第2話
※一般的な小説のように、文章を読み進めることにより映像が脳内を通過していく感覚とは異なり、このお話はいわゆる【脚本】の書き方をベースにしております。
ですから、情景をイメージするには読み手様であるご自身が、脳内スタジオで舞台を構築し、カメラワーク等をこなす作業が必要となります。
簡単にいうと、読み手様はもれなくこのお話の脳内監督さんになって上映してくださいな。
誤解をおそれずに言うならば、今までの経験で、スマホで動画を撮り、要らない箇所をカットしたり動画編集した経験がおありでしたら、そうソレで十分にこの取っ付き難い物語を読み進める事が出来るはずです。
~主となる登場人物~
・一色茜莉・高校二年生
・ェアィン・茜莉の中の住人
・一色幸次・茜莉の父
・一色楓・茜莉の母
・富田菜津・クラスメイト
・宮下彩・クラスメイト
・台場宗孝・部活のコーチ
第2話
〇丸内市街(夕)
ビルの上に設けられた大型ビジョンがニュース番組を映している。
リュックを背負った茜莉、横断歩道の信号待ちの人混みに囲まれながら、背後の大型ビジョンを横目で見ている。
大型ビジョンに放映中の、男性ニュースキャスターと女性ニュースキャスターが番組を進行している。
男キャスター《ということは、新たに発表されたこの解析画像を見る限り、隕石は少なくとも同時に二つ落下してきたということでしょうか?》
女キャスター《はい。今回、専門家が各所で捉えられた隕石の映像を集めて、多角的に映像解析を進めた結果、現時点で少なくとも二つの隕石が寄り添う形で落ちて来て、地上付近で同時に爆発し、結果、破片が無数に拡散している様子が分かったということです》
男キャスター《現時点での丸内市の被害状況を今日時点でお伝えしますと、怪我人の数は1080人、建築物の推定被害額は180億に達すると見込まれており……》
横断歩道の信号が青に変わり、人の流れに押されるようにして、茜莉も歩きだす。
夕日に照らされたビル群の上層階の窓は、もれなく割れてしまったままである。
〇電車内(夕)
茜莉、混みあった車内でつり革に掴まりながら、窓の外の街並みを見つめている。
〇郊外マンション・5階の廊下(夕~夜)
茜莉、帰路を歩いている。
〇一色宅・玄関(夕~夜)
玄関の前では、ペットのマルチーズのマルが、右往左往しながら尻尾を振って扉を見ている。
扉が開いて、玄関に茜莉が入って来るやいなや、マルは鼻を鳴らしながら、茜莉の方へと向かって行く。
茜莉、出迎えたマルをしゃがんで抱っこすると頬擦りをする。
茜莉「マル。ただいま……」
〇一色宅・居間(夕~夜)
茜莉、マルを抱っこしたまま居間に入って来る。
エプロン姿の楓、台所から出て来ると、茜莉に声をかける。
楓「おかえり~。今日はどうだった?」
茜莉、抱っこしたマルに頬擦りしながら、
茜莉「……クラブ行ったけど……途中で気分悪くして帰ってきちゃった……」
と、言い、抱っこしたマルを楓の腕に渡す。
楓、茜莉の顔を見ながら心配そうに語り掛ける。
楓「そう……。大丈夫?……」
茜莉、踵を返し歩きながら答える。
茜莉「……うん。今は何ともない。少し、部屋で休むね……」
楓、マルをギュッと抱きしめて茜莉の背中へ言う。
楓「茜莉……。無理して全部思い出さなくたっていいんだからねっ?」
茜莉、横を向いて頷くと、そのまま部屋へと向かう。
〇一色宅・茜莉の部屋(夜)
真っ暗な部屋。
茜莉、制服のままベッドの上でうつぶせ寝でいる。
スマホの通知音が鳴る。
茜莉、横になってスカートのポケットからスマホを取り出して、画面を見る。
画面にはポップアップで、菜津からメッセージが届いている。
茜莉、スマホを枕の方に置くと、仰向けになって呟く。
茜莉「あのさ……。聞きたいことがあるんだ」
すると、茜莉の脳内にェアィンの声がする。
ェアィン(大丈夫ダ。ボクを意識してそのまま思えばボクに伝わル)
茜莉(これでいい?)
