3 ツバキが話している
楽しんで頂ければ嬉しいです。
『お前 何してるんだ?』
「あ、ごめんなさい!勝手に家を出ちゃって。外で音が聞こえるから、何かなーっと思いまして。そしたらこの動物が」
慌てて言い訳のようにべらべらと日本語で話しまくる。言葉は通じなくても何となく伝えたいことはわかってくれるはず!
『ハァ何を言っているかわからん』
あ・・・またため息つかれちゃった。よくため息つかれちゃうよなぁと思っていると、中に入れと手で玄関の方向を指す。
私はわかったと伝えるために、一つ頷いでアクションで理解したと伝える。
お兄さんが先に歩くと思いきや、私が進むのをじっと見ているから、意思疎通・・・失敗かも。
再び玄関に向かって指をさすので、やれやれと思い歩き始めた。ドアノブを回すと当然だけどカギがかかっていて開かない。
「あの、、、カギがかかってます」
当然でしょ!だって窓から外に出たんだもの。
カギがかかってることをお兄さんに伝えようと振り返ると。
いる。ついてきてる。お兄さんの後ろから、さっきの動物がついてきている。
野生だよね?! ここの野生はこんなに人懐っこいもの?
指をグイっと突き出して、後ろに向かって「ついてきてる!」と動物を指さした。
『知ってる!さっさと家に入れ!!』
「だって、カギがかかって入れないのよ」
『お前は!どこから外に出て麒麟とじゃれてたんだっ!!』
すごい剣幕で怒鳴るので怒っているのがわかる。じゃれあってないです。
怒鳴りながら私の前に来ると、玄関わきにある荷物を抱えカギを開けた。
カギを開けたように見えた。カギを使って開けたように見えたけど、ドアのセンサーに目を近づけ開けたみたいだった。
網膜だ・・・・虹彩認証だ・・・きっと。SF映画で見たことある。
こんな、片田舎(失礼)に、素晴らしい化学が。
それじゃ、最初から私が開けられるわけないじゃん。
つっこみたいけど、ガマンガマン。言っても通じないし。
お兄さん、私と、続いてさっきの動物も部屋に入ってきた。扉が閉まるぎりぎりで前足を使って扉を止めて、蹴り上げて大きく再度開いたあとに入ってくる。華麗な動きに無駄がない。
部屋に入るとテーブルの上にさっきの荷物をドカッとおいて、お兄さんが言った。
『着替えだ。着替えてくるといい』
サーベルベルトを外し、剣を立てかけてから、二つの荷物を開けろと言わんばかりに手渡してくる。
剣・・・今日は話さないんだ
通訳してくれる、唯一私と言葉を交わせるものがいなくなって不安が募る。
顔くらい合わせてもいいのでは、、と思うけど、全くこちらを見ずにお兄さんはキッチンへ入っていった。
袋の中を開けてみると中には、洋服が入っていた。もう一つの袋も開けてみる。
あ。下着だ。私が求めていたモノたちだっ!
「ありがとうございます」
言葉が通じなくてもお礼を言いたくて、キッチンへ向かってお礼を言った。
不在だった理由がわかって嬉しくなる。
ここで着替えるわけにはいかないので、あてがわれた部屋に戻って着替えることにした。後ろを振り向くとやっぱり動物がついてくる。
お兄さんが何も言わずに部屋にいれたんだから、危険動物ではないと思う。
「着替えるから、ここで待っててくれる?」
言葉を理解できるとは思えなかったが、話し相手がいないので、その動物に声を掛ける。
「・・・・・・」
理解できないか、やっぱり。
私が入るため扉を開けると、頭を突っ込み扉を閉めるのを邪魔してくる。頭を押さえて外に押し戻そうとしても体がでかくて、力も強くて押し戻せない。
「はぁ。。。」
仕方がないので一緒に部屋に入ることになった。部屋は殺風景でもチェストはある。小さいけどテーブルと一人分の椅子も置いてある。洋服を片づけるには困らなかった。
袋の中身は数日分の洋服と下着。お兄さんが決死の思いで買ったのが想像できる。
迷うことなくワンピースを手に取ると動物に向かって「あっち向いてて」と話しかけた。
ジーと視線が刺さるほど15秒ほど見られた後、その動物はくるりと後ろへ向いた。
おぉ、通じてる!!
