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HERO-in(e)  作者: とーはく
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第1話

※一般的な小説のように、文章を読み進めることにより映像が脳内を通過していく感覚とは異なり、このお話はいわゆる【脚本シナリオ】の書き方をベースにしております。

ですから、情景をイメージするには読み手様であるご自身が、脳内スタジオで舞台セットを構築し、カメラワーク等をこなす作業が必要となります。

簡単にいうと、読み手様はもれなくこのお話の脳内監督さんになって上映してくださいな。

誤解をおそれずに言うならば、今までの経験で、スマホで動画を撮り、要らない箇所をカットしたり動画編集した経験がおありでしたら、そうソレで十分にこの取っ付き難い物語を読み進める事が出来るはずです。


~主となる登場人物~

 ・一色茜莉イッシキアカリ・高校二年生

 ・ェアィン・茜莉の中の住人

 ・一色幸次イッシキコウジ・茜莉の父

 ・一色楓イッシキカエデ・茜莉の母

 ・富田菜津トミタナツ・クラスメイト

 ・宮下彩ミヤシタサイ・クラスメイト

 ・台場宗孝ダイバムナタカ・部活のコーチ

〇丸内市街(夕)

   薄暮の空に灰色の雲が少しずつ面積を増やしていく。

   高校の夏制服姿の一色茜莉イッシキアカリ、俯きながら一人歩いている。

   道行くの男子学生達、楽しそうに話す二人組の女子学生、サラリーマン等とすれ違う。

   街中にはコミュニティラジオの女性パーソナリティの声が流れている。

ラジオの声《今夜の流星嵐、数十年に一度!まさに一生に一度レベルですからね!私も仕事が終わったら見に行きたいところなんですが、問題なのは今夜、寒冷渦の影響もあって……》


〇同市街・マルウチタワー・外(夕~夜)

   茜莉、他の来塔者の流れと一緒にタワー内へと入って行く。


〇同市街・マルウチタワー・展望室(夕~夜)

   展望室のエレベーターの扉が開き、押し出される様に茜莉が出て来る。

   既に流星嵐を見ようと来塔していた人々が展望室にはひしめき合っており、街並みを望めるガラス張りの展望デッキ前は特にごった返している。

   と、そちらこちらの来塔者から声がする。

来塔者の若い男「えー?もう雨降って来たっしょ?」

来塔者の若い女「雷アラート来てたからねー。最悪ぅ~!」

   茜莉、展望デッキへと歩みを進める。

   来塔者の頭と頭の隙間から夜景が少し見え隠れする。

   一瞬、夜景が白くフラッシュする。

来塔者の男児「わっ!雷?」

   と、来塔者の少年の驚いた声と共に、展望室の照明が消える。

   間髪置かずに悲鳴がする。

来塔者の若い女「キャーっ!」

   どよめく展望室。

   茜莉、非常口の誘導灯が目に入る。

   数秒で展望室の照明、再び点灯する。


〇マルウチタワー・展望室・非常口前(夜)

   非常口の扉のドアノブに手をかけ押し開ける。


〇マルウチタワー・展望室・非常口前(夜)

   背中で扉が静かに閉まる。

   眼前には夜の丸内市街が広がり、雨と風が茜莉の頬を全身を濡らしていく。

   茜莉、非常階段の手すりに手をかけて、革靴を足の踵で脱ぎ捨てると、ソックスの足裏で手すりの上に立つ。

   雨風がより茜莉の全身を体に当たる。

   ピカッと夜空が光り、雷鳴がするが、茜莉には無音。

   茜莉、瞼を閉じると、そのままゆっくりと身を重力に委ねる。

   その時、夜空を割って眩い白光が降下してくる。

   落下していく茜莉。

   その茜莉の先にぶつかる様に来ると、周りの街並み景色諸共にホワイトアウトしていく。 


〇丸内市街(夜)

