していろというカイラードと口論で戦い、根負けしたお兄さんに連れられて町にある店にやってきた。

やってきたのはいいけれど、、


カイラードの俊足移動はジェットコースターに乗っているように、早い。動く。激しい。

三拍子揃って到着した時には私はすでに酔っていた。

車酔い?二日酔い?ジェットコースター酔い?そんな感じだ。


「はぁ。だからついてくるなといっただろうが。次は家でおとなしく待ってろ」

「い、いやです。。。次もその次も手伝い、、、お。うぇぇえ!」


やだ、、吐き気も追加されてる。最悪だ。それでも私は次回も絶対についていく!

この街になれないと、今後ほかの場所でも生活なんて一人でできない。


「頑固だな・・・お前」

「いいじゃーん。ツバキが店を手伝いたいっていうんだからぁ。店番だってしてくれるしぃ。仕事の旅に店を閉めるよりはぁ。集客率があるがるよぉ」


そう話に割って入るのは、剣であるアスカロン。


そうだそうだ!もっと私の味方して、アスカロン!


先日は全く会話すらしなくて、ただの普通の剣だったけど。一晩経ったらよく話す煩い剣に戻っていた。どうやら疲れて爆睡していたみたい。


剣が寝るって。剣が疲れるっておかしな話だけど。この世界ではよくある風景なのかもしれない。

私の世界で帯剣するなんてありえないけど。


「ハァ。。。メンドクサイ。ほら、これでも飲んどけ」


差し出された瓶を受け取り「なんですか?これ」と聞くと「三半規管を落ち着かせる薬だ」

言いながら瓶の蓋を開けてくれた。

液体の量は25mlくらい。化粧品の試供品ほどの量だ。色は白濁した色で見た目は化粧品によく似ていた。


こっちの薬って、私の体にも合うのかな?


そんなことを考えながらぐいっと飲み干してまたぐったりと横になった。麒麟と呼ばれる動物も当然一緒についてきて私の隣に横になっている。麒麟と呼ぶのもなんだし、早々に名前を付けないとだめだなぁとぼんやり考えていた。


「しばらく休んでいれば、元に戻るだろ。俺は在庫確認をしてくるから」


お兄さんは部屋を出て行った。私は店にあるソファーに引き続き横になっている。


―― カランカラン


扉が開くと同時にドアベルがなり、一人の男性客が入ってきた。


うわっ!まだ絶不調なのに。。。。


「今日はやってるかい?開店休業みたいな店だから、ほんと困るんだよ。あれ?君も患者なの?」


男性客は、ソファで横になっている、しゃがみこんで私の顔に自分の顔を近づけて「ダイジョウブ?」と聞いてきた。


近いっ近い、距離が!そう言いたくてもお客様には言えず、いう元気もなく。


「大丈夫です。もうすぐ落ち着くと思うので」

「あぁ、カイラードの薬を飲んだのかい?効くでしょう、彼の薬。この街の人は常用常備してるよ。カイラードはいるかな?」

「何が入用だ?」


倉庫にいたお兄さんはいつの間にか戻って、私と男性客の間に割り込むように立ち尋ねた。

お客さんと私の距離も近かったけど、お兄さんとの距離もとても近い。横になった私の顔はお兄さんの膝当たり。顔とズボンがくっつく距離だ。


「久しぶりだな、カイラード。しょっちゅう店を閉めるのはやめてくれないか?欲しいときに欲しいものが手に入らないのは困る」

「問題ない。使用期間が長くなるようにしている。常備していればいいだろう」

「それでも!なくなって、いざ買いだめしようと足を運んでも店が休み続きなら買えないだろう?」

「・・・・・善処しよう」


至極当然の客の言葉に、お兄さんは言葉を詰まらせた。


「ほら、店番いるんじゃないですか!」


よいしょ、と横になっている体を起こして起き上がった。二人の視線がこちらに向く。


「お客様、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。今後はこのようなことが無いよう、店主不在の際は私がおりますのでご安心ください」