洋服も下着も、ほぼぴったりだった。試着すればさらに、しっくりくるものが買えるだろう。
でもこの世界で生き抜くための術もなく、お金もない。
先行き不安だらけだ。今回はお兄さんのご厚意で買ってもらえたが、今後、衣食住を提供してくれると考えるのは安易だ。
この世界に馴染みがなく、この世界のお金もない。せちがらいが、早急に衣食住と仕事を見つけないといけない。考えないようしていたけど問題は山積み。
言葉もわからない、読み書きもできない、この世界の常識もわからない。
先行きの不安しか感じられない。この家を追い出されたら、死あるのみだ。
着替え終わってから考え事に耽っていると、動物が向きを変えてこちらを向いた。
なんていってるんだろう。。。言葉がわかったら、寂しくないのに。
動物は器用にドアノブを回すと扉を開けて、出るように私を促した。
リビングへ戻ると、お兄さんは椅子に座って剣の手入れをしている。刃はとても大きくて鋭い。手入れなんてしなくても、一刀両断できそうなほど。
「あの。。。着替え終わりました」
チラリと横目で私を見ると、また剣の手入れを始める。沈黙が続く。会話がない。
もともと、助けてもらった延長でこの人にお世話になっている。哀れに思って洋服も下着も買って渡してくれ、これ以上何かを求めるのは申し訳なく思った。
「あの、、、助けてくれてありがとうございました。洋服も頂いてしまって。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。この近くに町はありますか?いつまでもご迷惑をお掛けするのも申し訳ないので、どこかで働かせてもらおうと思っています。図々しいんですが、ご紹介いただけないでしょうか?」
ばんっ!
思い切り机を叩かれ大きな音に心臓が縮みあがる。お兄さんの顔は笑っていないし、どちらかと言えば怒っているように見える。
フラグ立った。死のフラグ。次は、その剣でブスッと。。。
恐怖で顔が青ざめる。声が出ない。体が震える。
死を待つ人の気持ちが今初めて分かる。
でも日本には帰れないんだから、、、どうせなら・・・
「ひと思いにやってください」
怖いなんてものじゃない。息ができない。前を向けない。覚悟なんてできないし、したくもない。
どうせなら、寝てるときにやってくれたらよかったのに。。。。
『ハァ…驚かせる気はなかった‥‥すまん』
手入れをしていた剣を壁に立てかけ、殺意がないことを態度で示してくれた。
私は足も腰も力が抜けてその場にヘナヘナと座り込んだ。私が生きてきた人生で、本物の剣なんてみたことない。ましてや!手入れをしているところなんて、なおさら。謝られても寿命縮まってますから!!
あ、縮まったんじゃなくて伸びたのか?!若返ったんだから同じなのかな?
「‥‥洋服、、ありがとうございました。とても恥ずかしかったので助かりました。」
「そうか・・・」
「あの!ここがどこで、私がどうやってここへ来たのかわかりますか?さっぱり状況が飲み込めないというか。全くわからなくて。何か知っていることがいあったら教えてもらえませんか?会話ができる剣のことも。隣にいる、この動物のことも・・・」
会話?!
私・・今、お兄さんと会話してない?普通に。相手の言葉も、私の言葉も理解できる。
お互いに会話が成り立っていることにやっと気づく。お兄さんを見ると、特に驚いた風もなく自然と受け止めているのがスゴい。
こういう状況に慣れていらっしゃるのか、物事に動じないタイプなのか、、、、後者かもしれない。
「かいわが、会話が出来てます。急に!」
「今気づいたのか・・・・先ほどからずっとだぞ」
「さっき??」
「俺が家に戻ってからだ」
寝て、起きたら会話ができるようになっているなら、最初から成立するようにお願いしたいものだ。
「・・・・お前は空から落ちてきた、なぜ落ちてきたかは、俺にもわからん。落ち人だろう?」
「落ち人・・・異世界や異空間から飛ばされてくる人たち?」
「そうだな」
ゲームや漫画、ラノベと同じ??いやいや、現実的にないでしょ?!展開的には向こうの世界の私が死んでる説。。そんな流れっぽい気が。
