2 ツバキが感動する
遠くで声が聞こえる。
波の音??
水の音も微かに混ざっている音だ。ボソボソと人の話声も聞こえてくる。
少しずつ眠りから覚めていく頭の中で、小声であっても話し声はとても煩く感じる。
しかし話している内容は聞き取れない。聞き取れないというか、知らない言語のような感じだった。
馴染みのない国の映画を見ている感覚だ。
『よく、寝ているねぇツバキ』
『・・・・』
『いつまで寝るんだろうねぇ。それよりぃ、なーんで助けちゃったのさぁ。ちょうどケルピーに襲われてぇ血だらけー何もしなくても任務完了!で、楽だったのにねぇ。人に興味、あったんだねぇ。カイラードでも』
「うるさいから、静かにしてよっ!まだ、寝たいの!!!」
遠くで聞こえていた声が、今はホント近くから聞こえ睡眠妨害。
うるさい、うるさい、ウルサーイ!
誰なの、睡眠を妨げるやつはぁ!!
絶対に息子がゲームしている音がうるさいと睡眠下で確信してる自分がいる。
『わぁぁ怒ってるよぉ寝ながらぁ。どんな夢を見ているんだろうねぇ。この子のこと、どう説明するつもりぃ?依頼、失敗だもんねぇ人生初の~♪カイラードしっぱーい!』
剣であるアスカロンは、床から浮いた状態で音もたてずに自分の意志で行きたい場所へせわしなく移動している。
どうも落ち着かない剣だ。
『う・る・さ・い!失敗じゃない。監視だ、監視。様子を見て、少しでも怪しい動きをすれば・・・予定通りコンプリードだ。しばらく、、、ここに監禁する』
カイラードの顔を覗き込むように剣は柄を傾け傍へ近寄った。ついでツバキのそばへ近寄り、添い寝をするように横になる。
『おいっ!何をしている?!』
『ぼくぅ 疲れちゃってぁ。水を真っ二つにしたしぃ。水だって君らが水面に上がってくるまでぇ、ずっと、維持し続けてたの知ってるでしょぉ?ツバキの傷も出血大サービスで完全に元通りにしたよねぇ?ほらぁー』
アスカロンは、柄の先でシャツをペラリと捲り、太ももに傷がないことを見せるため露わにする。
『やめろっ!』
瞬時にアスカロンを掴むと、思い切り床へ叩き落した。そしてすぐさまスカートの乱れを直す。
寝返りで乱れるのと、他人に乱されるのとでは、意味に大きな違いがある。
ささっと服を直しがら「服・・・・」と呟いた。今の状態はあまりにひどい。
日本でいえば、彼シャツだ。
下着もつけていない。
あられもないカッコとは、まさに今のツバキそのもの。
『はぁメンドクサイナ・・・』
『自分でぇ メンドウゴトを増やしてるのにぃ、どうして僕にあたるのさ』
アスラハンは蹴られて横になった姿を立て直しブツブツと小声で呟いた。
確かにカイラード自身もそう感じていた。
受けた依頼を遂行しなかったことは一度もない。
いずれは手を下さなければならないのは、わかっている。
見るからに戦闘の経験などない少女をヤルのは、片手で十分。一瞬で終わる。
今、この場であれば、恐怖や苦痛に顔を歪ませることもない。
カイラードにとって、一番優しい方法。
『はぁ。メンドクサイ・・・・行くぞ』
カイラードはアスカロンを手に取ると部屋から出て行こうとする。
『どこにぃ?ツバキ一人置いてぇ?だいじょうぶぅ?』
『大丈夫だろ。家の中は安全だ』
そう、この家の中は、安全だ。
カイラードが家の周囲にシールドを張れば問題ない。ただ常にシールドへ意識を向ける必要があるため、常に気を張るし疲労感がハンパない。
カイラード自身は、自分のためにシールドを張り巡らせることを、まずしない。シールドを張らなくても不意な襲撃を撃退するなど造作もない。
殺気を感じれば自然に目が覚め、勝手に体が動く。
ただ、アスカロンの言い分もわかるため、不本意だがシールドを張ることにする。
そう長く外出つもりもない。