「おいっ!勝手なことを言うなっ」

「そりゃありがたい。助かるよ、町のみんなも喜ぶ。とりあえず今日は、痛み止め、咳止め、ヒールポーションをもらおうか。どれも三つずつくれるかい?」

「畏まりました。ヒールポーションのランクはいかがなさいますか?」

「そうだな。初級・中級・上級の三種類で」


私は初めて来たお店なのに、商品の陳列位置、値段、会計の仕方が頭に浮かび、ずっと働いている定員のようにキビキビと動けた。

お兄さんは唖然として私たちのやり取りを見ている。


「ありがとうございました~」


男性客は代金を支払い、扉を開けて出て行った。


「すごいねぇ。異世界から飛ばされてきたのにぃ。色々と知ってるの、僕たちぃ驚きぃ。これで店番はツバキに確定だねぇカイラード」

「なぜ知っている」

「お兄さん、それは私もビックリしてます。頭の中に浮かぶっていうか、適当にやったら合ってた!そんな感じです。ね?言ったでしょう?役に立つって」


にっこり笑ってお兄さんを見ると呆れた表情をしている。


「お前、いくつだ?」

「45歳です」

「はっ?!」


お兄さんとアスカロンの二人が同時に声を出した。非常に驚いている。


こんな若い45がこの世にいてたまるか!それともあちらの世界でこの姿で45は普通なのか?


「違いますよ。お兄さんの表情を見れば思ってることがわかります。でも違いますよ。私、この顔でもスタイルでも、若さでもなかったですよ。向こうで。夫も子供も二人いる、こちらの世界の45歳とあまり変わらないと思います。なぜか、こんな美少女になっちゃって。そこは正直とっても嬉しいんですけど」


「夫??子供??」


「そうですよーお兄さんくらいの子供が二人います。息子と話してるみたいで嬉しいです。だから二人目のお母さんだと思って接してくださいね」


「呼ぶかっ」


はっ??

このナリで45歳??どうみても10代だろうが!!こっちに来るときに姿まで変わるものなのか。

この力も、排除したいと考えられている原因の一つなのか?


「お兄さんの作る薬ってすごいですね。時間がたってないのに、体調が戻ってきました。お医者さんなんですか?薬師??」


「・・・なんでも屋だ」


「薬も作れる『なんでも屋さん』なんてすごいですね」


「いや、僕たちハァその姿で45歳というツバキが恐ろしいよぉ。。。どうみても17・18にしかみえなーい。見た目的にはぁカイラードの方がぁ年上だねぇ精神年齢はともかくぅ」


アスカロンは私の周囲をクルクル浮きながら舐めるように全身を見ている。


それはそうだと思う。見た目は10代なのに中身はアラフィフ。夫も子供もいて、お兄さんとほぼ同じ年ごろの息子がいると言われれば、誰だって驚くし、動揺する。

このまま追い出されてしまうかもしれない。でも麒麟ちゃんが傍にいれば、なんとかなるかも。


「お前・・・あっちの年齢はわかった。でもここでは10代だ。邪な考えをする人間が多いから気をつけろよ」


「はい。ありがとうございます。ところで・・・・さっきのお客様麒麟のこと、何も言わなかったですね?変わった風貌で麒麟て珍しいと聞いてたのに」


素朴な疑問をぶつける。ここらへんで珍しいと言われる麒麟を目にして騒がない方がおかしいと思う。お客さんの視線は確かに麒麟に向けられていたが、どこにでもいる動物を見るように一瞥しただけだった。


答えを返してくれたのはアスカロン。


「あぁ、麒麟はねぇ。不思議なことにぃ。見た人のイメージで見えるんだよぉ。だからさっきのお客には、違うものに見えていたのかもねぇ」


「じゃ、あなたたちに映る麒麟と、私が見ている麒麟の姿が違うってこと??」


「そうだな」

「そうだねぇ」


それはビックリです!見ている人の創造する形で見えるって。のちのち、町の人の会話に齟齬が生まれて、バッシング対象案件では???

