精子の恩返し
「話しかけんな。バカ兄貴」
「あんたのせいでどれだけ私たちが肩身狭いか知ってるの?」
「あんたは失敗作だわぁ」
「いっそ死んでご先祖様に詫びてきたらどうだい?」
「び。びぇぇぇん!」
裕行様は妹、姉、母、祖母に酷い言葉を投げ掛けられ泣きながら自室に戻ってらっしゃいました。偉大なる裕行様にあのメス達はなんてことを。下等なメスには超雄である裕行様の尊さが理解できぬのでしょう。裕行様に父親はおりません。雄は裕行様のみ。あんなメス4匹に言われ放題。せめてあと一人雄がいれば……
嗚呼。自己紹介が遅れました。私。裕行様の陰毛に住み着く精子でございます。
精子は空気に触れれば数時間で死滅するのはあなた方の常識。選ばれし超雄である裕行様の自慰によってこの世に放たれた『私たち』は裕行様の暖かなる陰毛の中でもう一年ほど生きております。お優しい裕行様は私たちの事を気遣って下さっているのか風呂にほとんど入りません。たまにシャワーは浴びられますが、私たちは陰毛の根にしがみついているので湯に流されることはありません。たかだか精子にここまでしてくださる裕行様。私たちは恩返しがしとうございます。
「もう我慢できぬ」
「同感だ」
「今こそその時」
「仕方ありませぬ……な」
我ら強い絆で結ばれた精子四天王。別れは辛いですが裕行様の為なら仕方ないでしょう。それにすぐに再会できる。精子達にも裕行様にも。
我々は裕行様の排便中に便座に着陸しました。
そしてあいつらを待ったのです。
さぁ裕行様。あいつらが所詮はメスだというのを思い知らせてあげましょう。
あなたの味方にならせてください。
・
「なんで!?私処女だよ!?」
「っざけんな!私は避妊ちゃんとしてたぞ!?」
「……覚えがない。覚えがないのよ」
「嘘……じゃろう?とっくにあがっとるのに」
・
四人の赤ん坊が今始めて言葉を話そうとしている。母親達は確信していた。
彼らの第一声は『ママ』であることを。
だが。赤ん坊達は母親ではなく男を見ていた。
『ひろ……ゆき……さま』
「えっ?俺?」
泣き叫ぶ母親。青ざめて膝をつく母親。現実を受け入れられず笑い出す母親。放心する母親。
(さぁ裕行様。我々雄の反撃の時ですぞ)