アスカロンをソードベルトに携え、家を後にした。
『ぼくはぁ!ツバキと家にのこりたーい!休みたーい!パパー、か・え・るぅぅ。』
『こどもかっ?!誰がパパだっ!誰が!!』
カイラードはバリアを張ってきた自宅に意識を向けた。家の中・周囲も特に異常はなく、ツバキの気配を探ってみるが、こちらも変わらず乱れた様子は感じられない。
目が覚め、動き始めれば、その気配くらいは察知できる。
問題がないとわかり、安堵している自分に驚いた。
カイラードは一人の人間として能力が非常に優れている。通常の人間ではできないことも彼にとっては朝飯前だ。人並外れた能力は、とても便利だ。
跳躍力・瞬発力・五感にも優れ、意識を集中させれば凡人にはない能力を発揮できる。
走らせれば疾駆し、1キロほど先までなら見聞きすることができる。
「完全任務遂行」と謂れる所以だ。
味覚も同様に鋭いため、野草などから薬の調合もでき、効果が高いため、店に置くとよく売れた。
傭兵という胡散臭い商売は、いつどこへ任務として赴くかわからない。その場その場で生えている植物も違うので、この能力は万が一ケガを負ったときに役に立つ。
ただ、カイラードが薬を必要とするほどのケガを負うことはまずないのだが。
人間とは理不尽なもので。
都合の良いときは、重宝し持ち上げ利用するが、不必要な時は距離を置き化け物扱い。
初め親切にする人ほど利用しようと目論んでいるか、本当に親切にしてくれる人も、特殊能力に気づくと忌み嫌う。
どこの国も似たり寄ったりだ。人間は異なるものを排除し、糾弾したくなる生き物。
糾弾される側の気持ちも立場もお構いなしだ。
集団心理・行動は恐ろしい。誰かが異を唱えれば異口同音だ。
人間社会で生きて行くには、カイラードは特殊すぎた。
それゆえ、カイラードは自分以外の人間と、必要最低限しか関わってこなかった。
唯一の話し相手は、剣であるアスカロンだけ。
カイラードは疾走しながら町へ向かう。
居を構えている場所は町から遠く離れている。町の人間が自宅に来ることはまずない。
町に店を出しているので、通常の依頼や客はそこに足を運ぶ。
やんごとなき事情があり、かつ、住処を知っている者は、時に自宅を訪れることもあった。
普通の馬車で片道1時間半。騎乗し全力疾走すれば、その半分ほどで着く。
どちらにしても普通に時間がかかるところ、カイラードの俊足では、瞬時に到着する。
そう、彼は軍馬よりも疾駆する。
ただスピードが並外れているため、受ける風も強く、抱えられた人は酔い、しまいに気絶する。
過去、何度か抱えて走ったことがあるが、みな、同じだった。
『ここにはいるのぉ?』
到着した場所は服屋だ。扉を開け中に入る。
『いらっしゃいませ~』
若い女性定員が笑顔で迎えてくれる。剣を携えて店に来る客はいないせいか、剣を見た途端、店員の顔が曇る。しかし相手もプロだ。ちょっと引きつっていても笑顔は絶やさない。
年齢は、ツバキよりも少し大人びて見える。
『何をお探しですか?今、人気の商品はこちらに置いてあります』
店員は男性コーナーの洋服に誘導する。マネキンが来ている服をちらっとみてから。
『いや、女物を探している』
『失礼しました。女性の方はこちらのコーナーです』
女性用の服は男性よりも圧倒的に服の数が多かった。トップス・パンツ・スカートにジャケット。
それ以外のアイテムも多数あり、いったい何が何だかわからない。
『どういったお客様向けのものをお探しですか?ガーリッシュ系?コンサバ系?ボーイッシュ系?今のトレンドは、カジュアル・きれいめ・シンプルの系統が人気ですよ。プレゼントですか?』
女性定員の言っている意味が全く理解ができない。
これは、、、同じ言語を話しているのか?
