【短編】Our adventure~平和を目指して~
初めまして!私、リベラ‐ヘサっていうの。へサって呼んでね。
私は、この世界で一番強いって言われてる…あっ!勘違いしないでね。私が強いってわけじゃないよ。
あくまで一番強い組織に入ってるってだけだから。
5年前は下っ端だったけど…いつの間にか副隊長になっちゃってた。
自分自身、そんなに強いだなんて思ってなかったから、隊長から「お前は副隊長な」って言われた時にはびっくりしすぎて心臓止まるかと思っちゃった。
前置きが長くなっちゃったけど、今私たちはとんでもないものを見ているの。
………目の前に妖精がいるの。
信じられないでしょう?私も信じたくても信じられない。
こんなことになったのは、ある日、少し遠い森に行っていた兵士がいくら待っても帰ってこなくて、何人かで探しに行ったの。しかし、その探しに行った兵士たちも帰ってこられなかったそうよ。
そのあと、国の全兵力かけて探しに行ったのに誰ひとりとして帰ってこれなかったそうなのよ。
犠牲になった…ていったら変だけど、大体10人くらいは現在行方不明だそうよ。
そこで、私たちの出番ということ。組織の兵士、20人で来たのよ。しかし…
森に入った瞬間、他の兵士の姿が消えてしまったの。
本当に一瞬だったのよ。気づいたら隣には隊長のみ。
で、二人で混乱してたら妖精が来て今に至るって感じよ。
ちなみに妖精について説明すると、二人いて男の子と女の子。そして、双子らしい。
女の子のほうが姉で、男の子のほうが弟だそうよ。
大きさは私たちと同じくらい。
名前は姉がヘレナで、弟がシャロ。
なぜこんなに知っているかというと、この二人が勝手に話してくれたから。
まぁ二人といってもヘレナが一人で、べらべらとしゃべってただけだけどね。
「ねぇ人間の男、名前教えてよ~!」
「いやだ。」
…そして今は、ヘレナが隊長の名前を聞こうと必死だ。
隊長、名前あんまり教えないもんな…。私たちにも「隊長」と呼べって言われたし…。
…あれ?隊長の名前ってなんだっけ?普段呼んでないから忘れちゃった。
気になるし、聞いてみよ。
「隊長の名前ってなんでしたっけ?」
私がそう聞くと、苦虫を嚙み潰したような顔でこっちをにらみつけてくる。
…ちびだから怖くないんだけど。ふふっ
「…スチュアート-ルイス…。」
あーそんなような名前だったような気が…しなくもない。
…すいません、隊長。まったく記憶にございません。あなた自己紹介してました?
まぁ、これから覚えればいいでしょ。忘れないようにルイス隊長って呼ぼっと。
すごくにらみつけてくるが、そんなに名前を教えたくなかったのかな?
「ルイス隊長、ところで…」
「…お前…。」
んん?眼光が鋭くなったような…。
ま、いっか。
「…他の隊員を探し出すのと、行方不明者を探さなくちゃですよ!早くしないと…。」
どこにいるのかも分からない中、どうやって探すのだろうか。そもそもこんな、いかにも強い魔物が出そうな森の中で生きているのだろうか。
生きていたとしても果たして無事に見つけて、帰還することができるのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。そんなマイナスの考え、私らしくないわ。
もしかしたら、今までで一番厳しい状況かもしれない。
でもどんな時だって、隊長と乗り越えてきたじゃないの。
それに…今回、無事に帰ることができたら隊長に伝えたいことがあったのよね…。
「ねぇ、へサ?急に黙り込んでどうしたの?」
ヘレナの声に、初めて自分の考えに浸ってしまっていたことに気づく。
ルイス隊長も少しだけ眼光が鋭くなくなっている…気がする。心配かけちゃったかな。
「ううん。何でもない。それより、早く行かないと!!…だけど…ぶふっ!!ゴホゴホッ!!」
ちょ…隊長が、ふふっ…隊長の顔が見たこともないくらいに不思議そうな顔してるっ!!!
待って?面白すぎるんだけどっ!!
だって考えてみてよ。普段、めっちゃ不機嫌そうに(本人はそのつもりじゃないけど)にらんでくる人が、眉間にしわが寄ってなくて、口もちょっと開いてて…頭の中にはてなが浮かびまくってる顔してんだよ?
そりゃあ、誰だって笑っちゃうでしょ?
あははっ!!私の視線に気づいて隊長の顔が引き締まったっ!!
でもやっぱり不思議そうにしてるよっ!
おもろすぎる!!
「お前…!」
ふふふっ
可愛すぎん?怒っていても全然怖くないのにな~。
ま、それよりも役目を果たさなきゃ!
