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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

高校時代の『豚(トン)でる鳶田くん』が「くれないの?ブタ」というレストランで同窓会を企画してくれた夜のこと

作者: 山神ヤシロ

ロクな思い出がない高校時代の

同窓会の通知が来て、


「誰が行くか」と思ったけれども、


会場が「くれないの?ブタ」という

風変わりな名前のレストランだったので、

ちょっと面白いかも、と思い直し。


事前にネットで調べたところ。


マンガ調に描かれたブタが、

「ボクを食べて、くれないの?」と

首を傾げているロゴの店であり、


牧場から直送の豚肉を使った

ソーセージやハムを

食べさせてくれる新店だとか。


「おいしそう」と

思ったわけでもない。


ただ、なんとなく、

「僕は行くべきだ」という

予感がしたのだ。

そうとしか言えん。


で。


10年ぶりくらいで、

地元の駅に降り。


ハガキに書かれていた地図をもとに進むと、

なるほど、『くれないの?ブタ』と

ケバケバしく描かれた店がある。


いやしかし、これは、

なんというか、、、

どうも、趣味の悪い外観だ。


入口は鉄扉のような意匠の

自動ドアとなっており、

外から中は見えない。


その自動ドアの上には、

にっこりと笑っている豚の顔の

巨大看板が置かれている。


その看板の豚、

なぜか血のりが

頭に点々とついており。

レストランというより

お化け屋敷のようだ。


「ミノルじゃねえか!」

看板を見ていた僕の後ろから、

そう、僕の名を呼ぶ声がして。


振り返ると。


高校時代に仲の良かった

三人組、

タカシとシンジとテッペーが

並んで立っていた。

おっさん化が進んでいたが、

見れば、すぐにわかった。


「よかった!

知っている奴がいてくれて

安心したよ」

タカシが言った。

「オレらもこの店は

初めてでさ。

他の奴らはまだ来てないのかな?

先に入って、

待っていようか?」


そういうわけで、

タカシとシンジとテッペー、

そして僕の四人組は、

鉄扉をデザインした自動ドアをくぐる。


「いらっしゃいませ」と

迎えてくれた従業員たちは、


全員、ゴムの豚のアニマルマスクを

すっぽりと頭にかぶり、

その下に、

ウェイターは黒スーツに、

なぜか血のりの点々とついた

白ネクタイ、

ウェイトレスは黒制服に

なぜか血のりの点々とついた

白エプロンという格好で。


なんだかこれ、

レストランというよりは

ホラー風味の仮装バーみたいな。


ともあれ、我々は、

個室に案内される。


店長らしい、

やはりブタのアニマルマスクをつけた

スーツ姿の、やけに恰幅のよい男が出て来て、

「ようこそおいでくださいました。

今日はオオグチのお客様ですので、

店長の私が給仕をさせていただきます」

と挨拶した。


「他のみんなはまだ来ていないのかな?」

タカシが店長に声をかける。


「はあ。ですが、

時間ですので、

まずは皆さま四名様からでも、

コースを始めましょうか」


「そうだね。ゆるゆる、

持って来ちゃってよ」


「では」


ブタマスクをつけた店長は、

個室を去っていく。


まもなく。


やはりブタマスクをすっぽりと

かぶったウェイトレスたちがはいってきて、

僕ら四人のグラスに

ビールを注いでくれた。


とにかく四人で、先に乾杯。


「ところで」

テッペーが口を開いた。

「今回の同窓会の幹事、

誰だか知ってる?」


「ああ。ハガキの差出人みたよ。

鳶田(とびた)だってな?