   街全体に白い光が広がり、ホワイトアウトしていく。

   電車や車、行き交う人々、ビル群、全て白に染まって溶け込んでいく。

   そして光の後には爆発音、轟音が響き渡る。


〇病院の診察室内(午前中)

   制服姿の茜莉と、その母である一色楓イッシキカエデが男性医師と面談している。

医師「退院してから一週間。学校生活はどうですか?」

   苦笑いを浮かべながら茜莉は答える。

茜莉「はい。正直、まだなんとも……」

   楓、前に乗り出すような姿勢で尋ねる。

楓「先生、茜莉の記憶はちゃんと戻るのでしょうか?」

   医師、腕を組み、パソコンに映し出された茜莉の脳のスキャン画像を見ながら答える。

医師「説明した通り、脳内に損傷は見受けられません。以前の生活に戻ってまだ一週間です。記憶というのは時間をかけて積み重なった情報とするならば、これから時間と共に今はまだだとしても思い出していくと信じましょう。お母さんとしても、心配でしょうが、焦らずにやっていきましょう」


〇病院の廊下(午前中)

   廊下の待合室には数人の順番待ちの患者が長椅子に座っている。

   ナースがファイルを持って廊下を歩いていく。

   診察室から茜莉と楓が出てくる。

   茜莉を先頭に廊下を歩いていく二人。

茜莉「やっと昨日、マルとの昔の記憶をふわっと思い出したとこだかんねー。なんと言うか自分でもよく分からないよまだ」

楓「でも茜莉がマルの名付け親だってのは大切な記憶なのよ。だってあなた、『マルチーズだからマル!』って命名したじゃない~」

   と、楓は微笑みながら茜莉に語り掛けた。

茜莉「はははっ。我ながらボキャ貧だわ……。過去に戻ってマルってのをチーズに変えたーい!」

   と、茜莉も小さく笑顔を見せた。


〇病院の駐車場

   一色幸次イッシキコウジが運転席で待つ車に乗り込む茜莉と楓。

   運転席で座席を倒して寝ていた幸次が急いで座席を戻して、

幸次「お、おかえり!」

   と、後部座席に乗り込んで来た茜莉へと言う。

   楓は助手席に乗り込む。

楓「じゃあお父さん、茜莉の学校までお願いねー」

   幸次、シートベルトを締めながら言う。

幸次「医者のセンセー、何だって?」

   楓、シートベルトを締めながら答える。

楓「……時間をかけて頑張りましょうって」

   茜莉、少し憂鬱そうに、

茜莉「自分の意志で戻らないのを、どうやって頑張れっていうのよもぅ~」

   と言って、後部座席に寝そべる。

幸次「じゃ、学校まで送っていくぞー。ベルト締めろ~」

   車は駐車場から走り出していく。


〇丸内高校・二年三組・教室内(授業中)

   教室内には三十人の生徒が居り、着席し従業を受けている。

   教壇では女教師で担任の吉沢先生が国語の授業をしている。

   茜莉、窓の外の青空をぼんやりと見つめている。

   青空をゆっくりと雲が流れて行く。

茜莉(あの日。空から隕石が落ちて来て、地上付近で大きな爆発をした。そのニュース映像も何度も見た。あの衝撃に巻き込まれた私は吹き飛ばされて、記憶の一部を忘れてしまった。単純に言えばそういうこと……)

吉沢「では青田君、42ページ、2つ目の段落から読み始めて、いいと言うところまで読んでください。いつもみたいな小さな声じゃダメよ~」

   生徒の青田、椅子を立つと、小さな声で朗読し始める。

   茜莉、引き続き物思いにふける。

茜莉(忘れていない記憶と忘れた記憶。運よくこうしていられるけど、何かこう何かこう……大切なことがあった気がするんだ……。ちゃんと思い出せるのだろうか?……)