ェアィン(アあ。問題なイ)
茜莉
ェアィン(……?)
茜莉(あーごめんね。まだ自分の中で、この現象をどう受け止めていいか……。なんならまだ今からでも病院に駆け込んだほうがいいかすら……。半々なんだ)
ェアィン(ワかるヨ。ボクもキミの中にどうして寄生虫のようにいs)
茜莉、ガバッと上半身を起こすと、大きめの声で発する。
茜莉「ちょちょちょちょちょ!待てぇ~っ!」
ェアィン(……?)
茜莉「私の脳内で【?】マーク出してんじゃねーよっ!寄生虫って何?え?何ぃ?……」
ェアィン(血圧の上昇を感じタ。少し落ち着こうか。アカリン)
茜莉、再びベッドに倒れこむ。
茜莉(……。取り乱したわ……。てかさ、寄生虫って意味知ってる?)
ェアィン(キミの中の知識を共有させて貰っていル)
間。
茜莉(……。とにかく寄生虫呼びは却下。精神衛生上穏やかでないから!)
ェアィン(アカリン。じゃあボクの事はェアィンと呼んデ)
茜莉(……却下)
ェアィン(ワけがわからないヨ)
茜莉(舌嚙むんでアィン)
ェアィン(記号だからそれでもいイ)
茜莉(……じゃあアィン。あなたは何者?私の多重人格みたいなもん?)
ェアィン(ボクも自分が何者なのか欠落していル。このェアィンという呼称もきっと何かの名残……)
茜莉(……これってさ、全部隕石のせい?……)
ェアィン(すべての起点日はその日にあったと推測されるネ)
茜莉(アィンはあの日より前に居たの?)
ェアィン(……分からない。アカリンとこうして意思の疎通が出来るようになったのも今日。キミの中の情報とボクの持ち合わせの情報を照らし合わせると、確かな事は、お互いに何か大切な事を欠落してしまっているというコト)
茜莉(……敵……?じゃないよね?)
ェアィン(大丈夫。というかそう思ってないネ。アカリン)
茜莉(あんまりさ……一応だけど、年頃の女子高生の思考を読むのやめてくんない?)
ェアィン(……肝に銘じル)
茜莉(つっても……その肝も私のだけど?)
ェアィン(……?)
〇丸内市街・通学路(朝)
出勤や通学の人々が行き交っている。
茜莉もその中の一人である。
その茜莉の後方から菜津が声を掛けて来る。
菜津「茜莉ちゃん!おっすー!」
茜莉「お!はよ!」
二人、並んで一緒に歩く。
菜津「昨日、心配したんだよ~!」
茜莉「……ごめんね。菜っちゃんまで心配させちゃって……」
菜津「いやぁさぁ……。部活に誘ったのはあたしだし……、めっちゃ責任感じてるよぉもぉ~。途中で帰るって言うしさぁ……」
茜莉「昨日、メッセージで言った通り。もう大丈夫だって」
菜津「ほんとにぃ?」
と、菜津は茜莉の顔を覗き込む。
茜莉、その菜津へと笑顔で答える。
茜莉「ほんとに!ほんとにぃ!」
菜津「良かったぁ。でも、部活はちょっと休んでもいいかもね?……」
茜莉「うん……確かにね。でも、私、なんか逃げたくないっていうかさぁ……」
菜津「うん……」
茜莉「宮下さんっているじゃん?同じクラスで同じ部活の」
菜津「……うん」
茜莉「私と同じ隕石被害の境遇者なのに、けっこー頑張ってるじゃん?」
菜津「そうだね」
茜莉「なんだかさ、負けたくないんだ!」
菜津「茜莉ちゃん。誰よりもKASSEN好きな子だったもんね」
茜莉、立ち止まると、菜津へ向かって言う。