あいつ、高校の時に、

あんなにひどいいじめを受けて、

よく、同窓会を開く気になったよな!」

シンジが言う。


「トンでる鳶田(とびた)ってのが、

あいつのアダナだったな。

で、『トンでる』の『トン』は、

ブタにかかっている、と。

デブで、臭くてさ」

タカシがクスクス笑いながら、言う。

「顔がたしかに、ブタに似てたんだ。

だから、『(とん)でる鳶田(とびた)』。

オトナになった今思えば、

ひでえことをしていたな」


「でもさ、あのアダナは、

ケンコバがつけたんだろ?」

テッペーがふと思い出し、そう言う。

ケンコバというのは

僕らの担任の名前だ。

芸能人のケンコバになんか似てたので、

そう呼ばれていた。


「ひどい先生だったよな!」

シンジが、ビールを飲みながら、

うんうんと、相槌を打つ。

「あいつが、率先して、

鳶田(とびた)のことを入学初日から、

『お前、なんだあ?だらしなく、

ブタみたいに太りやがってよお』って、

みんなの前で鳶田(とびた)

からかったんだっけ。

あいつがそう言ったから、

鳶田(とびた)のアダナは

入学初日から決定」


「今だったら、ネットでさらされて

大問題だよな。

でも、ああいうクソみたいな先生が、

まだ残ってたよな」

タカシも、相槌を打つ。

「あいつの言い分だと、よく、

鳶田(とびた)みたいな、

ココロが男らしくない奴は、

みんなで厳しく詰めて、

精神を鍛えてやるべきなんだ』とか、

ひでえことを言ってたな。

でも、あれが、いい指導だと、

勘違いしてたんだな」


僕はふと気になり、

三人に聞いてみる。

「今日は、ケンコバも来るのかな?」


「え?ミノル?お前、知らないの?

ケンコバって、五年くらい前に

突然、失踪したんだぜ。

もともと素行が悪くて

ギャンブルの借金があったから、

そのせいだろって言われてるけど。

その後、いっさい、

誰もみてないんだ。

地元では、けっこう、

フシギな事件として話題になったもんだぜ」


個室のドアが開き、

ブタマスクをかぶった店長が、

四人の前に、

赤黒い色の肉塊がレタスに巻かれている、

オードブルの皿を置いた。


「五年をかけて、

運動ができないように閉じ込めた場所で

決まった果物ばかりで栄養を摂らせ、

肝臓を肥大化させてから摂った、

レバー料理となります」


タカシとシンジとテッペーは、

ビールを飲みながら、

レタスに巻かれた珍味を食する。


「おお、ほんとだ。

すごいまろやかな味がする。

こんなレバー、初めてだ!」

三人とも、互いに、頷きあう。


「ミノルは、食べないの?」


「僕は、、、いいや、、、」


「なんだ?ブタ料理、もしかして苦手?

じゃあ、オレらにくれよ」

三人は、ミノルの分のオードブルもシェアし、

みるみる、たいらげてしまった。


「にしても」

オードブルの皿が片付けられると、

タカシが口を開いた。

「男子たちもひどかったな。

みんなで調子に乗って、

毎日毎日、鳶田(とびた)

ひどいことばかりして。

あれが結局、

3年間、続いたんだぜ!

よく鳶田(とびた)のやつ、

不登校にもならずにやってたよな」


「夢があるんだって言ってた」

僕が、静かに言う。

「お父さんが牧場主らしくて、

それを継いで、牧場を大きくしたいって。

死んでも、這ってでも

高校を卒業して、農大へ行くってさ」


「そっか、ミノル。

お前は、鳶田(とびた)

唯一、仲よかったもんなあ」

タカシが言う。


「まあ、俺たち三人組も、

鳶田(とびた)へのイジメには

加わらなかったけどな」

と、シンジ。


「オレら三人はオタク扱いで、

どちらかといえば

いじめられるほうだったし」

と、テッペーもしみじみと言う。


それを受けて、僕も言う。

「僕もクラスの中では、

ハジキだった。

だから鳶田(とびた)