『・・・・着られればなんでも構わない。一式選んでくれ』
『・・・・そ、そうですね。スカートとパンツはどちらがいいですか?今の時期でしたら、ワンピースも涼しいので、こちらの商品は人気があります』
『なんでもいい。適当に見繕ってくれ。身長は150ほど、細身』
カイラードは、定員に勧められるがまま洋服を購入。
購入したのはワンピース二着、トップス二枚、スカート二枚にパンツが二本。
これだけあれば、当面は大丈夫そうだ。
そのほかアクセサリーなども売りつけられそうになり、慌てて会計をすまし店を後にした。
次に向かったのは、下着屋だ。下着は、先ほどの服とは段違いにハードルが高い。
うまく購入できるか一抹の不安が募る。
『いらっしゃいませ~今日はどういったものをお求めですか?』
『下着・・・一式くれ』
『ブラとショーツのセットでよろしいですか?』
『それでいい。適当に見繕ってくれ』
『ブラジャーの場合は、トップとアンダーにより同じデザインでも種類がわかれます。着用されるお客様のサイズはご存じでしょうか?』
この女が何を言っているか全くわからない。。。
さっきの洋服屋よりさらに難解だ。。。
依頼をしているほうが、よほどマシだな。
カイラードは返答に困り、言葉が詰まる。なんと答えるのが正解なのかわからない。
焦るあまり汗が出てくる。体中の血管が開き、血が巡るのを感じる。
店員は焦るカイラードを見て、質問に答えられないのを察知し勧める商品を変更した。
『サイズがお分かりにならなければ、こちらのカップ付きブラではいかがでしょうか?身長とお胸のサイズを言っていただければ、正確なサイズが不明でもご着用いただけますよ』
『それだっ!細かいことは、わからん。万人サイズにしてくれ。だめならまた、買いに来る』
この際、なんでもいい。素っ裸じゃなければ。
早くこの店から出たい・・・・
カイラードの心中は<店を出たい>の一点に集中していた。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
店舗を出た途端、カイラードは盛大なため息を付いた。店の入口から見えない場所に移動すると壁に持たれズルズルとしゃがみ込んだ。
疲労感がハンパない。
難易度の高い依頼を遂行中のほうが、よほど楽だ。
依頼は自分の経験値が活かせるから、トラブルが起き、予想通りに事が運ばなくても打開策などいくつでも思い浮かぶ。
しかし今回はオロオロとするばかり。店員に言われるがままだ。
『二度とごめんだな』
『ツバキの服を買いに来たのぉ?本人を連れてくれば良かったのにぃ。まぁ。お初のカイラードに会えて慌てふためく姿は面白かったけどねぇ。買い直しにならないといぃねぇ。でぇ?依頼人には会わないで帰るつもりぃ??』
そうである。
本来は遂行後に依頼人に結果を伝えている。そこまでを契約内容として相手が盛り込んでくるから面倒だが仕方ない。こちらから赴くこともあれば、辛抱切らしてあちらが来ることもよくある。
しかし、今回は、、
任務を完遂できていない上に、うちで監禁していることがバレたら信用問題だ。
まぁ信用などどうでもいが、確実にカイラード以外の刺客に狙われるようになるのは間違いない。
戦闘経験のないものは瞬殺だ。
結果の報告をしなければ、いずれ相手が自宅に来るだろう。引き伸ばすことは得策ではない。
さて、どうするか。
とりあえず、帰るか、家も気になるし。
カイラードは自宅に意識を集中させツバキの気配を追う。
どこにいるかまでは把握できないが、目が覚めたようで気配が動いている。
まだ家の中にいるようだが、よく動いているので外に出る可能性がある。
急いだ帰った方が良さそうだ。
カイラードは行きよりも速度を上げ疾走した。
目が覚めたツバキは自分の姿を見てげんなりした。
まただ。また裸だ。。。どういうこと?!