茜莉「そうだ!菜っちゃんさ、動画ない?動画っ!」
菜津も立ち止まって答える。
菜津「え?ああKASSENの?なんで?茜莉ちゃんのスマホにもあるでしょ?」
茜莉少し首をかしげ、再び歩き出す。
茜莉「……なんかさ、スマホの中に画像とか動画とか何も残ってないんだよね。どっかに保管してるかと思ったけどそういうわけでもなくてさぁ……」
菜津「……うん、分かった。私の動画あげるから」
と、前から男子中学生の三人組である、長身の森下と、太った橋田の間に、小柄な小道が挟まれて歩いて来る。
挟まれて歩く小道は左右の二人に肩を組まれており、歩き辛そうでいる。
茜莉、その三人組に視線を向けると、歩くスピードがやや遅くなり、菜津が先に歩む形となる。
菜津、茜莉の方へ視線をやる。
菜津「茜莉ちゃん?」
茜莉、菜津の問い掛けには応じず、すれ違って行くその三人組から視線を外さない。
三人組、茜莉と菜津の後方へ過ぎ去っていく。
と、小道の背中辺りに漂う真っ黒な瘴気がはっきりと見える。
茜莉「……っ!」
と、小さく声にする茜莉。
菜津、茜莉の視線の先を見てから、茜莉の顔をまた見る。
菜津「え?えっ?……」
茜莉、菜津の視線を感じて、目を合わせると、驚く。
茜莉「っ!……」
茜莉、勢いよく歩き出す。
菜津、茜莉を追い掛ける。
菜津「いやなんで?今の何!?」
茜莉、菜津の方を見ずに真っすぐ歩きながら答える。
茜莉「いやあのーうん……なーんかどっかで見たことある人だなって……そう!記憶が戻って来てるっぽい!」
菜津「お!やったね茜莉ちゃん!」
茜莉(アイン、ねえ?今のって……)
ェアィン(ソうだネ。真ん中の少年。微かに臭いがしタ)
茜莉、菜津と歩きながらェアィンに尋ねる。
茜莉(臭い?)
ェアィン(ボクも気づいた時にはこの情報はあえて拾わなくなったが、キミの鼻腔を通じて得られる情報に、この独特の臭いがあるんダ)
茜莉(それって……どんな臭い?)
ェアィン(分かりやすく例えると甘いんダ。でもアカリンは嫌いな臭イ。この世界には溢れていル)
茜莉(彼……あの少年はどうなるのかな……)
ェアィン(確かな事は分からなイ。昨日の様な可能性もあル)
茜莉
ェアィン(ソうならない可能性を望ム)
〇丸内高校・二年三組・教室内(午前中)
茜莉、授業を受けている。
〇丸内高校・二年三組・教室内(昼休み)
茜莉、菜津と机を合わせてスマホで動画を見ながら、弁当を食べている。
〇第二体育館・KASSEN部エリア・奥(放課後)
まだ部員の姿はチラホラとしかいない。
フルプロテクター姿の茜莉、一人でソードを振るってイメージトレーニングをしている。
既にヘッドギア内の目の周りには汗が薄っすらと噴き出ている。
台場、その茜莉にゆっくりと近づくと尋ねる。
台場「一色、昨日の今日だぞ……大丈夫か?本調子になるまで無理して出て来なくとも良かったんだぞ?」
茜莉、いったん素振りをやめて、一息スゥーっと呼吸を整えると、バイザーを上げて、台場に向かって答える。
茜莉「昔の自分……って言ったらおかしっか?……。記憶、失う前の自分の姿を動画で見たんです。したらば、私、レギュラーだったんだーって」
台場「うむ。一色はソードのセンスが抜群だった。いやこれは過去形という意味ではない。今、お前の素振りを見ていたがその動き悪くない」