まんま麒麟の姿で見えるのがいいのか、現状がいいのかちょっと悩んじゃう。


「二人は・・・・どういう風に見えるんですか?」


ドキドキしながら聞いてみた。私とは違うものに見えてるのかも。そしたらなぜ、麒麟と一目でわかったんだろう。


「どうって、毛並みは金色。鬣・尻尾は渦を巻いている個所があるが、、、、ふさふさしてる。蹄もあるし。腹部分は鱗があるな。これは麒麟の特徴だ」


いや、それは違います。それは、キ○ンビールの麒麟です、私愛飲してたのでわかります。目の前にいるのも同じだし。


「同じに見えてますね」


「・・・・旦那や子供に会いたくないか?」


愚問だった。一瞬で顔が曇るのを見ればよくわかる。我慢している、帰れないとわかった今、前を向いていこうと努力している。わかっていながらも、聞かずにはいられなかった。


「ふぅ」


ため息が出る。言っても仕方ないことをなぜ、この人は聞くの?前を向いていこうと努力しているのに、どうして振り返らせることを言うの。


ポロポロと涙が溢れてくる。一度零れた涙は止められない。際限なく溢れてくる。


泣きたくない。泣いても変わらない。


「はぁー・・・はぁー・・・・・」


大きな深呼吸を二つして、「思い出さないわけないでしょう」といった。

押さえてはいたけど、流した涙が影響して声が鼻声涙声。

私はお兄さんに引き寄せられて、お兄さんの腕の中にいた。そこは心地よくて、安心して押さえていた思いを押し出していいんだよと言われているよう。後ろに回された腕にもぎゅっと力が入る。


甘えてしまえば楽だけど、甘えちゃいけない。

たまたま拾ったおばさんを、我慢して一緒にいてくれる。それだけでも感謝なのに、私の気持ちまでこの子が背負う必要なんてない。

私ができる唯一の恩返しは、早くお兄さんから独り立ちすること。彼に迷惑はかけられない。


落ち着いて。。。。

深呼吸して。。。

大きく、何度も。

大丈夫。

私は。大丈夫。


「ごめんなさい。もぅ大丈夫!さぁ。次のお客様が来る前に、できることをしちゃいましょ」


―― 無理をしている。見た目の姿が変わったんだろうが、俺からしたらまだ10代にしか見えない。


「在庫チェックでしたよね?私も在庫ちょっとみてきますね」


私は涙を流した恥ずかしさから、そそくさとその場を後に在庫がある倉庫へ姿を消した。


「カイラード・・・・また泣かしてるぅ。この女泣かせぇ」

「うるさい!」

「我慢してさぁ明るくしてるんだろうから、優しくしてあげればぁ?あ、しない方がいいかぁ・・・消すんだもんねっぇ」


カイラードは忘れていた。彼女を消すために依頼を受けたことを。時期を見計らって任務を遂行しなくてはならないことを。


「僕としてハァ、今回の依頼はカイラードにはきつい気がするなぁ。簡単に終了!ってならないと思うよぉ。それにぃ。麒麟もきっと、黙ってないだろうしぃ」


そうだ。麒麟はなぜか、ツバキを守るがごとく、傍を離れない。どこに行くにもついて回っていた。それはそれで楽だったが、なぜツバキにつくのかはカイラードもアスカロンもわからなかった。

『落ち人』の一言で片づけていいものか考えあぐねいていた。『この世を破滅へ導くモノ』の作用だろうか。


そもそも、『この世を破滅へ導くモノ』の話すら眉唾物だ。権力者が自分に都合の悪いものを排除しようと言っているだけにすぎない。そういう思いにすら駆られる。ツバキはカイラードから見て『この世を破滅へ導くモノ』には思えなかった。







「いらっしゃいませぇ。こんにちは、モルティさん」

「ツバキちゃん、今日も元気があっていいわねぇ」

「私はいっつも元気ですよ!それしか取り柄がないんです」

「カイラード君はいいわねぇ、こんあ可愛い子が傍にいてくれて」

「またまた、いつもお上手ですね、モルティさん」


初日にお兄さんのお店に行ってから、かれこれ三月。最初は文句をブツブツ言っていたけど、今は何も言わなくなった。追い出されることもなく、追い出されないように努力して「使える!人材!」と思ってもらえるように動いてきたつもり。