僕には心を開いて、

いろいろ話してくれることがあった」


「あとの男子は、

全員、鳶田(とびた)のことを

集団でいつもボコボコにしてたな。

大勢で寄ってたかって。

ひどかった」

タカシが首をふりふり、言った。

「にしても、鳶田(とびた)のやつ、

無事に農大を出て、

牧場を継いだんだろうか?」


個室のドアが開き、

ブタマスクをかぶった店長が、

ハムやソーセージの載ったトレーを

持って入ってきた。


「今朝、牧場で屠殺したばかりの、

ハム、ソーセージの

盛り合わせとなります」


「おお、すげえ量!」

タカシたち三人は、大喜びだ。


「ミノル、ぜんぜん

食べないんだな?」


「うん、、、ちょっと

こういうの苦手で」

僕はどんどん、気分が沈んでいく。


「それにしてもさ。

いちばんひどかったのは、

女子どもだったんじゃないか?」

シンジがそう言うと、


「そうだよな。

男子たちがふざけて、

修学旅行で、みんなの前で、

鳶田(とびた)のパンツまで

下ろしたとき、

女子たちの誰かが、

『うちの弟よりちっこい』って叫んで、

女子が全員、ゲラゲラ笑ったよな。

あれは、鳶田(とびた)にとっては、

最悪のトラウマだったろうな」

と、テッペーが受ける。


「俺たち三人組は、

加わらなかったけどさ」

タカシが言う。


「けど、僕も含め、

助けにも行かなかった」

僕が小さい声で、

そう付け足す。

「あのあと、何かの時に、

鳶田(とびた)が言ってたよ。

僕や、君ら三人組のことについて、

なんの恨みもない。

とはいえ、信じてもいないって」


「うわあ、そうだったのか。

きついこと言われてたんだなあ」

タカシがふうっとため息をつき、

「そういや今日は、

女子たちも来るのかな?」


そこへ、個室のドアが開き、

ブタマスクをかぶった店長が、

湯気を立てる肉料理を持って

入ってきた。

「アルゼンチン式の、

血を使った黒ソーセージです。

屠殺したたくさんの頭数から

血を集めないといけない

希少料理でございます」


「おお、すごい!

これは珍しい料理だねえ!」

三人互いの皿に、取り分ける。


「あなたは、

召し上がらないのですか?」

ブタマスクの店長が、僕に言う。


「ええ、その、、、

すいません、こういう料理、

苦手でして」


「そうですか。

苦手なら、食べないほうが

よろしいですよ。

店長である私が言うのもなんですが」

ブタマスク店長は、

そっと顔を寄せてきて、小声で、

「人によっては、あとから、

気持ち悪くなるかもしれませんからね」

と言った。


*****


結局、他のクラスメイトは

誰も現れなかった。

それどころか、

幹事のはずの鳶田(とびた)

姿を見せなかった。


「なんかシラけるなあ。もう帰ろうか」


タカシとシンジとテッペー、

そして僕は、これ以上、

待つのをやめて、店を出ることにした。


ブタマスク店長が、

最後に、言う。


「皆様、今日の集会は

どうやら残念だったご様子で。

あ、でも、お会計のほうは結構です。

鳶田(とびた)様が、

事前に調整いただいてくれましたので」


「なんだ?鳶田(とびた)のやつ、

来なかったくせに、

そこはちゃんとしてんだな」

タカシが不機嫌そうながらもそう言う。


ブタマスクの従業員たちに

見送られて、僕らは

レストランを後にする。


タカシたちと別れたあと。


僕は、コンビニでタバコとライターを買い、

駅前の喫煙所で駆け込んで、

数年ぶりくらいに、タバコを吸った。


タールの強い、銘柄を、

すべてを忘れられるように、

たくさん、咳き込むまで、

目の前がぐるぐる回るほどに、吸った。


「、、、アルゼンチン式ってのは

アドリブだろ?

適当なこと言ってんじゃねえよ」

誰もいない喫煙所で、僕はそう、

ガマンできずに、いまさら、

ツッコンでおいた。

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