茜莉「邪念?を振り払ってただ純粋に動いていると、既視感みたく過去の自分と今の自分が重なるんです!」
台場「ああ。以前少し感じていた妙な硬さが無く、むしろ今の方が柔らかい動きで生き生きとしているように見える」
茜莉「え?本当ですか?」
台場「一色。あと1ヶ月でどこまで取り戻せる?」
茜莉「えっ?……」
台場「8月の大会。5人のレギュラーの枠の話だ」
茜莉「……。頑張って取り戻して見せますっ!」
と、そこへ、フルプロテクター姿の彩が、バイザーを上げながら声を掛けてくる。
彩「コーチ。それってば、あーしにも可能性あるってことですよね?」
台場、彩の方を向いてスポーツグラスに彩の顔を映す。
間。
台場「宮下。お前はソードのポジションで補欠だった」
彩、更に近づいてくると、言う。
彩「それって、あーしらが記憶失う前って意味で、ですよね?仮に今ここで、あーしが一色さんに勝ったら、その話、一旦リセットしてくれません?」
彩、茜莉の顔を一瞬見て言葉を続ける。
彩「記憶。取り戻し始めているのって、あーしの方が早いんじゃないかって」
台場、茜莉の顔をスポーツグラスに映しながら、言う。
台場「一色。お前はどうしたい?」
茜莉、台場と彩の顔をそれぞれ見て答える。
茜莉「もしかしたら……思い出すいいきっかけになるかもしれない……って思ってる自分もいますっ」
台場、茜莉と彩を一瞬見て、言う。
台場「では3分。180秒だけだ。一本を取るか、さもなくば判定。いいな?」
茜莉と彩、返事をする。
茜莉&彩「はい!」
〇第二体育館・KASSEN部エリア・中央
茜莉と彩、床の中央の白線を間にして対面で向かい合っている。
彩、その場で連続ジャンプをして、体をほぐしている。
と、菜津、小走りで来て、床の外周の白線の外から、茜莉に驚いた感じで声をかける。
菜津「ち、ちょっと!?茜莉ちゃん!?あたしが掃除当番してる合間に何してんのー!?」
茜莉、菜津の方を見て、目の周りの汗を指で拭いながら、
茜莉「記憶っ!今やれることはやっておきたい!」
と、答える。
台場、胸のポケットから取り出したスマホの画面から競技アプリのアイコンをタップして操作する。
すると、KASSEN部エリアの壁に設置されているモニターが起動し、KASSEN競技用の掲示板モニターとなり、彩と茜莉を表す【A対B】と【180】秒表記が表示される。
部活に集まり始めた三年生ら、モップ掛けをっしていた一年生らが、各々、外周の白線外から野次馬となって見物し始める。
台場、茜莉と彩の二人をスポーツグラスに映して、言う。
台場「そのまま聞け。元々俺は、男子のKASSEN競技しか指導したことはなかった。だが縁あって、こうしてお前たち女子の指導に当たる事となった。今は忘れてしまっているかもしれんが、お前たち二人は、男子に引けを取らない運動神経と、勝負センスが備わっている。セオリーに捉われずに、ソードのポジションを二人に増やしてもいいが、それはそれとしてだ。二人とも、好敵として育っていって欲しいと思っている」
茜莉と彩、互いを視界に捉える。
間。
台場「では、センサーオン!」
茜莉と彩、バイザーを下げて、腰の後ろにあるスイッチを長押しする。