いっつもマッパだ。。。。
私の服はいったいどこにいったんだろ?
ひと様の家だけど、勝手に探しちゃおう。
そっと扉を開けてみる。これ、今朝もやってたなと思いつつ、扉の外の気配を伺う。
静かだった。何の音もしない。
誰もいないのかな?
まず最初にリビングダイニングへ向かう。そっと覗くとそこには誰もいない。喋る剣も立っていなかった。
リビングはガランとしていて、必要最低限のものしか置いていない。人が生活している感じがない。
私が寝ていた部屋と同じ・・・
リビングダイニング、その奥はキッチンがある。こちらも同じく普段から料理をしていると思えないほど片付いている。
キッチンの隣に扉があり、そこを開くと洗面所がある。
きれい好きなのか、何もしない人なのか・・・・後者かな。
洗面所の隣は日本では洗濯機があるんだけど・・・・・
だれ、これ!!!!!!
洗面台についている鏡を見て私はびっくりしすぎて声が出なかった。
会ったこともない人が鏡に映っていた。
だって、鏡に映っているのは、私じゃないんだもん。
大人っていうよりも、少女がピッタリ。
可愛いけど、幼さを残し、これから成長する中でとびきりの美人になりそうな顔立ち。
瞳はグリーン、髪は薄い茶色でストレート、くっきり二重に、薄い唇、クルンと立ち上がるまつ毛。
かわいい。。。。
こんだけ可愛かったら人生楽しいだろうなぁ。いいなぁかわいいーって。
なんて、昔の自分の顔を思い出して残念な気分になる。
試しに笑ってみた。
「わっ!!すごっ可愛い!!!色しろっ、細っ!シミないっ!首にも線なし。かんぺきぃ。。。芸能人みたい。かわいい、可愛すぎっ」
鏡に映る笑顔が本当にかわいくて、角度を変え笑顔も変え、ついでにポーズを決めたりして。
一人ファッションショーもどきで遊んでしまう。
可愛い子、美人な人ってなりたいと思ってたけど、こーんなに楽しいんだっ!
何してもかわいい。
あれれ??
もしかしてぇ、顔だけじゃなくて、スタイルも?!
今は誰もいないし、ちょっと脱いじゃう??
そっとシャツの上からそっとお腹を撫でてみる。
そして厚みも調べてみる。
横を向いてみる。
おぉ! ペッタンお腹!! うすいっ!!!
誰も家にいないのをいいことに、私は来ていたシャツを脱ぎ鏡の前に立った。
「うっひゃーーー」
細い。食事してないみたいに細い。のに、出るとこ出てるわ、引っ込んでるわっ!
くびれっ!
何年ぶり?! お久しぶりです、くびれっ!!
私は、鏡に映る私だと思われる姿を見て、どれだけ一人遊びに興じていたんだろう。
いつの間にか、玄関扉をひっかく音が聞こえる。
さっきまでは家の中に音など聞こえなかった。
何の音だろう。私は興味を引かれ見に行くことにした。もちろんシャツを着て。
ガリガリと扉をひっかくような音はまだ聞こえる。
玄関扉を開けると外にいる何者かに襲われることもあるため、開けるのをためらう。
別の場所から玄関の様子を見られれば。。。
私が寝ていた場所に確か窓があったはず!
玄関前を離れ、先ほど寝ていた部屋に戻ると予想通り腰高窓があった。
音を立てずに窓を開けたが、位置が違っているので玄関は見られない。
確認するためには窓から外に出て、玄関に回る必要がある。
危険で襲ってくるような生き物だったら・・・そう思ったけど。
どうせ元の世界に戻れないなら、ここで果ててもいいかな、投げやりな気持ちになる。
見に行ってみよう!