   と、茜莉の脳内にェアィンの微かな声がする。

ェアィン〈……すまnい〉

茜莉「ふぇっ!?……」

   と、驚いた声が青田の朗読よりも教室内に響き、クラス全員の視線が茜莉に集まる。

   吉沢、問い掛ける。

吉沢「茜莉さん……?どうかしたの?」

   茜莉は顔を赤く染め、返す言葉が浮かばず口をモゴモゴとさせる。

吉沢「大丈夫?何だか顔が真っ赤よ?体調が優れないなら保健室に行ってもいいのよ?」

   と、吉沢は心配そうに問い掛ける。

   茜莉、席を立ちあがって、

茜莉「あっ!いえ!だ、大丈夫ですっ!はいぃ!」

   と答えると、椅子にスッと座る。

   教室内にちょっとした笑いが沸き起こる。

   その様子を見て、茜莉の席とは反対の廊下側の席に座る宮下彩ミヤシタサイもニヤッと笑う。


〇教室内(昼休み)

   教室内では、各々に昼食休憩中である。

   女同士で席を突き合わせて弁当を食べる四人組、男友達の机の上に半分腰掛けながら、その席の男子生徒とパンを食べている者。

   茜莉は自分の席で一人、小さな二段弁当を広げると、食べ始める。

   その茜莉の前の席の富田菜津トミタナツが振り返って、後ろの席の茜莉を見て言う。

菜津「茜莉ちゃん。一緒に食べよ!」

   茜莉、唐揚げを半分齧った状態で二回頷く。

   菜津、自分の机を後ろへと反転させ、茜莉の机の前にくっつけると、自分の弁当を広げる。

   そして、茜莉の顔を見てニコッと微笑む。

菜津「どう?私の事、また少しくらいは思い出してくれた?」

   と、菜津は自分の弁当のタクアンを、茜莉の弁当箱に箸で移しながら言う。

   茜莉、口の中の唐揚げをモグモグし飲み込むと答える。

茜莉「いっつも漬物を押し付けてくれる人」

菜津「ちょっとぉっー!」

   と、笑顔が弾ける菜津とそして茜莉。

茜莉(菜っちゃんが友達でよかったぁ)

菜津「茜莉ちゃんはねタクアンより小ナスの漬物がいっちゃんすきだったんよー」

茜莉「そう?……だったっけ?」

菜津「そう!もうちょっとしたら小ナスの時期なんだ。あ、あたしんち漬物屋だって憶えてる?」

   と、タクアンを口に運ぶ菜津。

   茜莉、左上を見やりながら答える。

茜莉「うん。最近、めっちゃ聞かされてる呪文かなってくらいに」

   菜津、口の中でポリポリ音をさせながら、

菜津「ごめんねー。そんなつもりはなかったんだけど」

   と、小さく笑う。

茜莉「ううん。私と弁当突き合わせてくれる人がいたって事がサイコーだよっ!」

   菜津、茜莉により顔を近づけるようにして言う。

菜津「ほんじゃあ、放課後、いよいよKASSEN部にも顔出してみる?」

   茜莉、目をそらし戸惑いながら、

茜莉「う、うん」

   と、答える。

茜莉(なんとなーく避けてたけど、何か思い出せる……かな?)

   彩の視線、茜莉と菜津の二人を捉えている。



〇第二体育館(放課後)