と、プロテクターのセンサーが組み込まれた部位が、緑色に淡く点灯する。
次いで、握ったソードのグリップの底部のスイッチを長押しすると、ソードの刀身である刃先は赤色、その反対側の背の部分は黄色に淡く光る。
茜莉と彩、白線を互いの境界線として、それぞれ右手に握ったソードをギュッと握り、身構える。
台場「うむ。異常はないな?」
茜莉&彩「はい!」
外野の菜津、両手をギュッと握る。
台場、外周の白線外まで移動して、
台場「用意!」
と、一声。
続くように館内に短くホーンが響いて開始を告げる。
彩、ホーンと共に、ソードの背側である黄色の方で、茜莉の左足の緑色に発光する部位のプロテクターを狙って、ソードを素早く振るう。
菜津(ブロー狙い!……)
茜莉、バックステップで避けようとするが、彩のソードの先端が、その左足のプロテクターに僅かにツっと掠る。
すると、その左足のプロテクター部位は、緑色の発光状態から黄色の明滅へと変化する。
同時に、膝関節にある、脚と足のプロテクターの連結金具部のソレノイド(電磁ロック)からカチッと小さな音がする。
茜莉(っ!初っ端からっ!……)
茜莉、左膝関節へと一重の運動負荷が加わり、左膝が曲げにくくなる。
ゆえに、その足を引きずる様にして、彩との間合いを取るように、更に後方へと動く。
台場、二人をスポーツグラスのそれぞれの両目に映している。
台場(10秒の足枷。一色どうする?)
間合いを開けようとしている茜莉。
それを追って、彩、距離を詰めながら、茜莉の頭部を狙って、ソードの赤く光る刃側で振り下ろしていく。
彩「っ!」
茜莉は、その攻撃を自身の右手のソードで、右側へ受け流す。
受け流された彩、茜莉のソードを狙って4連撃をぶつける。
続く5連撃目は、両手で持って、更に強く打ちつける。
茜莉、4連撃を両手で握ったソードで防ぎきると、彩の5連撃目で生まれた僅かな隙をついて、再び後方へと間合いを取る。
菜津(茜莉ちゃん……)
間。
茜莉と彩、呼吸で肩が揺れている。
彩(初手が掠ったのをいいことに一気に終わらせようとしたのは流石に無理か……)
茜莉(もうすぐ10秒……)
茜莉の左足のプロテクターの発光、黄色の明滅から緑色の発光へと戻る。
左膝関節の電磁ロックがカチッと音をさせて解除される。
茜莉、その音と共に、即座に床を蹴って、彩との間合いを詰め、彩に向かって大きくソードの背を振り下ろしていく。
彩(見え見え!)
と、彩、後方へのバックステップで躱す。
茜莉(!)
茜莉、彩の懐へと更に飛び込む勢いで前進し、振り下ろしたソードを反転させ、赤い刀身の方で下から上へと、素早く切り上げる。
その攻撃に反応が若干、間に合わなかった彩、自身のソードでの防御が間に合わず、咄嗟に出した左手のプロテクター部で、茜莉のソードの斬撃を受ける。
しかし弱い打撃音。
彩(っ!?)
茜莉(っ?!)
台場(弱い)
互いに詰まった間合いで彩、茜莉の頭部へと斬撃を放つ。
茜莉、視界のすぐ左側から来るソードを避け切れず、咄嗟に左手プロテクターでガードする。
強い打撃音がする。
茜莉「くっ!」
茜莉の左手のプロテクターの発光、緑色から赤色へと変わる。
左肘の関節にある、プロテクターの連結金具部の電磁ロックがカチカチっと二重のロック音をさせる。
菜津(左手が!)