「ねぇ、ヘレ…」
「人間が死んじゃった。」
「え…」
シャ…シャロ…?
急にど…どうしたの?
そう声に出そうとしても、口が動かない。
代わりに息づかいか荒くなるのみだ。
慌てて隊長の顔を見てみると、彼は動揺せずにまっすぐと前を見据えていた。
………まるでそうなることが分かっていたかのように。
「何人?」
「…15人くらい。」
15人って…!
私がショックで声が出ない間にも、隊長とシャロ、珍しく真剣なヘレナが話し合っていた。
「場所…」
「えぇ。なんとなくだけど、森の真ん中あたりね。いやな空気が溜まりに溜まっているところよ。」
いやな空気…?
「ぁ…っ」
声が上手く出ない…けど…っ!
「…ぃっ…いやな空気って何…?」
ふぅ…言えた…。
ヘレナが、頑張ったねとでも言うかのように笑いかけてくれた。
「なんか近年、邪悪な空気が森の真ん中あたりに充満しているの。浄化魔法をかけたけれど無理だったわ。」
「僕たち妖精はその空気の中に入れないから、原因がわからないんだ。」
そうなんだ…。
ん…?妖精は入れないんだよね?なら、私たち人間ならその空気の中に入れるのかな?
「…俺たちは?」
そんな私の疑問を読み取ったかのように、隊長が質問してくれた。
「人間なら大丈夫よ。…是非、原因を調べてきてほしいわ。」
「もう少しで夜になっちゃうから、僕たちの住んでるとこに来なよ。」
シャロってやさしいのね。
お言葉に甘えて泊まらせてもらおうかな…?
隊長の顔色をうかがうと、泊まらせてもらう気満々な感じがした。
「あぁ。…よろしく。」
**
エレナとシャロの作るご飯が美味しすぎて、元気がめっちゃ出てきた!
よーしっ!!原因を調べるぞー!
…ってやる気満々で来たのはよかったんだけど…。
森が不気味すぎる!
あの邪悪な空気ってのは、紫色していてどう見ても悪い効果がありそうなの。
それでも勇気を出して入ったら、まわりは濃い紫色の霧で囲まれているわ、風が吹くたびにガサガサッて音がするわ、時々魔物の唸り声が聞こえるわで精神的に死にそう。
もう逃げ出したい…。
ガサガサガサッ!!
何っ!?
「へサッ!来るぞ!」
ガルルルルルァッ!!!
隊長が叫んだのと同時に、私の体の五倍以上はありそうな巨大な魔物が飛び出してきた。
普通の人間だったら避けられない速さ。
でも…素早さには自信あるのよっ!
魔物に引っかかれるぎりぎりの所で避けた。
ふぅ。私でもギリギリ…。この魔物、尋常じゃない程に速い…!
そして攻撃力も高そう…!!あの爪に少しでも触れたら…真っ二つになるかも…。
あれ?隊長に気づいていないかのように、私の方しか見ていない…?
もしかしてっ!
あのシャロが教えてくれた人数、15人ってのは女性の人数?
この魔物、女性にしか目がない…?
「隊長!!」
次々と繰り出される魔物の攻撃を、ぎりぎりの所で避けながら隊長に叫ぶと、分かっているとでも言いたげな顔をして走っていった。
よし!これでこいつに集中できる!
今までの攻撃パターンは単調で、引っかく攻撃しかない。
自我を忘れているような感じ…?
なんかもっと攻撃パターンがありそうなのに…弱体化してる気がする。
っとそれよりもどうやって倒すか考えないとね。
弱点は………目とか脳のあたりの傷…。傷?
なんか縫われたような傷あとがある…。
尋常じゃない速さと攻撃力、自我を忘れているような感じ…もしかしたら…!
いや、そうじゃないと思いたいわ。あの大昔に禁じられたあの魔術だとは。
魔物の速度が落ちてきている気がする。疲れてきている…のかな?
このまま疲れさせて…
ぴぎゃぁーっ!!
今度は何!?
空から聞こえたけどっ!?
空を見たいけど、この目の前のやつから目を離したら終わり。
また爪の引っかく攻撃が来る…。
空気を切る音が空から…来る!!
私がバックステップで一歩下がった瞬間、目の前に鳥型の魔物が突っ込んできた。
そして運がいいのか悪いのか、引っかく攻撃が鳥の魔物に当たり、鳥の魔物は死んでしまった。
良かったぁ。いくら私でも二匹の魔物相手にするのはきつかったんだよー!