   第二体育館では、入って手前は剣道部、奥がKASSEN部の部活エリアとなっている。

   それぞれの部活エリアでは、部活のジャージ姿の一年生達(十人程)が、床のモップ掛けをしている。

   剣道部には防具をつけた者、KASSEN部にはプロテクターを装着した者がチラホラ見える。

   館内、菜津を先頭に付き添われた茜莉が入って来て、剣道部の脇を通って、奥のKASSEN部のエリアへと入ってくる。


〇第二体育館・KASSEN部エリア

   茜莉、KASSEN部の周囲をキョロキョロしながら呟く。

茜莉「わー。こんなんだったかー……」

   菜津、後ろからついてくる茜莉に言う。

菜津「コーチに先に挨拶しとこうね。今日から復帰しまーすって」

   菜津を先頭に二人、スポーツグラスをしたKASSEN部コーチの台場宗孝ダイバムナタカの横に来ると、菜津が話しかける。

菜津「コーチ!一色さん連れてきました!」

   と、茜莉を引っ張って台場の前に連れ出す。

茜莉「……お、おはようございます!こ……コーチ!」

   と、頭を下げつつ言う。

   台場、スポーツグラスを一瞬あげて戻すと、茜莉を見て言う。

台場「おお一色!部活に来ても大丈夫になったのか?」

茜莉「はい。病院の先生からは特に何も言われてはないので……是非ともというかなんと言うか……きっかけが欲しいなって」

   台場、腕組みしながら話す。

台場「そうか。隕石被害の事情はそれなりに聞いてはいる。ほら、あそこの端っこで練習している宮下もそうだったと」

   台場の視線の先、KASSENのプロテクターをフル装備した彩と一年生の後輩が一対一でソードを武器に打ち合いの練習をしている。

茜莉「宮下さん……?」

   茜莉、引っかかるような表情で頭をかしげる。

台場「宮下は一色と同じクラス。そして同じ隕石被害の当事者だろう?」

茜莉「えっ!……」

   と、驚く茜莉。

茜莉(同じクラス……?)