茜莉、左腕は曲げたまま固定されてしまう。
だが、茜莉は左腕はそのままに無視して、右手に握ったソードで切り払いながらバックステップしていく。
彩、逃げる茜莉を追って、茜莉の切り払いに合わせるようにソードで連続で切り付けていく。
茜莉と彩の剣戟の乾いた音と床を蹴る靴音が、館内に響く。
その様子を、外周で見ている外野の生徒たちと、菜津と台場。
彩、茜莉の切り払いをことごとく潰し、茜莉の正中線に隙を作ると、茜莉の頭部目掛けて、右手のソードを突き気味に放っていく。
彩「ここっ!」
茜莉、弾かれた自分の右手のソードを彩の突きに合わせて、クロスカウンター崩れの様に彩の頭部へ放つ。
茜莉「んんっ!」
茜莉の視界にはゆっくりと、彩の赤く光るソードの刀身が近づいてくる。
一方、茜莉のソードは彩に届くには距離がある。
どんどん近づいて来る赤い刀身。
茜莉(終わった……)
茜莉、目を閉じる。
間。
茜莉、ゆっくりと目を開ける。
と、全てが、白と淡い白で構成されたモノクロに似た空間が広がっており、茜莉自身も、彩とその刀身も全てが止まっている。
茜莉(なっ……?)
ェアィン、茜莉の脳内に語り掛ける。
ェアィン(キミの心に反応しタ)
茜莉、脳内で答える。
茜莉(アィンなの……これ?ちょっと待って!)
ェアィン(キミの心は分かっていル……ボクがいけなかっタ)
茜莉
間。
茜莉、目の前の彩のソードを見つめながら、声に出して言う。
茜莉「あーあ。負けたなぁ……」
ェアィン(……)
間。
茜莉、目を大きく見開く。
茜莉「いいよいいんだよ。今はこの負けを認める!この目に、この負けを刻むんだっ!アィン!!」
ェアィン(ウん。戻るヨ……)
すると、白の空間は一瞬にして、以前の空間へと戻る。
見開いた茜莉の目に映る視界のやや上へと、彩のソードがタンっと音をさせて当たった。
館内に鳴り響くホーン音。
KASSEN競技用の掲示板モニターのタイマーは、残り【93】秒で停止し、【A】の下に○が【B】の下に●が表示される。
両者のプロテクターとソードからは発光が消え、茜莉の左肘の電磁ロックも解除される。
台場、項垂れる茜莉と喜々とした彩の二人へと近づく。
台場「今回の結果は宮下の勝利。今回の件は宮下の意見、参考にさせて貰う。以上。部活の時間だ」
茜莉、項垂れながら菜津の方へ歩いて行くと、菜津も茜莉へと駆け寄っていく。
彩、バイザーを上げると、呼吸を整えながら茜莉の後姿をずっと見つめ続けている。
〇丸内市街・通学路(夕~夜)
リュックを背負った茜莉、帰路につく会社員や学生に交じって、一人で歩いている。
と、茜莉のスマホの通知音が鳴る。
茜莉、道の脇にそれて、スマホをスカートのポケットから出し、画面を見る。
スマホの画面には、楓からのメッセージで【マルのドッグフード買ってきて!切らしてた!『低アレルゲンシリーズのマルチーズ』2300円のね!!駅東口のデパート1階のペットショップにも確かあるから!】とある。
茜莉、ため息を付きながらスマホをしまうと、呟く。
茜莉「ちょ~い。遠回りぃ~……」
と、スマホに再び通知音。
茜莉、スマホを見る。
楓から3000円の電子マネーが【余りはお駄賃ね~】とメッセージ付きで送られて来ている。
茜莉、すかさず【おk】と返信する。
〇丸内市街・デパート内ペットショップ(夕~夜)
茜莉、ドッグフードを会計して、袋に入れてもらったドッグフードを持って、店から出て来る。
と、茜莉の視界の先、朝見かけた男子中学生の三人組、森下と橋田の間に挟まれた小道がエスカレーターで上の階へと昇って行くのが見える。
茜莉、その姿を見つめている。
茜莉、その三人組を追って歩き出す。