今の体は若いし、きっと俊敏に動く。万が一の時は、ダッシュで戻り窓を閉めれば大丈夫。
そう考え、私は窓枠に手をつき、足を掛けて乗り越えた。
腰高窓といっても大きめだったので、乗り越えるのも簡単。
慎重に地面に足をつき、そっと玄関がある方向へ歩き出した。
やっぱり緊張する。
いくら若くてもクマやイノシシ、オオカミのようなものなら、ダッシュしても間に合わない。
玄関までおよそ10m
角を曲がれば、玄関がある。そこまで静かに気配を伺いながら歩いた。
まだ、カリカリと引っ搔くような音が続いている。
家の角から、そっと覗いてみよう。危険だったら戻ればいい。
私はゆっくり家の角から頭を出して玄関を見ようとした。
「!!!」
何が起こったか理解できないまま、私は何者かに押し倒されていた。
瞬時に目を閉じた。体が硬直する。汗が噴き出る。
動物であることは間違いない。前足二本は私の方あたりを抑え込み、後ろ足二本はお腹の上に乗っている。
聞いたことがない獣の唸り声。
やっぱり出なきゃよかったな。。
長い時間が過ぎたようにも感じられるけど、きっとほんの一瞬の時間。
押し倒されて押さえつけらる以外、何もしてこない。ハァハァと獣の息遣いが聞こえる。
意を決して目を開けると、目の前には不思議な生き物が乗っていた。
これ、、、何?
それは、キ○ンビールの絵柄によく似ている。犬のようで犬ではない。
角が生えているし、体に鱗もある。獣はまっすぐ私の目を見つめるだけど、何もしてこない。
体の大きさで言えば、ゴールデンやラブラドールのサイズ。
口から涎が垂れているのを見ると、私は餌認定をされたんだなと思った。
うん。覚悟を決めよう。
そう思った矢先に、その生き物は私の頬をベロりと舐めた。
なんで??人懐っこい・・・
一度舐めだすと止まらないようでベロベロ私の顔を涎だらけにする。
体重もそれなりにあるので、全体重をかけられると重いし、苦しい。
身じろぎをするけど、全くどいてくれない。
私はその動物の体を触ってみる。見た目に反して動物の毛は柔らかった。
姿が違うけど犬のような感じ。
顔は馬っぽい。やっぱり空想上というか、この世界にしかいない動物なのかもしれない。
「重いから、どいてくれる?」
試しに日本語で話しかけてみる。
意思疎通が図れると思わないけど、試してみる価値はある気がした。
その生き物は、のっそりと私の体から下りてくれた。
寝転がっている私の隣で立っていた。言葉が通じたのか、たまたまだったのか。
動物がおりると体が圧迫されなくなり、呼吸が楽になる。
「どいてくれて、ありがとう」
動物は、「いいよ」とでもいう様に頭を下げた。
やっぱり会話が成立してる??
動物からは殺気も感じない。ただじっと隣で立っている。
ぴくっ
動物の耳が動き、視線を玄関がある方角へ向けた。そしてうなり声をあげる。さっき私に唸ってきた声よりだいぶ低い。これが野生の獣の威嚇・・・・・
うぅぅぅ!
『大丈夫か?』
曲がり角から出てきたのは、お兄さんだった。両手に荷物をたくさん持っているので買い物にいっていたのかもしれない。
うぅぅぅ!
『麒麟??なんでここに』
動物は私とお兄さんの間に立ち、唸り声を上げ続けている。瞬時に飛び掛かれるよう頭を低くし戦闘態勢に入っているように見えた。
「大丈夫だよ、このお兄さんは敵じゃないよ」
そう声を動物にかけると、私の顔を見あげてくる。
本当か、害のあるやつじゃないのかって確認しているように見えたため、同じ言葉を繰り返した。
「大丈夫だよ、このお兄さんは敵じゃないよ」
安心したのか、戦闘態勢は解除され、今度は私の隣に座り込んだ。
お兄さんは何に驚いているか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
私には驚いているポイントが掴めなかった。