   茜莉、後ろを振り向いて菜津の顔を見やる。

   菜津、少し気まずそうに話す。

菜津「……宮下さんも記憶がないらしいから、一気に思い出させるより……ほら、少しずつでいいかなって思って……ごめん」

茜莉「……」

   台場、組んでいた腕をほどき、腰に手を当てると二人に言う。

台場「富田、一色とプロテクター装着してこい」


〇KASSEN部・部室内

   隣り合ったロッカーの前で、制服から部活のジャージ姿に着替え中の茜莉と菜津がいる。

   その後ろを奥の倉庫からプロテクターを装着した女の三年生の先輩が、

先輩「よっす~!」     

   と、二人の背中に投げかけて通り過ぎていく。

   茜莉と菜津、その先輩の方を振り返って、

茜莉&菜津「おつかれさまです!」

   と、頭を下げつつ返事する。

   再び二人きりになり、茜莉がぽつりと言う。

茜莉「宮下さん……って、私と同じ記憶障害なの?」

   着替えつつ、答える菜津。

菜津「知っての通り、丸内駅周辺も隕石の爆風を受けてて。走行中の電車。その中にうちの生徒も沢山乗ってたんで、その一人だったみたい」

茜莉「……そうなんだ」

   菜津、ジャージのファスナーを挙げながら聞きにくい感じで茜莉に尋ねる。

菜津「あのさ。茜莉ちゃんの記憶ってさ……厳密にさ、どっからどこまで無いの?」

   茜莉、着替えの手が止まる。

茜莉「厳密っていわれても……。高校から中学?までの範囲っぽいんだけど。だからといってそれがまた全部全部という訳でもなくってさ……」

   菜津、着替えは済んでロッカーの扉を閉めて言う。

菜津「そっか……」

   茜莉、上の方を見ながら言う。

茜莉「でもさー……なんだか気持ち悪いっていうか、変な気持ち?なんだよねぇ……。今日、国語の授業中なんかさ、誰かの声が頭の中に急に聞こえたっていううかさぁ……」

   菜津、茜莉の方を向いて尋ねる。

菜津「誰かの声?」

   茜莉、菜津の方を見て手を顔の前で振りながら、

茜莉「あー、う、ううん……。気のせいだと思う。後遺症ってヤツ?知らんけど!」

   と言って、茜莉は笑って見せる。

   菜津もつられて笑顔になりながら答える。

茜莉「ちょ!知らんけどってー!自分の事でしょうがー!」

   二人笑いあう。

菜津「じゃあ、着替えたら倉庫でプロテクターつけるよ~」

   と、菜津は着替え途中の茜莉より先に奥の倉庫へと向かって歩く。


〇KASSEN部・部室奥・プロテクター倉庫

   薄暗い照明で照らされた倉庫内には、KASSENの練習用プロテクターが頭用から腕用、胴体用、脚用、武具共々に沢山置いてある。

   先にヘッドギアだけは残してプロテクターを着けた菜津が茜莉の面倒を見ている。

菜津「サイズはМねー茜莉ちゃんは。って、つけ方はどう?」

   茜莉、慣れた手つきで脚にプロテクターを装着しながら答える。

茜莉「大丈夫。脳が知ってますって言ってる」

   と、笑顔で返す。

菜津「さすがっ!茜莉ちゃんは私より経験が長いし、小学生からKASSENやってたんだもんねー!じゃあわかんないことあったら聞いてちょ。見ててあげるからさ」

   茜莉、プロテクターを胴体にも装着し始める。

   すると、突然、倉庫の照明が消える。

   倉庫の入り口扉から、ロッカーからの光が漏れている。

茜莉&菜津「きゃっ!」

   と悲鳴をあげる二人。

菜津「ちょっとーやめてよー!誰!?」

茜莉「間違って消されたかな?」

菜津「あたしが点けてくるよもう……まだ中に人がいr……」

   と突然、茜莉の脳内にキーンとした耳鳴りがし、共にツーンとした頭痛が襲い、菜津の声が入って来ない。

   目を瞑り、頭を押さえてその場にうずくまる茜莉。

茜莉(……っ!)

   その茜莉の脳内にェアィンの声が響く。

ェアィン〈きをつけrんdっ!〉

茜莉「えっ!誰!?」

ェアィン〈ちかくに……る〉

   茜莉、ふらつきながら立ち上がると頭を押さえつつ扉の方へと歩いていく。

   と、照明が点いて、菜津が茜莉の方に戻って来る。

菜津「信じらんない!誰かが消したみたい!」

   菜津、茜莉の様子を見て尋ねる。

菜津「って、大丈夫っ!?どっかぶつけたん!?」

   茜莉、無理やり笑って見せて、

茜莉「あ、うん、大丈夫っ……」

   と、菜津に答える。

茜莉(今度、病院で先生に相談しよ……)



〇第二体育館・KASSEN部エリア

   フルプロテクター姿でヘッドギアのバイザーを跳ね上げた状態の茜莉と菜津が、台場の前に並んで居る。

   台場、腕を組みながら茜莉に尋ねる。

台場「宮下の件もあってだ。確認しておく。一色はKASSENのルールはどの程度まで憶えている?」

茜莉「はい!勿論全部ハッキリと憶えて……て?」

茜莉(……あれ?)

   茜莉、左上を見やり止まる。

菜津「茜莉ちゃん?」

   茜莉、台場の方を見直しつつ、

茜莉「……憶えているはず……なのに何だろう……思い出せない」

   と、呟く。

   台場、茜莉の顔を見ながら尋ねる。

台場「インデックスは確かにそこにある。しかしだが辿るとそこには何もない。そういう感じか?」

   茜莉、眉をひそめつつ答える。

茜莉「そんな感じとも言えます……」

   台場、奥で練習している彩をスポーツグラスの視界に捉えながら語る。

台場「隕石被害者の記憶障害は、そういう傾向が見受けられると今朝のニュースでも言っていてな。現にウチの宮下がそうだと思っている」

   台場、スポーツグラスに茜莉を捉える。

台場「分かった。一色は、宮下同様、一年生とペアで別メニューがいい」

   と、台場、菜津にも視線をやってから言う。

台場「富田はグレイブでチーム練習だ」

茜莉&菜津「はい!」


〇第二体育館・KASSEN部エリア・奥

   彩と一年生が、フルプロテクターで武具のカタナで打ち合っている。

   その少し脇、台場と茜莉が会話をしている。

台場「KASSENは簡単に言えばだが、隣の部活の剣道を、両チーム五人ずつ合計十人で合戦する競技だと思えばイメージしやすい。勝敗自体は、敵陣の旗を先に落とした方が勝利。元は日本のスポーツチャンバラが海外で、プロテクターにセンサーを内蔵させて、部位損傷等の概念変遷を経て、逆輸入の形で日本で盛んになった、どちらかといえば新しいスポーツだ」