〇丸内市街・デパート内ゲームセンター内(夕~夜)
森下と橋田は、箱入りのフィギアが景品となったクレーンゲームで遊んでいる。
その背後に小道が俯き加減で立っている。
森下「あーっ!!!もうちょっとだったのにぃ!」
と、頭を抱え、天を仰ぐ。
茜莉、他の客に交じって、そのクレーンゲームの向かい側で様子を伺っている。
橋田、森下を横に追いやって、
橋田「じゃあ次、俺の番~!」
筐体内のアーム、橋田の操作によって、箱に入ったフィギアを掴む。
が、移動途中で箱を落下させる。
橋田「ああああああ~!うっそだろお前ぇっ~!」
森下、橋田を横に追いやって、
森下「いいから!俺に任せとけってー」
と、操作ボタンを押すが筐体から反応がない。
森下、後ろの小道の方を見ると言う。
森下「おい。これ、クレジット0なんだけど?」
小道、小さい声で答える。
小道「いやもうそれ取れなくていいよ……」
森下、イラっとした感じで答える。
森下「いやいやいや!ここで諦めるんかい!?」
橋田、小道に近づいて、肩を小突くと顔を近づけ睨みながら言う。
橋田「お前が欲しいつったから俺らが頑張ってんの!分かんねぇーのかよぉ?あぁん?」
小道、少し橋田との距離を取る様に後ろに下がると、目をそらしポツリと言う。
小道「……僕、別に欲しいって言ってないし……」
森下、小道に近づいて、胸ぐらをつかむと怒鳴る。
森下「あのフィギアを取ってよぉ、売って高値で売って金にすんだよ!そしたらおめぇも得すんだろっ!?」
小道、小さな声で答える。
小道「……分かったよ……」
小道はズボンのポケットから財布を出す。
すると、森下は小道を突き放すように手を放し、言う。
森下「あくしろよ馬鹿が」
橋田「小道ぃ。俺らってWINWINの関係だろ?ハハッ」
小道、小銭で800円を出す。
それを見るや否や森下は小道の手からかっさらう。
森下、その800円を全部、クレーンゲームの筐体の投入口に突っ込む。
橋田も、森下の居る筐体の方に近づいて行きながら、背後で立ちつくす小道へと言う。
橋田「あーさ。スマホの電子マネーも突っ込むから。画面出して準備しとけよー」
茜莉、移動して、小道の背後に少し距離を置いて位置取る。
クレーンゲームに齧りつく森下と橋田の背中と、その後ろで小道が懐の辺りを弄っているのが見える。
茜莉
すると、小道の背中全体から黒い胞子が急に溢れ出て来る。
茜莉「え!……」
ェアィン(ナんだ!?急激に濃度ガ!……)
小道の右手にはカッターナイフが握られている。
それを隠すように腰の方、後ろ手にすると刃をカチカチカチと出す。
溢れ出て来た黒い瘴気は、這うように物凄い物量であっという間に辺り一面を覆いつくし、小道自身も黒い瘴気の塊に包まれてしまっている。
館内の照明が点滅し始める。
ゲームセンターの賑やかな空間が、真っ黒な異空間へと変異していく。
茜莉、ドッグフードをその場に落とすと、小道へと手を伸ばし駆け出す。
茜莉「ダメーっ!!!」
黒い化身となった小道、茜莉へと鬼の形相で振り向く。
~第2話・終わり~
~用語~
・KASSEN
⇒合戦とも。日本のスポーツチャンバラが海外で変化し、鎧の様なプロテクターや攻撃武器にヒットを感知するセンサーを搭載し、体の各部位に斬撃もしくは打撃によって、プロテクター同士を繋ぐ関節部分のパーツにある電磁ロック(ソレノイド)システムで、人体の関節の可動域制限を設け、よりリアルなチャンバラごっこと、複数人による同時対決で戦略を楽しむ歴史は割と浅いスポーツ、競技。
茜莉の高校は現在は進学校ではあるが、以前の商業高校時代に、このKASSENに力を入れていた経緯があって、女子の部活があり、元来生徒数が少な目な男子の部活はまだない。