開店休業だったこの店は、10時から17時まで通常通りオープンしていることが浸透し、お客様も足を運んでくれる回数がだいぶ増えた気がする。日本でいう土日祝日のお休みは設けていないので、ほぼ毎日出社していた。

お兄さんは用事がなくても往復の送迎をしてくれる。

以前、このお店の隅にベッドを置いて、ここに一人住まいさせてくれないか聞いてみたが、速攻で却下だった。


『お兄さん、お店に使用していない部屋が二部屋ありますよね?その一部屋・・・・私そこに住んではだめですか?家から店まで移動するたびに来てもらわないとだめですし。そのたびに、商品である三半規管の薬を毎日二つ飲むもの・・・・ここならキッチンもありますし、お風呂は、近くにお風呂屋さんがあって。そこのお兄さんもいつでもおいでって言ってく』


『だめだ。店に出るならここから通え。それが条件だ』


理由は危ないから。危ない??治安はいいし、特段心配するようなことなどないと思うけど。

若いのに心配性だなと思うけど、危ない仕事をしてる人との感覚の違いかもしれない。


「今日は何をお求めですか?」


商売用の笑みを顔に張り付け、接客をする。接客にしろ、事務にしろ、人と付き合っていくのは避けられない。それは日本もここも同じ。


「違うのよ、私、あなたにお見合いを勧めたくてきたの」


「お見合い??」


ビックリして目が点になる。確かに若くてスタイル良くて可愛いこの姿は、老若男女問わず大人気。愛されキャラとして売っている。それはね、、、建前っていうか、、、演技っていうか。。。。

まだこの世界の人に巣を見せれないっていうか。


「そうなの。あなたのことを気に入った子がいてね。お見合いっていうか、食事を一緒にって言ってるのよ。年は、ちょっとあなたよりも上ね。今24だから。今晩どうかしら?」


「今晩ですかっ?!」


いやいや、男の紹介なんて日本でもしてもらったこと数回。しかもウン十年も前の話で。


「ダメだったら次を探せばいいし。この店と家の往復だけっていうのもね。花がないじゃない。ほら、まだ結婚してないでしょう?」


いや、花なんて待ってないです。それに結婚=女の幸せはもう古いっって知ってる?


「流石に今日っていうのは・・・・大丈夫よ。それにカイラード君の家にいつまでも居候っていうわけには、いかないでしょう?」


「・・・・そうですね」


「でしょう?嫌なら断ってくれて構わないわ。じゃ、お店が閉まるころに迎えに来るからよろしくね」


モルティさんは、言いたいことだけいうと店を出て行った。


ホントに、そう。この世界に落ちてきた日から今日まで、何も言わず、お金も取らず、衣食住を提供してくれているお兄さん。言わなくちゃ、言わなくちゃと思いながら先延ばしにしてズルズルと居続けていた。


甘えてるよね。最初に親切にしてくれた人だから。甘えてた。

本当は、わかってる。すぐに半年一年が過ぎちゃうことも。時間が長くなればなるほど、お兄さんは『出て行け』とはいいだしにくいことも。

全部に甘えていた。気づいていたけど、気づかないフリをしてた。


さて、勝手に約束をされてしまったこの状況。さて、どうしよう。困ったな。

お兄さんは営業終了頃にいつも迎えに来てくれるけど、今日は、依頼があって遠出してる。迎えが遅くなるかもしれないとは聞いていた。


こんな時、連絡手段が携帯みたいにあればいいのに。

仕方ない。ここは、外出するメモを残して、乗合馬車で帰るように伝えよう。乗合馬車の最終駅は家からだいぶ遠いけど、方角はわかるし、家に着くでしょ。


残りの3時間をお客様を待ちながらのんびりと過ごした。

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