   台場、近くの一年のバイザーを跳ね上げたフルプロテクター姿の吉田芽衣ヨシダメイを見て呼ぶ。

台場「吉田。一色に付き合ってやれ。宮下と安藤のやり方でいい」

   芽衣、茜莉に一礼すると言う。

芽衣「あっ……はい!一色先輩、お願いします!」

茜莉「ごめんね。吉田さん……?ちょっとやれば思い出せると思うから!お願いね~!」

芽衣「はい!」

   彩、後輩との練習を止めると、茜莉の方へ近づいて、ヘッドギアのバイザー上げて言う。

彩「一色……さん?だっけ?あーしと同じクラスだよね?」

   茜莉、ちょっと戸惑い気味に返事する。

茜莉「あ……うん」

   彩、笑顔で言う。

彩「がんばろ!同じ境遇同志さ!」

   と突然、茜莉は手に持っていたヘッドギアを落とし、苦し気に両手で頭を押さえ、へたり込む。

茜莉「っ!……」

   心配そうに彩が近づいて話し掛ける。

彩「ちょっ!大丈夫っ?」

   芽衣も近づいて心配そうに言う。

芽衣「え?一色先輩……?」

   茜莉、今度は胸を押さえながら立ち上がって急に駆け出す。

茜莉「ごめんちょっとトイレっ!……」

   茜莉の視線の先には第二体育館のトイレ。


〇第二体育館・女子トイレ

   手洗い場で、蛇口から水が流れ続けている。

   鏡に両手をついている茜莉は俯いて、流れる水を見ている。

茜莉(私……どうしちゃったの……?)