しかも、さっきの爪の攻撃のせいで鳥の魔物に爪が引っかかってしまったらしく、あがいていた。
よし。とどめを刺そう。
ザクッ
容赦なく脳に持っていた短剣をぶっさすと、魔物は力なく倒れていった。
早く隊長のところに行かなきゃ。
隊長は強いから大丈夫だとは思うけど…もしかしたら、禁断魔法を使ったやつがいるかもしれないから…。急がないと!
その時、隊長から風魔法でのメッセージが届いた。
やっぱり…。最悪の事態だ…。
あんまり使いたくなかったけど、使うしかないよね…?
サークルAB、解除。
湧き上がってくるエネルギーを感じるとともに、体力が削られていくのが感じられた。
早く行かないと。
その後風のように消え去った彼女のことを、見ることができた者はいなかったそうだ。
**
隊長は…どこ…?はぁっ…はぁっ…!
こんなに長くこれを使ったことなかったから…体力の限界が…。
……自分がこのスキルに目覚めたときは戦って生きていくのは無理だ、と絶望したな…。
ふふふ…昔の私が今の私を見たらびっくりするだろうなぁ…。
……隊長の魔力がこっちから…少しだけ…。
逆方向っ!
急な方向転換…!行ける…!?
…っ!行くしかないっ!
ズサササーッ
ぐっ!!
足首捻った…!?
でももう少しっ!我慢して…行かなきゃっ!!
「…ぇ…ぃ…だ!!」
人の声…やっぱり禁断魔法の魔力を感じられる……使ったのね…。
禁断魔法を解除するためには、その人自身が解除するか…禁断魔法を使った人が死ぬか…だったよね。
解除は…どうせしても禁断魔法を使った罰が下されるし、見込みはない…となると殺すしかない…。
こっちには気づいてないし…よし、このまま近づいて…殺す。
サークルC、解除。
体が軽くなり、私の足音が小さくなる。
短剣を握り締め、禁断魔法を使ったやつの方へ走る…。
その時、禁断魔法を使ったやつの魔力が隊長のほうへと動いていくのが見えた。
結構量が多い…ってことは、また禁断魔術を!?
隊長は気づいてる!?…無理だ。相手は隊長に攻撃しながら魔力を練っている。
その動きも俊敏で、多分身体強化魔法を使ってる。
それを避けるのに必死で気づく余裕もない。
ここで私が声を出したら、相手に私の存在がばれる。
だけど、隊長が死んだら…嫌だ。しかも目の前で…。
どうする…!?どっちをとってもデメリットが大きすぎる!
もっといい方法はないのか…?
魔力が練り終わった!!発射するっ!
「死ねぇっ!!」
そうかっ!これならっ…!
「へサッ!?」
ふぅ…成功!
私のスキルの応用で、時間を止めることができちゃった。
しかもあいつと、あいつの魔法だけ、時間を止めたの!
でも、1分持つか持たないかくらいだから作戦を急いで練らないと!
「隊長、私のスキルであいつの時間を止めました。あいつが使った魔法は禁断魔法です。あいつを殺すしか方法がありません。時間を止めているときは殺せないので、私が解除した瞬間にあいつを殺します。隊長はこの禁断魔法を魔法で打ち消してください。」
隊長は一瞬戸惑っていたが、すぐに持ち直しこくりとうなずいた。
さすがプロ。
隊長が魔力を練り終えたのを見て、私もあいつの近くに立ち、短剣を構える。
「行きます。…解除。」
ザクッ
ドォーン
一応、首切ったし、心臓も貫いておいたからもうじき死ぬよね。
隊長の方も魔法で打ち消すことができたみたい。
良かった…。
気が抜けるのと同時にこのスキルの疲れがどっと来た。
あ、やばい。倒れる。
サークルABC、ロック…。
意識が途切れる直前、できたことはそれだけだった。
**
うぅ…?
ここは…自分の部屋…。
はっ!スキルの長時間使用による疲れで、倒れちゃったんだった!
隊長が運んでくれたのかな?
「へサ!…大丈夫か?」
隊長…迷惑かけちゃったな…。
それなのに心配してくれるなんて…怖い顔してんのに、やさしいのね。
その後、隊長に話を聞いた。
私はあの森で倒れてから10日間くらい目が覚めなかったらしい。
心配してくれたらしい。
禁断魔法を使った人のことは警察に言い、殺してしまった事情を話したそうだ。
これからはこのようなことがないように、より、禁断魔法の書を厳重に保管するそうだ。
これで一件落着。
…隊長に伝えようと思っていたこと…。
まぁ、まだ焦んなくていっか。このままの関係でもいいかな…なんて。
そういえば…
「隊長の名前ってなんでしたっけ?」
「お前…!?」
世界がこんな平和な時間に包まれますように。
~end~