「俺が知る限り、落ち人はこの80年ほど現れたと聞いたことがない。そして元の場所に帰ったという話も・・・聞いたことがない」
話ができないときは、<探せば帰れる道がある>と、ただ、漠然と願っていた。でも今は、木っ端みじんに希望た立ち消えた。隣の動物は私の気持ちがわかるのか、慰めるように近づいてきて、スカート部分に鼻をこすりつけてくる。反射的に頭を撫でると毛は見ためと違って柔らかく、ふわふわしている。
その様子をじっと見つめながら。
「俺の名は、カイラードだ」
話をよく聞けば、例の話す剣は<アスカロン>と言い、特殊な剣でカイラードにしか扱うことが難しいらしい。アスカロンが話す言葉も他者の耳には聞こえない。私がなぜ、会話が出来るのか尋ねれば「落ち人」だからだそうで。設定がテキトーっていうか、なんでも「落ち人だから」で終了しそうでブチッと怒りがわいてくる。
「はぁぁぁぁ」
と、私がため息をつくと、お兄さんも「はぁぁぁぁ」とため息をつく。
お兄さんもやっかいな拾い物をして迷惑しているんだろうなと申し訳ない気持ちになる。
「昨日の剣が動いたり話したりしないのは、なんでなんですか?それと・・・隣の動物のことも知っていたら教えてもらえますか?」
「・・・腹、減らないか?」
そう言ってキッチンから食べ物を持ってきた。食べ物は不思議なことに私が知っているものばかり。抵抗感を抱かずに食事ができるのはありがたい。出された食事は、料理というよりも素材のまんまだった。
男の子だからか。調理をしたくないからか。
ブロックベーコン、ブロックハム、サラミ、卵(これは、、生卵?)、それにパン(焼いてから何日も経っていそうな感じがする)
お兄さんは適当な薄さにパンを切ると、その上に、さっきの肉類系をこれまた適当な薄さに切ってパンにのせてくれる。火を入れたベーコンならもっと美味しいのに、と思いながら口にする。
私が出された一切れを食べ終わる前に、お兄さんは二つ目のパンにサラミやベーコンをのせている。
剣のアスカロン相変わらず、微動だもせず本当に普通の剣に戻っていて。
動物は食事に興味がないのか私のすぐ傍らで横になってくつろいでいる。まるで自宅にいるような、そんなリラックスした状態。顔を玄関に向け、お尻を私の足にくっつけるように横になっている。
そんな私たちを見ながらお兄さんがいった。
「麒麟は珍しい生き物で滅多に人家周辺には下りてこない。ほとんど会えないんだ」
「じゃあなんで、ここでくつろいでるんでしょう?」
「わからん。ただ一つわかることは、この麒麟のせいだ。俺たちが会話ができるのは。特殊能力を備えていると言われている動物だ。それと、落ち人だと周囲にバレるとやっかいだ。傍に置いといた方がいい。麒麟はお前の役に立つ」
その発言はとても自分勝手に聞こえる。自分本位の意見だ。利用価値があるから傍に置くなど、エゴでしかない。
落ち人だとバレたらやっかいだ?
もしもバレたら、利用できるだけ利用し搾れるだけ甘い汁を吸って、最後はボロ雑巾のように処分されるのが目に見える。
自分がされたら悲しいことは、たとえ相手が動物であってもやりたくない。懐かれたら嬉しいし愛情も生まれる。とはいえ、会話が出来るという点は捨てがたかった。ずるいようだけど、その気持ちもある。
「この麒麟ちゃんに相談して決めようと思います!」
「・・・・断ったら?」
「そしたら自分で!自力で!!頑張って覚えます。それでですね。。しばらくこの家にお世話になることはできないでしょうか?家の手伝いなど雑用はさせていただきます。お願いします」
立ち上がってお兄さんに頭を下げる。
断られてしまたら、どうしようとドキドキしていると隣の動物も一緒に立ち上がり頭を下げた。
ホントに人間の言葉を理解してる。言葉だけじゃなくて心情も読み取れるのかもしれない。
「それはかまわない。もとよりそのつもりだった。麒麟とどう話すのかわからないが、結果はすでに出ているんじゃないか?今日が初対面と思えないほどなついている」
安心感。信頼感。私だけじゃなくてこの子も感じているのかな?