   水は流れ続けて、排水溝へ吸い込まれていく。

   すると、蛇口からの水の流れが段々とゆっくりとなり、やがて水の流れを保ったまま水の柱の様に固定される。

   茜莉の脳内にはっきりとェアィンの声が聞こえる。

ェアィン〈ウしろダ!〉

   茜莉、鏡の中の自分と目が合ってから、後ろを振り向く。


〇第二体育館・女子トイレ・異空間

   さっきまでトイレの景色とは異なり、紫色の暗い異空間に瘴気が漂い、隅々は紫色の瘴気溜まりがある。

茜莉「な……に……?」

   背後の手洗い場によろけそうになる茜莉。

   と、奥のトイレの個室の方から少女のすすり泣く声が聞こてくる。

   茜莉、その方向を凝視し動けないでいる。

ェアィン〈コの空間は支配された空間ダ。伝わるかなこの表現デ?〉

茜莉「……待ってっ。追いつてないの頭がっ……」

   ェアィン、間髪おかずに茜莉の脳内で語り掛ける。

ェアィン〈今は説明を省きたイ。キミの思考にアクセスし続ける行為。マだ未熟なんダ〉

茜莉「……?」

   その場で固まった茜莉の額から汗が一筋流れる。

ェアィン〈簡単にいこウ。生きたいって願うよネ〉

茜莉「……生きたいっ」

   と、声は小さいが力強く答える茜莉。

ェアィン〈サえた生き方しよウ〉

   すすり泣く声、一層大きくなる。

   震える茜莉。

ェアィン〈恐れるナ!ボクに預けてくレ!〉

   茜莉、首を振ってへたり込む。

   その茜莉へと、トイレの個室から伸びてきた紫色の触手は、茜莉の首に結び付くと人の手の形に変化し、ギュッと締め上げる。

   そして、首から茜莉の全身へとに向かってゆっくりと紫色の侵食域を広げていく。

茜莉「っ!……」

ェアィン〈勇気なんダ!ソれ一つで!救えル!〉

   茜莉、苦しそうな顔をし、白目を薄っすらと見せる。

   意識が朦朧としていく。

   茜莉の脳内に黒い男性のシルエットが浮かび、

橘蓮人タチバナレントの声《アカリンって呼んでもいいかな?》

   と、声がこだまする。

   茜莉の脳内に電撃が走り、茜莉は白目から、ハッキリとした目をして眼をかっ開く。

茜莉「……っ!」

   ェアィン、茜莉の脳内に呼びかける。

ェアィン〈ボクもアカリンって呼んでいイ?〉

   茜莉、見開いた瞳をうるわすと、首をつかむ触手の手を強く握り返す。

茜莉「……なんで?……なの?嬉しくて悲しくて……私っ……」

   茜莉の見開いた目から涙が零れる。

   茜莉の体は、眩く大きく発光すると、巻き付いた触手と侵食を一瞬で消滅させ、紫の異空間を一瞬真っ白に照らし出す。

   発光がさめると、そこにさっきまで居た茜莉の姿は変貌し、雄々しい金属光沢した白亜の剛体が崛起している。

   ェアィン、白亜の剛体で語る。

ェアィン「ごめン。イチかバチかで、キミの中の暗闇にアクセスしタ」

茜莉(あのね、とてもとても大切な思い出がフワッと過ったの……。私の記憶の中の大切な誰か……)

   ェアィン、胸に右手を当てる。

ェアィン「アとはボクに任せテ」

   トイレの個室から、紫の瘴気を纏った人影が泣き声を上げながら勢いよく出て来る。

   同時にそのェアィンへと、伸びてくる二本の触手。

   ェアィンはそれを両手でガシッとつかみ取ると、一気に自身側へと引き寄せ、かつ跳躍力で一気に前進し、そのままの勢いで本体の影を殴りつける。

   ドォン!とした衝撃と共に、吹き飛ばされて、壁の闇の中へと消えていく影。

   続いて間髪おかず、四方八方の闇の中から触手現れ、ェアィンの四肢と頭部を捉えて引きちぎろうと引っ張り始める。    

   ェアィンは捉えられたまま全身から白く発光すると、一瞬でそれらを消滅させる。

   そして、ェアィンは跳躍し、壁の闇の中へと突っ込んでいく。


〇第二体育館・女子トイレ・異空間・奥

   上下左右もない暗闇で、制服を着た少女が奥の方で三角座りで泣いている。

   顔の周りにはより濃い紫の瘴気がかかっている。

ェアィン「キミだったんだネ」

   ェアィン、ゆっくりと歩んで少女の方へ近づいていく。

   そして少女の目の前でしゃがむと語り掛ける。

ェアィン「モう泣かないで。辛かったんだよネ。でももういいんだヨ。キミがここの淀みの核になることなんてないんダ……」

   ェアィン、少女を優しく両手で包み込むと、少女を白い光に変えて霧散させる。

   茜莉、脳内のェアィンに尋ねる。

茜莉(なに?……これ……)

ェアィン「浄化だヨ。コこに巣くうあの子を救ったんダ。とてもとても優しい子だっタ」


〇第二体育館・女子トイレ

   蛇口から出続ける水の流れの音。

   茜莉はハッとそちらに視線をやる。

   排水溝に向かって水が流れ続けている。

茜莉「っえ?私?……」

   鏡を見る茜莉。

茜莉「泣いてる……」

   

~第1話・終わり~

~用語~

 ・KASSENカッセン

  ⇒合戦とも。日本のスポーツチャンバラが海外で変化し、鎧の様なプロテクターや攻撃武器にヒットを感知するセンサーを搭載し、体の各部位に斬撃もしくは打撃によって、プロテクター同士を繋ぐ関節部分のパーツにある電磁ロック(ソレノイド)システムで、人体の関節の可動域制限を設け、よりリアルなチャンバラごっこと、複数人による同時対決で戦略を楽しむ歴史は割と浅いスポーツ、競技。

茜莉の高校は現在は進学校ではあるが、以前の商業高校時代に、このKASSENに力を入れていた経緯があって、女子の部活があり、元来生徒数が少な目な男子の部活はまだない。

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