「私といてくれる?」
問うと『いいよ』といいたげに頭を摺り寄せてきて可愛い。今後のことは不安だし、日本のことも気になるけど。最初に二人も仲間が出来たのは幸運だった。
「良かったな」
お兄さんは少し口もとに笑いを浮かべて言った。
「笑った顔、素敵ですね」
「うるさい!」
「照れてますか?」
食後の会話は穏やかで、これからの生活が安定する、そんな兆しが見えた。その穏やかな時間は唐突のノック(ノックよりもさらに強い音)で終了した。
お兄さんの顔が瞬時に険しくなった。場の雰囲気が張り詰める。ピリピリというかビリビリ皮膚に響く感じだ。歓迎されない客人ということがわかる。どうすればいいかと戸惑いながらお兄さんの顔を見ると、威嚇するように扉に集中している。
顔をこちらに向けた。
「部屋に戻ってろ。声を掛けるまで部屋から出るな。音も声も一切出すな。行け」
なんで?なんて質問も反論も許される感じではない。返事をすることすら躊躇われて音を立てず、あてがわれている部屋に戻った。
部屋の中で息をひそめベッドの上に膝を抱えて丸くなる。一緒に入った動物が、カーテンを閉めろという動作をするので急いでそっとカーテンを閉めた。部屋の明るさが減り薄暗くなる。
あた扉を叩く大きな音が聞こえた。なかなかい開かない扉にイラ立ちが含まれるノック音。
ドアを開けたかどうかまではわからない。
部屋の扉を閉めるとリビングの音は一切聞こえてこなかった。
「誰だ」
カイラードはドアを開けずに中から声を掛けた。
「使いの者です。礼の依頼の報告を確認しに参りました。お待ちしておりましたが、なかなかお越しいただけませんでしたので、主人が痺れを切らしまして・・・お顔を拝見しながら結果をお伺いさせて頂きたく存じます。扉を開けて頂けないでしょうか?」
カイラードは逡巡した。相手をうまくごまかし、納得させるほどの回答は、まだ、用意が出来ていない。とはいえ、中へ入れないままというのも不審を抱かれる。
「ったくホントめんどくせぇ」
ドアを開けると背が低く、頭の薄い、まるっこいという表現がピッタリくる男が立っていた。カイラードをいmると頭を深く下げた。
「ありがとうございます。おや?お食事中でしたか。存じ上げずお邪魔してしまい申し訳ございません。
どなたか・・・いらしてたんですか?お皿が二つ・・・・」
部屋に入るなり無遠慮に部屋中を見渡した。些細なことも見逃さない眼光の鋭さ。
男は、こんな話し方で、こんなナリだが腕が立つ殺し屋だ。悪徳権力者のお抱えで、こんな男を懐に入れる時点で腹黒さが証明される。クリーンなイメージを作り上げている悪徳権力者なんて糞くらえだ。
お互い一匹狼で絡んで仕事をしたことがなかった。仕事hが早いとは聞いていた。
特段興味もないが、機嫌がいいと悪徳権力者は饒舌になった。
男は皿から目を離すと
「お客様でもいらしてますか?」
再びカイラードに尋ねた。カイラードは意も介さず、どうでもいいという感じで。
「ああ、朝・昼の分だな。夜は、もう1枚増える」
二かッと笑って言いかえす。
「そうですか。衛生面に問題がございますね」
「しるかっ。俺の家だ、それより椅子に座ったらどうだ」
「いえ、遠慮させていただきます。長居するつもりがございませんので。本題に入らせていただきます。成果のほどはいかがでしょうか?」
汚いものに触れるのは気持ち悪いという目つき。潔癖症。きれい好き。ヤリ方も奇麗らしい。
「問題ない」
「・・・・・・・・」
「残りの金をを受け取りに行くと伝えてくれ」
「証拠が欲しいですね」
「起きろっ!アスカロン!!」
先ほど使用していたパン切りナイフをアスカロンに向かって投げつけた。視線は男から外さない。投げられたナイフは、アスカロンに届く寸前、剣の鞘で跳ね返し、ナイフは男の頬をかすめ「ドスッ」とドアに突き刺さった。
アスカロンは宙に浮いたままカイラードに近寄った。アスカロンが人であれば、目と目で作戦を伝えあっている、そんな感じだ。アスカロンは男のそばに寄ると鞘をワザと落とし、切っ先を男に向けた。
「これが、証拠だ」
「どういう意味でしょうか?」
「見てわからないのか?」
「はい。まったく」
「俺の相棒が寝てるってことは、昨日力を使い切ったということだ。池に落ちてくるタイミングでこいつは水を真っ二つにし、俺が一刺し絶命している。推進300m以上。それ以上かもなぁ。証拠・・・・探しに潜ってきたらどうだ」
「わかりました。主人に伝えます。残金は後日お支払いできるように手続きを済ませておきます」
男は納得したようで、カイラードの家を出ていった。今はなされた会話がすべて権力者のもとへ届くだろう。
あとはツバキをどうするかが問題定義だ。